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第六章 温室の奇跡

『貴方を愛しています』


 いくつものループの中で私に勇気を与えてくれた人。

 この人が居てくれたから耐えられた。

 エーデルワイスの花言葉は【初恋】【思い出】【勇気】。

 前のループで言葉に出来なかった想い。

 ああ……私も彼を……


「私もお慕いしております」


 ポロリとツェレティーアの瞳から真珠の様な涙が零れる。

 何度も何度も彼に会おうとした。

 だが……彼との出会いは何者かに邪魔されたかのように出会えなかった。

 ツェレティーアの胸の中から溢れる思い。

 ぽうっと光がツェレティーアの体からあふれ出し辺りをまばゆく染め上げた。


「わあ~~~眩しい」


「この光は……」


「暖かい……優しい光……」


 ざわざわと護衛達が騒めく。


「姫……癒しの光ですか?」


「兄さん頬の傷が消えてる……」


 魔物討伐の時受けた傷だ。

 魔物の毒爪に侵され一週間寝込んだ。

 高位ポーションでも治らなかったその傷が無い。

 護衛のみんなも己が傷が消えていることに気付く。

 ひらり

 白い花びらが舞う。


「あれを見て!!」


 護衛の一人が温室の中にある物を指さした。

 そこには枯れた木があるはずだった。

 かって聖木と呼ばれた。

 百年ほど昔。ロイドの先祖が、ダンジョンよりもたらされた聖木。

 その功績によりロイドの祖先は貴族に取り立てられた。

 それは無限のマナを産み。

 聖木の根元に空魔石を置くと数か月で魔力が満たされる。

 だが……王族惨殺の悲劇の日。

 犯人達は王族の血で聖木に呪いをかけたのだ。

 王族が殺された場所を繋ぐと五芒星が描かれその星の中に聖木があった。

 聖木は精霊信仰の拠り所でもあった。

 聖女教会としては目の上のたん瘤だったのだ。

 特に帝国を取り込みたい聖皇長アルフレッドは己が娘を帝国妃としたかったが、シェルゲンバッハ帝王に拒まれた。

 エドナがいたから……

 エドナが聖女の力に目覚めるとこれ幸いと二人を引き離し。

 その頃聖女教会は帝国にかなりの中枢まで食い込んでいた。

 エドナは聖女教会に軟禁され、こき使われる。

 シェルゲンバッハ帝王その時は王太子だったが、別の者を王妃とした。

 そして5人の側室を迎え入れてアルフレッドの娘サリアを拒んだ。


 サリアは今も独身だ。

 サリアも父に似てプライドが高く、野心家で。

 聖女補佐の地位にいる。

 聖女の権威をかさにきて随分とやりたい放題だ。

 サリアはエドナを嫌っていた。

 シェルゲンバッハ帝王の妃よりも。

 サリアは知っていた。

 聖女の力を使ってエドナの行方を調べ。

(酷使により聖女が三人潰れたが。サリアにとって聖女は消耗品にしか過ぎない)

 シェルゲンバッハ帝王の側室に入っていることを突き止めた。

 エドナの事があり。帝国の貴族は精霊教徒に鞍替えして、聖女教会は痛手を負った。

 帝国貴族ばかりではなく。他の国の貴族も徐々に聖女教会から遠のいた。

 聖皇長の横暴に辟易して。

 心ある者は皆地方に飛ばされ。

 聖皇長の周りはイエスマンしかいなくなり。

 聖女の力を持つ子供の親は精霊教会に鞍替えし聖女は激減し。

 貧しい農民の子供を買って聖女に仕立て上げたり。聖女の力のある子供を攫ってきたり。

 脅されては才能も伸び悩み。使い潰され。

 高いお布施の割に治すことが出来ず。

 今や聖女教会はまともな聖女はいない。


「花が!! 聖木に花が咲いている!!」


「有り得ない‼」


「奇跡が起きた‼」


「姫は精霊姫の生まれ変わりか!!」


 聖木に白い花が咲き乱れた。

 辺りに花びらが舞い。まるでツェレティーアとロイドを祝福しているようだ。


「これは……どうしたことだ……」


「お父様……」


「物凄い光が温室の中からしたものだから何事かと来てみれば……」


「お兄様……」


「聖木が蘇っている」


「これは……ツェレティーアがやったのか?」


「あ……はい。ロイドに求婚されて嬉しくて……そうしたら……光が溢れて……聖木が花を咲かせて……」


「でかした!! 聖木を蘇らせるなんてツェレティーアは私達の奇跡だ!! 神よ!! 感謝します!! 行方不明になっていた我が子をお返しくださった上に聖木様までお返しくださるとは‼」


「姉上は凄い。僕にはできなかったことです」


 セインは嬉しそうに笑う。

 シュルゲンバッハ帝王は娘を抱きしめた。

 これほどの至宝があるだろうか?

 皆に祝福をされるツェレティーアを苦々しく睨み付ける者たちがいた。


 聖皇長アルフレッドとその娘サリアである。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    

    ≪聖皇長とサリアside≫


 忌々しい!!

 忌々しい!!

 忌々しい!!

 親子そろってなんて忌々しい存在なんだ!!

 あの娘の母親は聖女だった。

 しかも大聖女と言っていい力を持っていた。

 存在自体がわしの野望を脅かす。

 そうわしの野望。

 わしの一族の野望。

 祖父は商人だった。

 一代で財を成し大富豪となった。


 我が一族は金を手に入れた。


 祖父は娘を王の側室にし王子を産ませた。

 その子は王となった。


 我が一族は王位を手に入れた。


 その王はわしの父親だ。

 わしは5番目の王子として産まれた。

 わしには魔力が無かった。

 祖父は子飼いの錬金術師に他人の魔力を奪い、自分の魔力として使うことのできる魔道具を開発させた。

 わしは奴隷や攫ってきたり者達の魔力を使い聖皇長の座を手に入れた。


 我が一族は神聖を手に入れたはずだった。


 一族の力で世界を統合する。

 エドナは帝国の第一王子の婚約者だった。

 二人を引きはがすのにどれ程金をつぎ込んだと思っている。

 小さな国が買えるほどだぞ!!

