表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

おしごとの時間

作者: 藤村文幹

#匿名短編バトルきみのロボット編 https://kakuyomu.jp/works/1177354054885440692

にてエントリーした作品に加筆と誤字脱字修正を行った作品となります。

 出動はいつも、静寂な音と共に始まる。

 ハッチが開いて大抵は星空が広がって、たまに太陽に照らされてモニタが遮光モードに変わるぐらい。真空に囲まれハッチの音はしない。あとは、電子音声くらいか。

 マシンの両足を平行になったレールにそれぞれ載せる。高精密ベアリングによって滑らかにローラーが回ってレールに沿って自分の乗機が動き出した。

 静かな駆動音とローラーがレールを走る小さな音がスピーカーから伝わってくる。

 レールとローラーはLMが移動する要だ。

 物体伝導マイクによって機体の装甲や駆動部の音を拾い、各所の異常を搭乗者が耳でチェックする。無論、マシンによるチェックは毎日やってるし、整備士の整備も万全だ。だが、万一の確率を更に下げるためパイロットのチェックは欠かせない。だから、コックピット内での音楽は厳禁だ。

 林立する、ここの表面をまさしく埋め尽くすように設置された光パネル。パネルとパネルの間をまんべんなく無数に走るレール全てが、LMの道である。

 事前指定されたルートはモニタの補助機能によって赤く光って見える。道を間違えることは無い。

「指定位置に到着」

 赤い光の終点について止まり、報告をした。

『了解。おはようございます』

 スピーカーを通して元気な声が挨拶をする。声に覚えがあった。

 俺は整った彼女の顔を思い出して、少し嬉しくなりながら応える。

「お、今日はクッキー、君か」

『はい。一日よろしくお願いしますね、アマさん」

 笑顔が素敵な彼女の顔はモニターには表示されない。いつものことだが、残念だ。声も十分に可愛いが。

「それで、今日の予定は?」

『今から11分後に最初のお仕事でランク1。モニタに時間表示します』

 モニタの片隅で時間までのカウントダウンが始まった。

『その後0827ランク4、0841ランク2。そしたら2時間の待機となります』

「あれ? お掃除は?」

 光パネルの清掃も業務内容だ。なのに、いきなりの待機時間に俺は訝しむ。回答はすぐだった。

『お忘れですか。今日から交換ですよ』

「ああ、そうだった」

 パネルには分厚い透光シートが被せてある。迎撃しそびれた破片や迎撃するまでもない微細な塵や埃からパネルを守るためのシートだ。そのシートを交換するから、しばらくは清掃はないと。

「たしかカレンダーやお知らせにあったね」

『ちゃんと確認して下さいね』

 パイロットとオペレーターは有事を除いてコンビで動く。途中交代する場合もあるが、概ね勤務時間中はずっと会話出来る状態だ。だから、好ましい相手がオペレーターだと、その日一日が良いものになるのが常だった。

 最初の時間まで、今日の予定を話ながら待つ。言葉を交わしながらも、各種ステータスやカウントダウンには目を通していた。

 残り1分。

「っと、通電、開始」

『はい、了解です』

 操縦桿脇にあるスイッチを押してマシンの右背に背負う円筒形の機械に通電する。起動は機体を動かすときに既に。

 機体の全高よりも長い、直径1000長さ20000の円筒形。中には直径500長さ15000の人工合成ルビーのレーザー発振器が入った、大出力レーザービーム照射器だ。

 機体と照射器をつなぐアームを動かしの脇に抱えるように構え、先端を斜め上――角度75コンマ3に向ける。さきほどのスイッチで発振器は既に励起し始めていた。あとはトリガーで電気を供給すれば、一つ目の仕事が終わる。

 エネルギーは問題無い。レールを通して機体に供給される。周囲に立ち並ぶパネルから少しだけ拝借するのだ。

『レーダーリンク、既に』

「確認してるよ。カウントゼロと同時に照射。いつも通りだね」

『はい、お願いします』

 気の利いた効果音や盛り上がる要素など何も無い。いつもの仕事だ。

 宇宙ゴミをレーザーで蒸発させる。ただそれだけの、けれどここを守る大切な仕事。

 月から地球を挟んで裏側に建造された月と同サイズの人工衛星セカンドルナ。小惑星を核とし、太陽光パネルで表面を覆い、突き出たマイクロウェーブアンテナで地球にエネルギーを送り出す。今の地球におけるエネルギーの要。

 ここが、俺の職場で守るところだ。

「さあて、今日も気合いを入れて守りますか……ッと!?」

 モニターに映る目標を視認し、俺はトリガーに掛けていた指を慌てて離した。

「中止! 中止だ!! C号案件!」

『モニター確認しました。直ちに回収にあたってください」

 目標はボロボロの脱出ポッドだった。太陽光に焼けて塗装がはがれ、デブリと衝突したのであろう傷が無数についている。C号案件とは、「coffin」、棺、つまり遺体の発見可能性アリ、だ。

 昔は、いや今も他じゃ大気圏に向けて動かし、流れ星処分しているようだがここでは違う。すでにここの重力に引っかかっているのだし、なにより俺たちが撃つことをいやがった。皆の陳情のお陰だ。余計な仕事は増えたが、死体を撃つよりはマシだって、俺もそう思う。

「了解、回収作業にあたる。後続のスクランブル、よろしく」

 回収作業をすれば次のデブリに間に合わない可能性も十分にある。スクランブル要請は早いに越したことがない。増えた仕事のお陰で仕事終わりの残業が増えた。前の担当には悪いと思うが、仕方ない。だろう?

『了解、要請しておきます』

 クッキーの返事を聞きながら、コックピット右側の壁にあるレバーを引く。ガス圧が抜けるプシュという音が届き、モニターに『デブリ対応機器パージ』と表示された。モニター越しの映像でも照射器がアームから離れるのを確認する。

「作業ポッド、射出」

 言いながら、今度は左側の壁にあるレバーを引いた。急激な下方向へのGに耐え、ステータスを確認する。人型をしているLMの腰のあたりから分離し、宇宙に向けて射出したのだ。こうすることでLMは作業用ポッドへと早変わりする。下半身とポッドをつなぐワイヤーがある限り、漂流の心配はない。この機体のワイヤーは交換してから間もない、はずだ。

 宇宙に放りだされるたびに不安になるのは、俺だけではないと思う。

 ガスを噴射しながら俺はデブリになってしまった脱出ポッドに向かった。

 

 

 この時は、俺はすでに巻き込まれていることに気づきもしなかった。

こっから長編が始まりそうですが始まりません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