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我は竜なりその名はお父さん。

未来の地球をのほほんと生きるドラゴン一家とその周辺で魔獣と戦いながら生き抜く獣人達の物語です。

当面週2回更新で書き続けていきます。

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1-001


――我は竜なりその名はお父さん。――


 我は竜である。


 空を飛び口からは炎を吐き出す。


 その体は鎧のような鱗に覆われ如何なるものも我に傷を負わせる事は出来ぬ。


 何しろ体に付く虫を殺すために時々溶岩風呂に浸かる位である。


 なに?傷を負わない竜にどうして虫が付くのかって?


 細かいことはどうでも良い、要は我こそは不可侵の肉体を持ち、老いることも死ぬこともない不滅の存在である所の竜である。


 我の名は時代によって異なっている。5000年ほど生きておるがその時代によって様々な呼び方で呼ばれていたようだ。


 もっとも既に記憶はかなり薄れなんと呼ばれていたのかすら定かではない。 


 断片的に思い出すのは「ドラゴン28号」とか「対魔獣兵器」とかあまり意味のない名前が記憶の片隅に残っている。


 その後は「邪竜イクシオン」とか「最凶魔竜ガイクック」とか呼ばれた事もなんとなく覚えている。


 まあいずれの名前もその当時地上にいた者達が我を恐れて付けたものらしい。


 うむ、あの頃は若かったのである。


 何しろ5000年も生きていて新しい記憶が脳に押し込まれると反対側から古い記憶は押し出されるらしい。


 それ故にあまり昔の事は記憶に残っていないのだ。


 我が5000年生きているということも傍の者が言うのでそう思っているに過ぎん。


 何しろ我は暦など見た事も無いからだ。


 そして我は500年ほど前に今のメスの竜と出会いつがいとなった。


 なんでも竜の繁殖率は大変に低いらしく100年前に初めての息子が生まれた。


 メスは大変に喜んだ。


 その50年後に娘が生まれる。


 その頃から我の呼び名は変わった。


 我は今「お父さん」と呼ばれておる。



…………………………………………



「お父さん、お父さん。」


 朝のけだるい目覚めの中でメスの声が響く、いや今のこのメス竜の名前は「お母さん」であった。


「お父さん、朝ごはんお願いしますよ、子供たちがお腹をすかしていますから。」

「う~ん……あと5分だけ……。」

「おとうちゃ~ん、起きてよ~っ、お腹がすいたよ~っ。」

 息子が我の背中に飛び乗ってくる。最近は重たくなってきたのか体に応える。


 朝のこのひと時の眠りを怠惰に過ごしたいと思う我の願いはいつもこの息子によってくじかれる。

「お父ちゃん、お目々を開ける時間です。」

 おお、キララであるか我が最愛の娘よ、頼むから目の中に爪を突っ込むのはやめてくれ。

 まあその程度で痛むような目では無いがいささか不快感は拭えない。


「やれやれ、それでは起きるとするか?」

 我は体を起こすと上に乗っかっている息子を摘んで床に下ろす。

 子供たちが出来てから毎日の食事量が増えてしまった、お陰で惰眠を貪ることも出来ずにこうして毎日狩りに出かけなくてはならない。

 まあ1時間も飛べば魔獣の多くいる場所に着けるのではあるが。

 毎日のことであるが子供を飢えさすわけにも行かずかかさず狩りをしなくてはならない。

 お父さんとはつらい職業なのだ。


「それじゃ行ってくる。」

「ハイハイ、お父さんお願いしますね。」

「ボクも行く~っ。」

 我が息子が同道を願っておる、この子も自分で狩りをしたい年頃になってきておるようだ。


「キララも行く~っ。」

 妹のキララも一緒に行くと言う、この娘はいつも息子と一緒にいたいらしい。

 まあ、他にあまり遊び相手もいないからそれも仕方が無い事なのだろう。

「そうか行きたいのか?」

 やれやれという顔をして二人と一緒に飛び上がる。


 無論本当は嬉しいのであるが親の威厳というものも有る、お前たちを連れて行ってやるのだと言う態度は崩せない。

 