 やっと二人を引きはがし、わしのサリアを帝国妃にしょうとしたのに。

 あやつめ!!

 帝国一の大貴族の娘を后に迎え。

 側室を5人も迎えおった。

 あからさまな拒絶。

 完全にわしの娘を弾きおった。

 しかも王位を継承するなり【聖女教会】の息がかかった者を排除しだした。

【精霊教会】を優遇し、帝国内の【聖女教会】の権力を下げた。

 忌々しい!!

 忌々しい!!

 忌々しい!!

 他の国なら聖女を派遣しないと脅せば言いなりになった。

 だが……

 帝国には聖木があった。

 空になった魔石を置いておくだけで、癒しの魔石となる。

 魔物にはどの国も頭を悩ませている。

 怪我をした騎士を癒し。

 穢れた土地を浄化するには聖女たちの力が必要だ。

 聖木は帝都に結界を張り魔物から都市を守る。

 目障りだった。

 あの女もあの聖木も。

 だから当てつけにあの女を帝国に返さず他の国の側室に追いやった。

 シェルゲンバッハ帝王の元に返すものか!!

 あの女は魔物に襲われて死んだ。

 ざまあみろと思った。

 わしに背いて罰が当たったのだと。

 だが……

 あの女は生きていた。

 本当にしぶとい女だ。

 しかもシェルゲンバッハ帝王の側室に収まっていて。

 子供を二人も産んで。

 幸せそうに笑っているなどと。

 わしのサリアは何処にも嫁げず。嘆き暮らしているというのに。

 どれ程わしの邪魔をすれば気が済むのだ。

 だが、神は見捨てておられなかった。

 祭りに便乗して。

 あの忌々しい女と王族と聖木を始末した。

 帝国に危機感(妬み)を抱いている小国を突けばいいだけだった。

 事は面白いように進み。

 エドナが産んだ二人の子供だけが生き延びた。

 赤ん坊は人質としてアデルの母に攫わせた。

 アデルの母はわしの隠し子だ。

 貴族の子供に何人もわしの隠し子(手駒)がいる。

 あれもいい手駒だったが、病で早くに死んでしまった。

 エドナが聖女として生きていたなら助かったかもしれないが……

 ああ……

 エドナの娘も力を持っていたな。

 母親のペンダントに魔方陣を刻みツェレの魔力を使いアデルを聖女に仕立て上げたが。

 わしの父親が金に飽かせて子飼いの錬金術師に作らせた魔道具。

 あの魔道具のお陰で魔力のないわしでも聖女教会ででかい顔ができた。

 スエルチ国の王族に嫁がせるいい権威付けになった。

 アデルも王族に嫁ぐ事には乗り気だったが。

 小国より帝国に嫁ぐ方が良いかもしれない。

 サリアで果たせなかった望みを果たす。

 王子達は傀儡にすればいい。

 子が出来れば始末した方がいいな。

 尚更母親と同じツェレは邪魔だ。

 魔物に襲わせたのにしぶとい女だ。

 アデルにツェレの血の付いた手袋を盗ませ。

 魔香を焚いてあの馬車に魔物を呼び寄せたのに。

 あの皇帝の部下に救われたのか。

 あの男の先祖が聖木をダンジョンから持ってきたのだ。

 爵位欲しさに皇帝に献上し。

 なぜ? 聖女教会に献上しなかった?

 全ての魔力は管理できるものが持つべきだ。

 神の管理者である私こそが相応しい。

 いい気になっているのも今の内だ。

 いずれ帝国はわしの物になる。

 気の狂った老人がツェレティーア達に近づく。


 父親の横でサリアは唇を嚙み締める。

 一人の少女にこれまでの努力が全てひっくり返されたのだ。


 王族を殺した。

 あの女の娘を攫い他国に隠した。

 聖木に呪いをかけて枯らした。

 帝国は滅びるはずだった。

 私を拒んだ帝国など滅びてしまえ!!

 帝国から聖女を引かせて。

 魔香を焚いて魔物を帝国に呼び寄せた。

 皇帝は【精霊教会】を優遇して精霊姫達の癒しの力を借りて魔物の群れを退けた。

 シェルゲンバッハ帝王と二人の王子は優秀だった。

 聖女の力を借りず。魔石に治癒の魔法陣を刻み。

 聖女達が抜けた穴を補った。

 後で生まれた王子も優秀だ。

 シェルゲンバッハ帝王の血を引く者は皆優秀であった。

 本当なら私も優秀な子供を産むはずだ。

 そして……私の子が帝王になるはずだった。


 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!


 今目の前にいる幸せそうな家族が憎い!!

 シェルゲンバッハ帝王が笑っている。

 娘と聖木を取り戻し。

 幸せそうに笑っている。

 結局この男は失っても必ず取り戻すのだ。


 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!


 私から全てを取り上げた女にそっくりなあの娘。

 男にプロポーズされ頬を赤く染めて、幸せそうに笑っている。

 笑うんじゃない!!

 母親譲りの魔力と美貌。

 両親と兄と弟に愛されて。

 許さないわ!!

 幸せになどさせるものですか!!

 サリアも父親同様笑顔の仮面を被ると父親の後ろに従った。


 毒蛇が二匹ツェレティーア達の元に忍び寄る。






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 2018/10/11 『小説家になろう』 どんC

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最後までお読みいただきありがとうございます。

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