第三章 ティアラとダイアモンドと紫
ヒユゥ~~~
ドーン‼
ドーン‼
花火が夜空を彩る。
城の側の湖に花火の光が舞い踊り。
帝都は祝賀ムードで満ち溢れる。
人々は笑いさざめき。パレードでは花や紙吹雪が舞う。
楽士達は楽し気な音楽を奏で。
広場で人々は踊り。
人々は王族や貴族から提供された酒やご馳走に舌鼓をうつ。
「「「お帰りなさい。我らが姫‼」」」
城の大広間に集う人々が、口々に姫の帰還を祝う。
「ありがとう皆さん。私もお父様。お兄様。弟の元に帰れてこれ程の幸せはございません。ふつつか者ですが、此れから宜しくお願い致します」
堂々と皆の前で艶やかに微笑む姫に皆は溜め息を溢す。
貴婦人達は姫の紫の豪華なドレスをうらやまし気に見る。
紫貝で染められた絹はとても高価だ。その染色技術は門外不出とされ。
帝国の王族しか身に付ける事を許されない。
長く美しい髪にもドレスにも真珠が散りばめられ。
その頭には帝国の国宝のダイヤモンドが燦然と輝く。
このダイヤモンドは帝国の東にあるグラハイド山脈のダンジョンから発見された物で。
グラハイドのダイヤモンドと呼ばれ。門外不出で王族のみ身に付けることが許される。
不思議なことにこのダイヤモンドには様々な魔法が付与されていて。
グラハイドのダイヤモンドを身に付ける者の身を守る。
このティアラは姫が一つ誕生日を迎えるごとに国宝のダイヤモンドが一つ加えられる。
いかに王が姫を愛しているかが伺えられる。
行方不明の間でさえもダイヤモンドはティアラに加えられ。
何時かツェレティーア姫が帰って来た時のために準備されてきた。
しかもこの国では紫の色は【帝王の紫】と呼ばれて。
王族しか許されないのだ。
そして紫を与えれれるのは王位継承権を認められた者のみ。
本来ならば姫である彼女には与えられぬ色であるはずだが。
いかに帝王が彼女を溺愛しているかが伺える。
王太子と彼女の母は片田舎に住む男爵令嬢だったという。
エドナに一目惚れしたシェルゲンバッハ帝王が後宮に迎え入れたと言われ。
どの側室よりも王妃よりも彼女を愛した。
だが本当はエドナはシェルゲンバッハの婚約者であったが。
聖女の力を発現した為にシェルゲンバッハと仲を裂かれ。精霊教会に入れられた。
その時のシェルゲンバッハは若く、教会に対抗する程の力がなかった。
エドナは三十八歳になるまで教会から出してもらえず。
普通なら精霊力を失う二十五歳前後で聖女を降りるが。
彼女はシェルゲンバッハの元に帰る事も帰国することも許されなかった。
アルフレッド精霊教会長が自分の娘を帝国の王妃にしたかったのだ。
シェルゲンバッハはそれを拒絶し。辺境伯の娘を王妃に迎えた。
側室も精霊教会とは関係無い者を選んだ。
そして精霊教会の勢力を排除する。
エドナはティーア国のアリソン王太子の祖父の側室に決められて。
三十八歳まで聖女をさせられてこき使われたり、本人の意思を無視して帰国させなかったり、勝手に本妻どころか側室に決められたり。全てが有り得ない仕打ちだ。
だからシェルゲンバッハはエドナが事故で死んだ事にして。エドナを後宮に迎え入れた。
やっと愛する者同士結ばれた。
エドナは精霊力のせいで十八歳ぐらいにしか見えず。
誰も元婚約者のエドナ・クレイオー伯爵令嬢だとは思わなかった。
聖女は常にベールを被っていたからだ。
おとぎ話なら王と聖女は幸せに暮らしました。めでたしめでたし。で終わるはずだった。
だが……そうはならなかった。
血の惨劇が訪れる。
多くの王子王女と王妃側室が亡くなった。その中にエドナもいた。
ツェレティーア姫は行方不明となり。
残された王と王子は十年の間喪に服した。
「流石は帝国の姫様だな」
「氏より育ちと言うけれど。中々どうしてたいしたものだ」
ツェレティーア姫は金持ちの老婆に拾われて辺境でひっそりと暮らしていた事になっている。
「ああ……なんて素敵な紫のドレス。それにティアラ。溜息しか出ないわ」
「帝王様はツェレティーア姫が生きていると信じておられた」
「国宝のダイヤモンドを歳の数だけティアラに付けて」
「何方かもう決められた婚約者はいらっしゃるのかしら?」
「皇帝がやっと会えた我が子を直ぐに手放すとは思えない」
「ラストダンスは誰と踊られるのかしら?」
「王族の方では無いの?」
「帝王様か。王太子様ではないの?」
「もしかして婚約発表も兼ねるのかしら?」
この国ではラストダンスは婚約者と踊る事になっている。
姫が誰の手を取るのか皆興味深々だ。
姫の婚約者に名乗りを上げる気満々の若き貴族達。
是非に姫を我が家族に迎えようと策略する親達。
帝国の姫を我が国に輿入れさそうと画策する外交官達。
様々な思惑が人々の間で踊る。