 翼を広げて飛び上がるが我の体に比べて驚くほど翼は小さい。

 元より我のような大型の竜の身体を翼で持ち上げる事など出来よう筈も無い。

 実際は魔力を使って飛んでいるのであり翼は空中姿勢を保つためにだけに存在しているのだ。

 子供たちも小さな翼をはためかせて一緒に飛び上がる。


 まあこの子達も飛び始めたばかりの頃はそこいら中を飛び回り魔力切れで崖の下に落っこちた事も何度か有る。

 無論それで死ぬような竜ではない、我らは不死身の存在なのだから。

 とは言えやはり痛いものは痛いのである。

 まだ我のように固い鱗に覆われていない子供達は痛みによって様々な事柄を学習して行くのである。


 我の住む場所は小高い山の上に有る。山と言っても周囲から少し小高くなっている程度の場所に過ぎん。

 山の周囲には木々が茂り林を作っておりその中に数件の家が見える、竜守達の住むやしろである。

 我も竜神とも呼ばれておるから一応神様扱いなのである。、

 それ故に1頭、2頭では無く、1柱、2柱と数えられる。


 山の中腹には我を祀るやしろが作られ竜守の一族の巫女と我の世話をする竜僕の人間達が住んでいる。

 何しろ我は体が大きい故に細かい作業は全くできない、我らが文化的な生活をするには必要な者達である。

 そのやしろから階段が竜の巣まで繋がっており直接の出入りが可能となっている。


 我らが住む山の周囲には街が出来ており多くの人間が集まってきている。

 眼下にはたくさんの建物が建っていてその外側には広大な畑と牧草地が広がっている。

 街の中心には領主と呼ばれる者の家がひときわ大きく建てられている。

 周囲の畑は実りも良くこの街の生活は豊かな物となっている。

 すべては我のおかげで有り街の人間は我に感謝し手厚く祭ってくれておる。


 宗教や精神論ではない、我が危険な大型魔獣グリックを狩っておるのでこの周辺には近づかないのである。

 それ故に人々は安心して生活を営めるのである。

 竜が巣を作ればその周囲は安全な場所となり、そこに人が集まり街が出来ておるのだ。

 我を頼って集まった連中は末永くその場所に住んでいて欲しいが故に我を神として崇めておるらしい。

 その為に我等に対する生活のサービスを行い我らに快適なドラゴンライフを提供してくれる。

 その交渉と実働役を担っているのがやしろに住む巫女で有りその竜守達である。


 子供たちは我と共に空を飛びながら市街を見ている。

 市に住む者達は時々我らを見上げるが毎日の事である、特に興味なさそうに目をそらして生活に戻って行く。

 小さな子供たちだけは無邪気に手を降るので彼らに対し尻尾を振り返してやる。


 我ら竜族の主食は魔獣である、街に住む者達を食うことはない。


 我等が主食とする大型魔獣グリックはみな1トン以上の体躯が有る。

 我等の腹を満たすためにはその位の大きさが必要なのである。

 人間を食う事は無いのかと良く人間達に尋ねられる。

 その者達には何故人間の様に食いでのない物を食わねばならんのかと問いただす。


 人間をちまちま食っても仕方がないのと、やはり知恵が有り言葉を話す者を食う気にはなれない。

 人間達の持つその器用な手で我らの生活の面倒を見させた方が理に適っていると言う物だ。

 何せ我らが人間達を守っているのであるからその報酬と思えば当然の権利ともいえる。

 まあそんな訳でギブアンドテイク、ウィンウィンの関係だと思っている。


 魔獣と言うのは普通の動物とさほどに変わるものではない。

 小型の魔獣は殆どが雑食でそれこそなんでも食って大きな体になる。

 その肉質は人間に言わせると結構美味しいらしい。

 人間達でも小型の魔獣であれば訓練した者には比較的たやすく狩る事が出来るそうだ。


 魔獣は体内に魔獣器官を有し、それが魔獣の魔獣たる所以である。

 魔獣器官は元素変換を行い空間をゆがめる魔素細胞を作り出す。

 それ故魔獣と言う物は本来食うべきものを選ばない。

 まあ実際には土や砂を食いたいと思う者がいないようにやはり好物は有るらしい。


 とは言え食性の広い魔獣は驚くべき速さで数を増やす。

