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第二章 帝都の館にて

 その館は王都の東の端にあり。商業地域の近くにあった。

 こぢんまりとしているが、中々居心地が良く。

 庭も手入れされ特に庭に植えれれた花の色彩は素晴らしいものがあり。

 この館の主が庭に情熱をかけているのが分かった。

 特に池に咲く青い睡蓮は見事だとロイドは語る。


「少し前に睡蓮が咲き終えてしまったが、来年も見られるから楽しみにすると言いよ」


「本当に素晴らしい。まるでキャンパスに見立てて描かれたよう」


「あっ!! 分かった。ここ有名な画家が生前住んでいた所なのよ。画家が亡くなって。うちの団長が買い取ったんだよ。もう二・三同じ様な家があってここが一番小さい館なんだ。ツェレの亡くなった母君もその画家が好きだったんですって。部屋に画家の絵があったそうよ。今は……開かずの間扱いで掃除のメイドぐらいしか入れないんだよ。きっとこんな景色の絵なんだろうね」


 リンが教えてくれる。

 私は覚えていない母の話を聞きながら胸が暖かくなるのを感じる。

 お母様が好きな風景。暖かく、優しく、艶やかな色彩が踊る。

 服の上からペンダントに触る。

 すっかりペンダントに触る癖ができてしまったわ。きっとマナーの先生に怒られてしまう。

 まあ。もう王太子の婚約者では無いのだから関係ないわね。


 ロイドが玄関のライオンが咥えるドアノッカーを鳴らすと。

 扉が開き。執事が出てきた。

 歳は四十台後半で老いてもハンサムだ。

 後ろに二十人ほどの侍従と侍女が二列に並んで私達を出迎える。


「お帰りなさいませ。ロイド様。リン様。そして……ツェレ様。ツェレ様のご帰還を私共みな心よりお待ちしておりました。今は亡きツェレ様の母上様もどれ程お喜びになられるか……」


 執事は泣いていた。


「間違いない」


「このお方こそ」


「行方不明になっていた。我らが姫」


「ああ!!よくぞご無事で……」


 後ろの者たちもつられて泣く。


「ありがとうございます。皆さんにこれ程喜んでいただけるなんて。わたし……わたし……ここに来てよかった」


 私も思わず涙ぐんでしまった。

 正直「お前などここの娘ではない!! 偽物だ!!」と追い出されるかもしれないと内心ビクビクしていた。

 でも彼等は私を受け入れてくれるようだわ。


「さあ。ツェレ様お疲れでしょう。お部屋の方に湯浴みの用意もドレスの支度も整えております。旅の疲れを癒してください。夕刻にはお父上様とお兄様と弟様が来られるでしょう」


「セバスチャン。私達は城に行き。ツェレ様の帰還のご報告を告げてくる」


「ロイド様。リン様。ツェレ様をこの国に連れ戻していただき。ありがとうございます」


 再びセバスチャンは頭を下げた。


「じゃね。お城にいる貴女のお父上と兄弟を連れてきてあげる。待ってて♥」


 ロイドとリンは城へ向かい。私はこの館に残る。


「さあ。ツェレ様。こちらです」


 私は三人の侍女に二階にある部屋に案内された。

  侍女の一人は三十代であとの二人は若く十五歳前後だろう。

 その部屋はピンクと白を基調とした、女の子が夢見るお姫様の部屋で。

 前の私の部屋とは、雲泥の差があった。

 ゼルテネス家の部屋は茶色を基準とした重々しい雰囲気で、決して安くはない家具だが、何処かよそよそしい雰囲気を醸し出していた。余所者と拒絶されているような気がした。


「ツェレ様。私はハンナと言います。ここのメイド長をしています。ツェレ様。のお世話をさせていただきます。以後お見知りおきを」


「こちらこそよろしく」


 私は侍女達にお風呂に入れられた後、若草色のドレスに着替えさせられ化粧も施され。

 二階のベランダで一人お茶を飲んでいる。

 ほーっとため息が出る。本当にこの庭は美しい。

 この庭を作った画家がどれほどの情熱をかけてたのか。

 池のほとりで柳が揺れる。色とりどりの蝶が飛んでいる。

 色彩の魔術だ。


「本当に夢の中のよう」


 コンコンとドアがノックされ。ハンナの声がした。


「ツェレ様。皆様がいらっしゃいました」


「はい。今行きます」


 私はハンナに案内されて居間に向かう。

 重々しくドアが開き。私は居間に入る。

 暖炉の前に五十代の白髪の男性と彼によく似た、二人の若者がソファーに腰を掛けていた。


「ツェレ……」


 男性は私を抱きしめて涙を流す。


「よく生きていてくれた」


「お父様……?」


「ああ……そうだ。私がお前の父親だ」


「お父様!! お父様!! お会いしとうございました!!」


 私は父の胸で泣いた。

 二人の兄弟も優しく見つめてくれる。


「でも……直ぐに私だと分かりましたね。もしかしたら偽物か。よく似た他人かも知れないのに」


「そうだね。でも帝国貴族では魔力紋が取られるんだ」


「魔力紋?」


「そうか。余り魔術が発展していないお前の国では知られていないか。わが国では産まれた貴族の子供は魔力紋が取られる。特に王家の魔力紋は特徴的で金の十字に虹色の波が現れる」


