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竜の手袋

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

1-015


――竜の手袋――


 キララとお兄ちゃんは約束の日に革装品の店を訪れると手袋が出来ていた。


「いらっしゃい、注文どおりに出来ていると思うがどうかな?」

 持ち出してきた手袋をはめてみる。

 キララは赤、お兄ちゃんは青の着色をしてあった。

「やはり竜神様の爪では少し丈夫に作らないとまずいのでね、少し固いかもしれないな。」

 確かに少し硬かったが爪を伸ばして手袋に入れても突き破る事はなかった。


 試しにそれで色々なものを掴んでみたが特に革が破れる事もなく使える事が分かった。

 ただ竜の手は小さいものの爪を開くと結構な大きさになり、爪で手袋を破らない様に詰め物がしてあったのでまるでグローブをはめた様な格好になってしまった。

 それでもこれで安心して人の前でも手を開くことが出来ると2人共大喜びであった。

 早速サキュア達に手袋を見せに行くことにした。


 手袋をした2人の竜は体は大きいもののなんとなく愛らしさが増していた。

「お2人共よくお似合いですよ。」

「キララお姉ちゃんすっごく可愛いよ。」

 2人に言われご機嫌の2柱である。

「さわっていい?」

 遠慮がちにキララが聞いてくる。

「はい、どうぞ。」

 キララがサキュアの頬に手を当ててさすってみる。


「いかがですか?」

「サキュアちゃんのほっぺってこんなにちっちゃいんだ。」

 ユキの時は非常事態なので抱えて来たがそれ以後は傷つける危険が有るために直接に手で触った事はない。

 学校に通っていた時にその危険性には十分気付かされていた。

 それ故に人に触ることにいささか用心深さ隠せないキララであった。

 恐る恐るサキュアの顔に触ってみてなんとも無いことを喜んでいた。


「触られた感じはどうかしら?」

「少し固いですが我慢できる範囲です。」

 キララの目が嬉しそうに笑っていた。

 お兄ちゃんは同じ様にユキの顔に触ってみたがユキも嫌がらずにそれを受け入れていた。

 すごく嬉しそうな顔をする2柱、早速2人を連れ出してのお茶会である。


 ところが2人を抱いたままケーキ屋にまで飛んできた、そこで事故に遭遇してしまった。

 店に入ろうとした矢先に道の向こうから走ってきた獣が馬車に跳ねられてキララ達の足元に転がってきたのだ。

 跳ねた馬車は獣だと確認すると舌打ちをしてそのまま行ってしまった。

「ひどいっ、跳ねた獣を放って行くなんて。」

 珍しくユキが感情を顕にする。

 その頭の上に例のボールが少しずつ膨れていた。


「だ、大丈夫よユキちゃんあたし達が連れ帰って怪我の手当をするから。」

「そ、そうですまだ生きていますから手当てをすればきっと良くなりますよ。」

 キララ達がそう言うとユキの頭の上のボールがパチンとはじける。

 ほっと胸をなでおろすキララとサキュアである。

 獣は全長1メートル程の黒い体毛を持ち、腹の部分だけ白くなっていた。

 水かきの付いた短い足を持ち前足は指がなく一枚のヒレのようになっていた。


「見たことのない獣だな。魔獣かな?」

「残念ながら私の知識には有りません、やしろに戻れば資料が有るかもしれません。」

 実は街中でも魔獣は他の獣と同様に生息しているのである。

 大抵のものは小型で臆病であり普通の獣と変わることはない、人間の残飯を漁り何もない時は付近の草を食べて飢えを凌ぐ。

 普通の獣との大きな違いはその食性によるものであり他の獣より食性の範囲が広い。


 穀物や草から肉まで何でも食べる。人間の残飯を食べるのはそれが他のものより美味しいものだからである。

 当然獣の間にも縄張りが有り小型の魔獣は犬や猫のような大きな獣の餌食になることも珍しくない。

 犬程度の大きさのこの獣が魔獣だとしても犬との勢力争いに負けたのであろう、体中に細かい傷を沢山負っていた。

「この子は私が連れて行くわ。」

 ユキが抱いて行くと言い張ったがもし獣が目を覚まして暴れると空中から取り落とす危険が有る。

 その点キララでが抱いて行くのであれば問題はない。


「それじゃあ2人はボクの背中に乗っておくれ。」

 キララが獣を抱き上げるとお兄ちゃんは背中に2人を乗せて巣に向かって飛んでいった。

 途中サキュアはやしろによって薬箱を取ってから巣に戻って行った。

 巣に戻ると藁の上に怪物を寝かせたキララが待っていた。

 獣は意識が無かったがとりあえずサキュアは表面の怪我をしている部分だけの手当を始めた。

 