 この魔獣を食って数を調整しているのが大型の肉食魔獣である。

 元々は同じ種類の魔獣であったものが魔獣の肉を食う事を覚えると大きく身体が変化をしてゆく。

 身体が大きくなり力も強くなる、しかも肉を食うのに必要な牙まで生えてくるのだ。


 魔獣と言うのは多少ではあるが魔法を使う、たいていは取るに足らない威力でしかない。

 ところが大型の魔獣は体外から魔獣器官を取り込むことにより自らの魔獣器官を肥大化させ強力な魔法を操るようになる。

 我が使用しているブレス等もその一種である。

 その魔力を利用して大型化した魔獣は小型の魔獣を狩って行くのだ。


 問題なのは魔獣が肉食となり大型化するにしたがって臆病だった魔獣が狂暴な性格へと変化して来るのだ。

 この大型の魔獣は狂暴であるばかりでなく人間も食う。

 わざわざ人間を狩って食う訳では無いが縄張りに侵入した人間は獲物として捉える事になるのだ。

 したがって町と街を結ぶ街道は常に大型魔獣グリックの遭遇に注意しなくてはならない場所なのである。


 逆に我の縄張である街の近辺には我を恐れて大型の肉食魔獣は入って来ない。

 それ故我の狩りは街を離れ大型魔獣グリックの縄張りまで飛んでいかなくてはならないのだ。

 街が大きくなり狩場が遠くなってしまった時に我は巣を捨てて出て行く事になるだろう。


 子供たちを従えて空を飛び狩場に向かって飛行していく。

 市街地を過ぎ畑を過ぎると山々と樹海が広がっている。

 荒野となっている場所も多いがこの辺りは樹木が多く生える場所のようである。

 このような場所では魔獣はよく繁殖する。

 魔獣は何でも食べると言ったが、やはり生きている物のほうが美味しいらしく木や草や樹の実を好んで食べるようだ。


 彼らの排泄物は魔獣器官のお陰で普通の動物より滋養に富み更に森を豊かにする。

 それ故に森の近くの畑は非常に肥えており作物の栽培に適している。

 もっと荒れた土地であれば魔物の襲来は少なく人々は安全に暮らせる。

 しかしそう言った土地では作物があまり育たず人々は貧しい暮らしを強いられる事になる。

 人が豊かな生活を求めれば魔獣の住む地域に住みたがるのも当然の事である。

 その様な理由で人間達は魔獣を主食とする我等竜の巣の近くに住みたがるのは必然であった。


 もっとも竜が住み着く事により追いやられた魔獣が荒れた土地で生活をしていると、土地そのものが魔獣の糞で徐々に豊かな土地に変化しても行くとも聞く。

 魔獣が先なのか土地が先なのか?実は我にも良くは判らない。

 ただ魔獣と言う物もこの世の重要な生き物であることは確かな様である。


 不老不死のドラゴンと言えども絶対的強者とまでは行かず数百体の大型魔獣グリックに囲まれれば流石に勝つことは出来ない。

 そうやって命を落としたドラゴンもいると聞く。

 気まぐれに巣を変えるドラゴンも多く、我のようにつがいとなって新居を求める者もいる。

 ドラゴンを失った街は魔獣から街を守れずにやがて消滅する場合が多い。


 街の住人はドラゴンの巣を整備して新たなドラゴンの到来を待ち望む。

 住み着いてくれたドラゴンにはなるべく長く居着いて欲しい、そんな願いが彼らには有る。

 やしろを作り我らとの交渉役を置き我らの生活の便宜を図っているのである。

 自らを害するものを殆ど持たず魔獣を食っていれば後は寝ているだけの我らにさほどの便宜も無いとは思うが食事の度に巣を清掃してくれるのは助かる。


 高等生物は文化的な生活をしなくてはならないのだ。

 よくわからんがトイレのない家は文化的とは言えないそうだ。

 それ故トイレもまたやしろが作ってくれている。巣から少し離れた場所に穴を掘って周りを木々で囲ってくれるのだ。

 そこが一杯になると定期的に汲み取って行ってくれるのでいつも清潔な生活が出来る。

 かつては川の中にやっていたがその水を町の人間が飲むことを考えるとそれもいささか心が痛む。


 もっとも湖に糞をしていた事も有ったがその湖の魚はびっくりするほど大きくなっていたとも聞く。

 トイレを作る事に対し湖の岸辺の民から抗議が出た事も有ったようである。

 まあその辺は人間同士の事である、適当に調整しておいてくれ。