「えっ? 王家?」


「そう。お前は内乱の時に行方不明にになった第二王女なのだよ」


 ツェレは固まった。


「えっ? それじゃ……」


「そう。私が第七代帝国王シュルゲンバッハ・ゲブリュルでここに居るのが王太子のアーウィン・ゲブリュルで弟がセイン・ゲブリュルだ。そして……ツェレ。お前の本当の名はツェレティーア・ゲブリュルなんだよ」


 ふらりと視界が揺らめく。

 本当に? 信じられない。私は王女なの?

 お父様は私をソファーに座らせてくれた。


 お父様の話によると私が一歳の時、王都で内乱が起きた。

 いや。内乱に見せかけた。王族惨殺事件。夏祭りで王族のパレードが襲われて。

 テロリストは二手に別れてパレードと王子や側室が住む離宮が襲われ。

 それにより八人いた王の子供の内、生き延びたのは第三王子と行方不明にになった私のみ。

 セインはその事件の後に産まれた王子だ。多くの側室や王子や王女やメイドが殺され。

 実行犯は暗示により自害していた。暗殺者の国籍はバラバラで。手掛かりは何もなく。

 ただ首には洗脳の刻印が刻み付けられ。

 私の行方も杳として知れなかった。


 ところがロイドにより吉報が齎され。

 私はここに連れて来られた。


「ここの使用人はお前の母親の伯爵家の者で執事も昔から仕えていたんだよ」


「それで……あの皆さん涙を流すほど喜んでいたんですね」


「そうだ。きっと生きているとみんな信じていた」


「シュルゲンバッハ様。お食事の用意が出来ました」


「ああ。そうか。みなもお前の話が聞きたいだろう」


「そうですよ。父上ばかり姉上とお喋りして。少しは僕もお話ししたい」


 十二歳のセインが頬を膨らませて抗議する。

 聞けばセインの母親も、産後の肥立ちが悪く既に亡くなっているそうだ。


「おお。そうか。すまん。すまん」


「本当に母上が生きていればどんなに喜ばれた事か。落ち着いたら母上のお墓参りに連れていってあげるよ」


「お兄様。ありがとうございます。早くお母様のお墓に報告したいです」


 食事はサンルームに用意されていた。

 色とりどりの南国の花が咲き乱れ。鳥かごには美しい鳥が囀っている。

 私は和やかな雰囲気の中で、自分の生い立ちを話す。


「私は子どもの頃にはもう既に自分がゼルテネス家の血を引いて居ない事に気が付いておりました。歴代の家族の肖像画の誰にも似ていなかったのと。魔力が少なかったからです。そのせいで王太子様との婚約は破棄されました」


「お前と王太子の婚約が破棄されたのは光明だ。婚約や結婚などしていれば取り返せなかった。しかし……魔力が少ない?」


「はい。お恥ずかしながら、平均より少ないそうです」


「それはおかしいな。あの王家は魔力の少ない者とは結婚できないはずだが?」


「私も首を傾げておりました。伯爵家の養女とは言え拾われて来た娘、それも魔力が少ない娘を王太子妃にするものだろうかと……」


「もしかしてあの国の王族はツェレが帝国の姫だと知っていたのでは?」


 お兄様がおっしゃった。


「結婚させて帝国の姫だと知らせる算段だったのではないか? 我が帝国に魔石の便宜を要求するつもりだったとか?」


「それなら何故婚約破棄を?」


「アリソン王太子様が私の妹アデルに恋をしたからでは無いのでしょうか?義父はアデルを殊の外可愛がっておりました。それに妹は聖女でしたし……」


「そこが可笑しいんだよ」


「……?」


「聖女っていうのはね。子供の時にその力を発動するもんだよ。そして使いこなせるには神殿に入り厳しい修業をする」


「お前の妹が力を使えるようになったのは幾つの時だ?」


「確か十五歳の時でしたわ」


「そこも可笑しい。そんなに年を取ってからの発動はせいぜい擦り傷を直すぐらいだ」


「えっ?でも……義妹はかなりの怪我人でも直していましたわ」


「ツェレ!!」


「あ……はい」


「僕達の母上は聖女だったんだよ。僕も聖魔法が使える」


「えっ? 本当ですか?」


「あの……姉上……その胸のペンダントを見せてくださいませんか?」


「ペンダント? はいどうぞ」


 私は弟にペンダントを渡した。


「姉上知ってましたか? このペンダントは魔力を流すと……」


 弟は魔力を流し、ペンダントは聖女のような美しい母親と可愛い赤ちゃんの姿を浮かびあがらせた。

 お母様と私の姿絵? こんな仕掛けがあるなんて。知らなかった。

 あ……だからロイド様は私が王女だと分かったのね。

 お母様と私はよく似ている。


「ふむふむ……上手く偽装しているが、僕にかかれば造作もない……」


 再び弟は今度は強めに魔力を流す。

 禍々しい魔法陣が現れ。


 パリーン!!


