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第七章 見知らぬ記憶

評価・感想・ブックマークありがとうございます。

『これが最後のループだよ』


 彼女の亡骸を前に嘆き悲しむ107人の俺達の後ろにそれは立っていた。


『彼女が真実の愛を見つけても、見つけられなくても。これが最後だ』


 若い男の声はそう言った。

 私達は恐る恐る振り返る。

 無慈悲な神が笑っていた。



「どうかなされましたか?」


 若い女が小首を傾げて私を見る。

 ツェレやアデルと年が近いのだろう。

 女近衛騎士は私の顔色を伺う。


「えっ? あ……いや……何でもない」


 今のはなんだ?

 知らない。

 あんな場所は知らない。

 死んだツェレなんて知らない。

 ツェレは生きて今、ロイドとかいう男のプロポーズを受けているではないか。

 貧相な花一つでプロポーズを受けるなんて気が知れない。

 俺の国では豪華な指輪を渡す。

 俺もアデルに王妃の指輪を渡した。

 俺の瞳と同じ色の指輪を。

 あの花の名はエーデルワイス。

 冒険者が恋人の為に危険なダンジョンからたった一輪持って来るのだ。

 己の勇気と愛を示すために。


 エーデルワイス?


 なんで花の名を知っている?

 ダンジョンに咲く花?

 ずきりと頭に痛みが走る。

 この光景を見たことがある。

 場所は暁のダンジョンがあった町?

 待て。そんな所に行ったことはない。

 そこで……ツェレは冒険者ギルドの受付嬢をしていて。


 ツェレが受付嬢?


 そして……あの男……ロイドにプロポーズされていた。

 いやあの町ではジャックと名乗っていたはず。

 頬を染め愛おしそうにエーデルワイスを見つめている。

 恋をしている女の顔。

 嫉妬に狂って私はツェレを切り殺した。


 待て待て待て待て!!


 なんだ!! 何なんだこの記憶は!!


 アデルと結婚するのはいいが、きちんと正式な婚約破棄の書類には彼女のサインがいる。

 その為に彼女を探し出してサインをさせろと父上に言われたのだ。

 連れ戻した彼女は父上の側室になり後宮に入る。

 後宮と言っても軟禁みたいなもので。

 ツェレは塔に閉じ込められ。そこで一生を終えるのだ。

 そう言う手はずになるはずだった。

 なんで私が2人に嫉妬する?

 私は真実の愛を手に入れた。

 はずだ……アデルと……真実の愛……?


『彼女が真実の愛を見つけてたらこのループは終わる』


 ゾクリと悪寒が走る。


「大丈夫ですか? 顔が真っ青ですよ」


 女騎士エーゼリンはアリソン王太子の腕にふれる。さり気なく彼を温室の外に誘導する。

 動揺しているアリソンは言われるままに温室から出る。


「あちらの部屋で休まれますか? ああ。丁度いい所に聖女教会の方が来られたみたいです。彼らに治療してもらいましょう」


 女騎士はぐいぐいと俺を引っ張る。


「聖皇長様アリソン王太子様がご気分が悪いようです。どうか治療魔法をお願いします」


 内心聖皇長は舌打ちをした。

 傀儡王子はよりによって何故ここにいる?