 我とて我儘を通すつもりは無い、お互いに協力すれば良い生活が出来るのだ。


「お父さん、そろそろ狩場じゃない?」

 我の後ろで飛行しているお兄ちゃんが尋ねてくる。

「うむ、よく下を見て獲物を探るのだぞ。」

 小さな魔獣は我の飛行を遠くから発見するとコソコソと木陰に身を隠す。

 もっとも我はそのような小さな獲物を狩るつもりはない、我等竜神4柱の胃袋はそんなに小さくは無いのだ。

 しかしお兄ちゃんには手頃な獲物を狩らせている、あまり大きいと逆に反撃を食らって痛い目を見ることになるからだ。


 まあそれも経験である。


「お父ちゃんあそこに変な物がいるわよ。」

「ん?どうしたキララ。」

 キララの示す方向を見ると小さな生き物が走っている。

 その後ろから何頭かの魔獣が追いかけている、先頭の魔獣はかなりおおきい。

 どうやらの人間の子供らしい、隊商が魔獣にでも襲われたのであろうか?


 丁度よい今日の食事はあの魔獣にしよう。

 必死で魔獣から逃げる子供は何かにつまずいて倒れた。

 そこに魔獣が襲いかかろうとする。

 良くは見えなかったが子供が悲鳴を上げているようにも感じられた、心配するな今助けてやるわ。


 魔獣の上空から音もなく我には襲いかかり一撃で息の根を止める。

 我の後ろでもお兄ちゃんがもう少し小ぶりの魔獣に襲いかかっていた。

 キララが子供の元に舞い降りて子供を抱き上げ魔獣から守る様に身構えていた。

 まあ子供の一人や二人どうなろうと我には関係ないがキララは優しい子である、見逃すことは出来なかったのであろう。


 キララの背後から襲おうとする魔獣がおった、バカなやつ。

 ワシはその魔獣にブレスを吹きかけてやった。頭の部分に火が点いて逃げ出しおったわ。

 まあキララでもどうとでもなったであろうが子供を抱えておったからな間違えて握りつぶしてもまずいだろう、ワシの方で片付けてやったわ。

 ワシの後ろでお兄ちゃんがバタバタしながら魔獣と格闘している。


 なんじゃ未だ仕留めておらんのか手際の悪いヤツめ。


「どうした?キララその子は無事か?」

 こんな所に子供が一人でいる筈もないが他の者達は無事であろうか?

 この子を助けても我に益が有るわけでもないし彼らに借りが有るわけでもない、しかし見てしまった以上放置する訳にも行くまい。

 なんか見捨てたら我を嫌いになるぞ光線をキララが送り付けてくるような気がして怖い。

 後ろの騒ぎがうるさいので尻尾で殴りつけたらおとなしくなったようだ。


「ひどいよお父ちゃんボクも一緒に叩きつけるなんて。」

 頭をさすりながらお兄ちゃんが抗議するが未熟者め知らんわ、お父さんは厳しいんだ……男の子には。

「子供の仲間がいるのかもしれん。少し周りを見てこよう。キララと一緒にその子供を守っておれ。」

 お兄ちゃんの抗議には構うこと無くお父さんは飛び立っていく。


 こんな樹海の奥まで子供一人で来るはずがない。近くに隊商かなにかが来ているはずだ。

 お父さんはそう考えて付近を上空から捜索する。

 痕跡はすぐに見つかった。

 大量の血の跡に食い散らかされた生き物の破片が散乱していた。


「これは一人や二人ではないな。」

 かなりの人数が犠牲になったようだ。あの子供はこの惨劇の最後の生き残りなのだろうか?

「しかし、おかしいな?」

 人が食われた痕跡は大量に有るが馬車が見当たらない。

 こんな所に馬車も使わずに来れるはずもない。

 そう思って周囲を調べて回るが馬が食われたような痕跡もない。


 この犠牲者達は一体どうやってこんな場所に来たのだろうか?

登場人物

 

お父さん   約5000歳 身長12メートル全長20メートル

お母さん   ドラゴン一家のお母さん約4500歳 身長11メートル 全長18メートル

お兄ちゃん  ドラゴン一家の長男 100歳 身長2.3メートル 全長4.1メートル

キララ   ドラゴン一家の末っ子の女の子 50歳 身長2、1メートル 全長3,8メートル


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