「馬車に跳ねられた怪我も有りますが体が軽かったおかげでそちらはあまり酷くはなっていないみたいみたいです。」

 手当をしながらサキュアは体の様子を調べていく。

「なんか、鳥と獣の間のような生き物ですね。」

「クチバシがあるし足に水かきが有るから鳥に見えるけどこのズングリした体型で飛べるとも思えないし魔獣かしら?」

 魔獣の中には魔法を使って飛行する者も存在する。そういった魔獣には翼のないものも存在していた。


「私の知識の中にも有りません、後で調べておきます。」

 やしろの組織は単に竜と人間の仲介を行うのみならずこの世界のことわりに関する研究組織でも有る。

 この世界最大の知識の集約場所と言ってよかった。


 包帯だらけにされて藁に寝かされていた獣が薄っすらと目を開ける。

「良かった目を開けたわ。」

 手当を終えた獣をずっと見ていたユキがホッとするように言う。

「そうですか?その獣は何を食べるのでしょうね。」

 小屋の隅で食事の用意を始めたサキュアが振り返る。


「クエッ!」

 目が覚めた獣が驚いたように叫び声を上げる。

 しかしユキを見た獣は動きを止める。

「どうしたのかしら?この子私の事見てる。」

 じっとユキの事を見ていた獣の目から涙が溢れ始める。

「この子泣いているわ、どこか痛むところが有るのかしら?」

 いや、獣は痛くても泣くことは無いでしょう、そう思うサキュアであった。


「クエエエェェェ~~~ッ!」

 突然大粒の涙を流しながら獣はユキに抱きついてくる。

「ど、どうしたのいきなり泣き出しちゃったわ。」

 いきなりの事に何が有ったのか理解できないままユキは獣を抱きしめた。

 何故そうしたのかはわからなかったけれどそうしたほうが獣の為に良いと感じたからに他ならなかった。

 獣は泣きながらユキに頭をグリグリと押し付けてくる。


「ギュエエエェェェ~~~ッ。」

「よく判りませんがユキさんにずいぶんなついているような感じですね。」

 獣はさらに激しく泣きながらユキの胸に頭を埋める。

「この子ユキちゃんが以前関係が有った獣かもしれないわね。」

 キララが獣を覗き込みながらそう考えた。

「ギャアアアァァ~~~ッ!!」

 キララの顔が近づくと獣は怯えたのか更にしっかりとユキにしがみつく。


「あなた私のこと知ってるの?」

 ユキは獣にそう呼びかけてみると獣の動きがぴたっと止まる。

 ゆっくりとユキの顔の方に頭を向ける。

「あたし以前の記憶がすごく曖昧なの、だからあなたを知っているのかもしれないけど今は思い出せないの。」

 獣は動きを止めてユキの顔をじっと眺めている。

 大きく見開いた目から更に激しく涙が流れ出した。


「ビエエエェェェ~~~ッ。」

 ユキの胸に押し付けた頭を何度も頭を振りもう一度盛大に泣き始める獣であった。

「よっぽどユキちゃんになついていたのね、でもこれでユキちゃんの手がかりが見つかったのかもしれないわね。」

「ビエック、ビエック……。」

 泣いていた魔獣も少し落ち着いてきたらしい。


「キララちゃ~ん、ご飯できたわよ~っ。」

 お母さんの声が聞こえる。

「は~い、今行きます。」

 巣の向こうではお母さんがちゃぶ台を用意してお肉を持ってきていた。

 お父さんがソースの樽を持ってドバドバとかけている。

「お父さんたら、そんなにかけたら塩辛いでしょう。」

「おお、すまん。このソースはなかなかうまいからねえ。」

「また頼んでおきますからね。」

 そんな声が聞こえてくる。


「私の方も食事の用意が出来ましたよ。」

 サキュアがお皿に料理を乗せていた。

 ユキは大きな魔獣ステーキと付け合せ、サキュアは芋と人参を茹でた物にサラダである。

「あなたは何を食べるのかしら?」

 ユキは獣を抱いたまま顔を覗き込むが獣はキョトンとした顔をしている。


「私の食事も有りますからいろんな物を並べて見ましょう。」

 サキュアは兎耳族のベジタリアンなので肉類は食べることが出来ない、そこで野菜ばかりが並んでいる。

 一方ユキは魔獣の肉が大好物なのでユキの前には分厚い魔獣のステーキが置かれていた。

 ユキの細い体のどこに入るのかと思われるようなステーキだが驚くことに軽く食べきってしまう。


 獣の前に小皿を置き芋や人参を置いてみる。

 しかし表情こそ見えないが獣はそれに手をつけようとはしない。

「お肉が良いのかしら?」

 ユキがステーキを少し切って獣の前に置く、少し肉をついばんでいたがすぐにそれを一気に飲み込む。

「あら、あなたお肉が好きなの?」

「クエ~~~ッ!」

 包帯だらけの体をパタパタ動かしてお替りを要求する。


「いいわよ、もっと切って上げるわ。」

 ユキが切り分けたステーキを次々と飲み込む獣である。

「すごい!ほとんど食べちゃった。」

 ユキのために焼かれたステーキの大半を胃袋に収めた獣はお腹をぷっくりと膨らませてぐてっと横になっていた。

「グエップ。」


「ユキさんの分が無くなっちゃいましたね、直ぐに新しいの焼きましょう。」

 獣が食事をするのを呆れたように見ていたサキュアは席を立つ。

「ありがとうございます、サキュアさん。」

「でもこれだけ食べるのならその子の傷もすぐに良くなりますね。」

 ユキは満腹になって眠り始めた獣を藁の上に横たえてやる。


「でも、もし私を知っているのだとしたらどうやってこの街に来たのかしら?」

 ユキの疑問はもっともで有った、ユキが発見されたのはこの街から100キロ以上遠く事である、この獣がその距離を単独で移動してきたとは考えにくい。

 空を飛ぶ魔獣であればその可能性も有るがサキュアにはこの様な魔獣の心当たりが無かった。

 食後にサキュアは獣のことを調べると言って社に戻って行った。

 ユキはぐっすり寝ている獣の事を見ているとキララが食事を済ませて様子を見に来た。

 お兄ちゃんは中に入れないので外から見ていて寂しそうである。



本年もお読みいただいてありがとうございます。

お便り感想等ありましたらよろしくお願い致します。

次回は金曜日の18時頃の更新になります。

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