 しかし聖皇長は穏やかな微笑みを浮かべて頷く。

 サリアが眉をひそめる。

 そんな者などほっておいて早く帝王に会いに行こうと目で合図する。

 何が起きたのか確かめようと大勢の人が温室にやって来て聖木が蘇った事を知り。

 口々にツェレティーアを褒め称える。


「皆の物聞いてくれ。今宵ロイド・ゼラズニーがツェレティーアにプロポーズした。ツェレティーアもプロポーズを受け入れた」


「まあ!! おめでとうございます!!」


「温室でのプロポーズなんて素敵!!」


「エーデルワイスを渡したのね」


「ああ……私も素敵な殿方にエーデルワイスを送られたいですわ♡」


「御聖木様も祝福されているのですわ」


「ロイドに美姫を攫われた!! ちきしょう!! 俺も狙っていたのに」


「お前じゃ相手にされないよ」


 女達は似合いの二人だと褒め称え。

 男達は悔し涙を流すのだ。

 人々は王族とロイドを取り囲み祝福する。

 皆は乾杯をする為に王宮に戻る。


 人々は聖皇長やアリソン王太子やサリアを無視して王宮に戻る。

 初めからそんな者など存在していなかった様に。


「あ……いえ。大丈夫です」


 人々に押しやられる様に庭の隅に追いやられたアリソンは断りを入れる。

 聖皇長もサリアも人混みに流される。


「アリソン様こちらにいらっしゃったんですね」


 アリソンのお付きの者たちがやって来る。


「どうなさったんですか? 真っ青ですよ」


「ご気分が優れないようです。聖皇長様に治療魔法をお願いしている所です」


「聖皇長様治療魔法をお願い致します」


 アリソンのお付きの者達が頭を下げる。

 聖皇長は頷くと首飾りを取り出して呪文を唱える。

 首飾りがぽうっと光。癒しの光がアリソンを包む。

 この光見たことある。

 この聖皇長にも子供の時に会ったことがある。

 そうだ。子供の時別荘に向かう途中魔物に襲われて。

 魔物に足を嚙まれた。

 瘴気が体を蝕んで死にかけた事があった。

 その時。私を治したのが、聖皇長だ。

 あの時と同じ首飾り。

 忘れていた。

 アデルも同じ首飾りをしていた。

 アリソンの意識は闇の中に落ちて行った。




「貴様がツェレを殺した!!」


 怒りに震える男が剣を突きつける。

 城も王都も燃えている。

 ここは……ああ……城の中庭だ。

 ツェレを殺して。アデルと結婚して。

 結婚式に帝国が攻めてきたのだ。

 俺は新郎の白い服を着て胸に白いバラをさして。

 白いバラが俺の血で赤く染まって。

 この男はツェレにプロポーズしていた。

 冒険者だと思っていたが。

 今は帝国軍人の軍服を纏い。

 怒りに燃えている。

 俺の剣は折れて足元に転がっている。

 流石帝国軍人。凄腕だ。

 容赦なく切り刻まれた。

 ふと傍らにいた者の事を思い出す。

 アデルは? アデルはどこだ?


「この女自分だけ逃げようとしていた」


 一人の男がアデルを引きずってきた。

 アデルは花嫁衣装を血に染めてこと切れている。

 どさりと躯を俺の前に投げ捨てる。

 アデルの躯を見ても何の感情も湧かない。

 アデルを引きずってきた男は帝国の王族。

 アーウィン王太子。


「よくもわが妹を殺したな!!」


「妹……?」


「ツェレは攫われた我が妹。ツェレティーア姫だ!!」


「そんな事は知らない」


「お前たちは聖女教会と組み。我が母上のみならず兄弟を殺し。妹を攫った!!」


 帝国のツェレティーア姫?


「そんな事は知らない」


「可笑しいとは思わなかったのか? ただの捨て子をお前の婚約者にするなどと。お前の父も母も知っていたのだ。ゼルテネス伯爵に妹を攫わせた張本人だからな」


「そんな事は知らない」


「今知っただろう!! 死ね!!」


 ロイドの剣がきらめき俺の胸を突き刺した。

 血しぶきが舞い。

 俺はこと切れた。

 ゴウゴウと城は燃えて……

 父上も母上もその亡骸を大地に晒し。

 弔う者は居なかった。


 いつも終わりは同じ。

 ツェレが死んで。

 復讐に燃える帝国が攻めて来る。

 城も王都も燃えて。

 弔う者などどこにもいない。


 それは……運命。

 それは……宿命。

 誰にも変えられない。

 一人の女が死ぬ事で。

 惨劇が起こり。

 国が滅びる。


「時を戻したい?」


 気が付けば白い神殿にいた。

 ツェレがガラスの棺の中に横たわっている。

 棺の中は薔薇で溢れかえっている。

 でも……ツェレはあまり薔薇の花は好きではなかった。

 最初のループの時か?


「戻したい……」


 俺は泣きながら男に懇願した。


「いいよ。戻しても。そうだ。108回だけループさせてあげるよ」


「108回?」


「この間遊びに行った世界で人間の煩悩は108あるそうだ。面白いだろ」


「本当に戻せるのか?」


「ああ……戻せる。ルールを決めよう。彼女にはループの記憶が残り。君にはループの記憶はない。彼女が真実の愛を見つけ生き延びたら108回めぐる前にゲームは終わる」


「お前は……誰だ?」


「暇を持て余した神さ(笑)」


 神と名乗った若い男はニンマリ嗤った。




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 2018/10/18 『小説家になろう』 どんC

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最後までお読みいただきありがとうございます。

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