「お初にお目にかかります。ツェレティーア姫」
ツェレはニッコリ笑い。元婚約者だった王子を見る。
彼もこのパーティーに招かれていた。
婚約者の姿はない。
元婚約者を見るツェレのその瞳には愛情も憎悪も無く。
無関心。ただそれだけだ。
「ようこそアリソン王太子様。どうぞパーティーをお楽しみください」
社交辞令を口にする。
かの国にいた時ツェレティーアは王太子の婚約者ではあったが、いつも地味な格好だった。
でも今はさなぎから蝶になった様に美しく輝いていた。
アリソン王太子がツェレティーアの美しさにしばし呆然とした。
その隙に腹の出た異国の男がしゃしゃり出る。
「本当にお美しい。しかも堂々として正に王族の宝物ですね」
小国べネゼの外交官がアリソン王太子を押しのけるように前に出て褒め称える。
次々と外交官が姫に群がる。
アリソン王太子は見る間に後ろに追いやられ。
帝国に対して重要では無いアリソン王太子の扱いはそんなもんだ。
しかもアリソンには婚約者がいる。彼には不利な戦いだ。
「是非に我が国に訪問して頂きたい。王も王子も国を上げて歓迎いたします」
「いや。まず我が国からご訪問下さい」
次々と外国の外交官や自国の貴族がツェレを自国に引き込もうと必至だ。
アーウィン王太子に何かあればツェレに王位が回ってくるだろう。
ツェレティーアは権力に群がるアホの群れを冷たく一瞥して、おもむろに口を開いた。
「皆様お誘いいただきありがとうございます。ですが私はお父様とやっと再会できました。暫くはお父様の側にいとうございます」
必殺。パパの側にいた~い。お嫁に行かない。作戦である。
シェルゲンバッハ帝王の不況を買うかもしれないと気付いたハイエナ達は。
「そ……そうですな……暫くは父上に甘えたいでしょう」
「家族の団欒を奪うのもなんですな」
「ははは……全くですな」
彼等は冷気を駄々洩れにしているシェルゲンバッハ帝王とアーウィン王太子に畏怖の視線を向ける。
ツェレティーアは舞踏会場を後にして花々の咲き誇る温室に居た。
「疲れましたか? ツェレティーア様」
青い騎士服に身を包んだエーゼリンは凛々しく。
いつものだらっとした彼女とは別人だった。
「リン。少し疲れたわ。これから精霊皇と対決なのね」
ニッコリ笑いリンは「はい。ツェレ姫。私たちが命に変えてお守りいたします」
そう言うとツェレにお茶を渡す。
温室の周りには幾人もの護衛騎士達が居て。
ツェレの身を守っている。
パーティー舞踏会場でもそれと無く騎士達は王族の側にいて守っていた。
ツェレの側には【白バラ騎士団】所属のリンを始めとする女性だけの騎士団だ。
「アリソン王太子もこのパーティーに呼ばれていたのね」
「はい。あの国が教会と手を組んでいたのは間違い無いでしょう。今後の奴らの動きを探るのに精霊皇も招いています」
「私は敵に育てられていたのね。孤児の私を引き取って育ててくれたと感謝していたなんて。笑えるわ」
「あの国の生活は全てが偽りだったのです」
「全ては偽り……真実の愛……」
「真実の愛ですか?」
「そうあの国で二人は真実の愛で結ばれていた。と周りの人たちが言っていたわ」
ツェレティーアは幾度も繰り返されたループで義父やメイドや精霊教会の神官達がいつも口にしていた言葉を思い出す。
二人は真実の愛で結ばれたのだ。だからお前は邪魔なのだと……
二十五回目のループの時。牢番はそう言っていた。
その後妹を殺そうとしたと無実の罪で処刑され。
三十回目のループの時は。
妹とアリソン王太子が華々しく結婚式を上げているその時。
ツェレティーアは精霊教会の反省室に入れられて。
冬の寒い日で反省室には暖房などなく。
水をかけられ肺炎になって死んだ。
神官たちは私に悪魔が憑りついていると言って鞭で叩いて水をかけた。
今にして思う。王族と精霊教会はグルだった。
私の存在が、何らかの理由で価値を無くした。
だから妹がアリソン王太子の婚約者となり。私は排除された?
私が死んだ後の世界がどうなったのか……
私は知らない。
アリソン王太子とアデルはどのループでも結婚したのだろう。
真実の愛で幸せに暮らしたはずだ。
?
でもそれなら何故アリソン王太子は時を戻すのだろう?
私が死んだ後で何が起こったのだろう?
どうやってアリソン王太子は時を戻せるんだろう?
王族の特殊スキルなんだろうか?
その時温室の入り口が騒がしくなり。
誰かが来たようだ。
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2018/7/12 『小説家になろう』どんC
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