 ガラスが割れるような音とともに砕け散った。


「お姉様の魔力はこの魔法陣で他の人に流れていました。これでお姉様も普通に魔法が使えますよ」


「えっ? 魔力が他の人に流れていた? 魔法が使えるって本当に……私魔法が使えるの?」


「ええ。当然です。魔力が強いから十六年前に王族惨殺事件が起きたと。僕は睨んでいます。帝国の王族は皆魔力が高く町や王都の結界石に十分な魔力を流し込むことが出来た。だが……他の国の王族は年々魔力が衰えている。特に酷いのはツェレお姉様が居た国の王族だ」


「流石天才の名を欲しいままにしていることはあるな」


 お兄様が感嘆と共にセインを賛美する。

 我が弟ながら怖い奴とぼそりと呟く。


「でかした。セイン」


 お父様も嬉しそうだ。

 でも……


「ツェレの魔力の送り先はアデルとか言う女の元だろうな」


 忌々し気にお兄様が言う。


「でもこれでその女の元に魔力は行かない。今頃は慌てふためいているだろう」


 お父様が……悪い顔をして笑っている。

 魔力が使えなくなった? それくらい大したことではないわ。

 だって妹は王太子様の心を射止めたのだから。


「だがこれで、スエルチ王家はツェレが攫われた姫であると知っていたことになる。下手をしたら十六年前の事件もあ奴らの仕業かもしれん」


「でもお父様、あの国は魔術後退国だとおっしゃったではありませんか? このペンダントの細工があの国に出来るでしょうか?」


「だとしたら教会が裏で糸を引いて居るんだろう」


「教会?」


「聖女教会なら此の位の技術はある。それに教会は私達の母上との確執があるんだ」


「確執ですか?」


「そうだ。元々母上はお前の国に嫁ぐはずだった。しかし……母上は父上の元に押しかけて来た」


「聖女は決められた国に嫁ぐ事が決められている。母上はそれを破った」


「お母様はどうしてその様な事を?」


「聖女の結婚なんて体のいい身売りなんだよ。どこの国が良い値を付けるかで決まる」


 父は苦虫を嚙み潰したような顔をした。


「さっきも話したが、私達の母上は聖女だった。五歳の時に力が発動して、教会に入った。聖女の力が弱くなる二十歳前後で聖女の座を降りてお嫁に行くんだが。母が聖女の座を降りたのは三十八の時だ」


「えっ? でも……肖像画は二十歳ぐらいに見えますが……普通なら子供を諦める年ですね」


 この世界では十八歳で結婚するのが一般的で。二十歳過ぎたら売れ残りだわ。

 一般人は寿命が短く五十代で亡くなる。それに対して魔力が多い王族、貴族は寿命が長い。


「聖女の力が強かった母上は、容姿が衰えなかった。母は神殿長アルフレッドと仲が悪かったんだ。元々母上は父上の婚約者だったんだが、神殿長は自分の娘を帝国の王妃にしたかったんだ。母上は目の上のたん瘤。なかなか次の聖女が現れなかったこともあり。母上は飼い殺し。三十八でスエルチ国に追いやられそうになったが、父上と共謀して死んだことにして後宮に別人として入ったのさ」


「まあ。ある意味駆け落ちですか?」


「教会から逃げ出したと言う意味なら駆け落ちに近いね」


「よく誤魔化せましたね」


「聖女はいつもベールを被って居るから。母上の顔を知る者は少ない」


「そう言えば歴代聖女は治療をする時でもベールを被っていると聞いたことがあります」


「そうだ。おまけに側室として入ったからな。田舎の男爵令嬢と言う触れ込みで後宮に入れたのだが……神殿の手の者が入り込んでいたのか? 取り敢えず調査は続行させる。それにお前が帰ってきてくれたのだ。祝典を開かねば、盛大に行うぞ」


「お父様。あまり派手なことは、王族惨殺事件の首謀者も分かっていないのに」


「だからさ」


「えっ? 私おとりですか?」


「大丈夫。お前は私が命をかけて守る。それにロイドをお前の護衛騎士にしょう」


「あ……」


 私が赤くなるのを見て、お兄様がニヤニヤ笑う。

 ううう~~お兄様の意地悪~~~~!!




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 2018/6/21『小説家になろう』 どんC

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最後までお読みいただきありがとうございます。

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