第6話
宿屋での借金、3000ゴールド。
僕はいまだにパンツ1枚だ。
そして、スーラはマント、ドーラは僕の服を着ている。
一応、今日のところは空腹からは逃れたが、まともな服もない上にさらには借金に見舞われている。
それもこれも、あの大食いドラゴン娘のせいである。
魔物を人間の女の子にしたにも関わらず、食べる量が魔物のときと変わってないんじゃないか?
だが、ご本人いわく。
「だいぶ少なくなったよ」
だそうである。
それでもまだ物足りなさそうにしているから、ほんと困った。
で、借金ができた僕たちは借金分働くまで、宿屋での労働をさせられることになった。
それとパンツ1枚で宿屋内をうろつかれたら、かえって迷惑とのことで、まともな服が貸し与えられた。
とりあえず、見た目上はTHE浮浪者からは脱却したわけだ。浮浪者どころか変質者か。どっちがより蔑まれるのか、わからないが。
夜が明けてから、僕とスーラは料理、ドーラは掃除を担当することになった。
僕、料理したことない……あ、家庭科の調理実習があった。
「スーラ、料理したことある?」
すると、彼女は天使の微笑みを浮かべ、
「いいえ」
やっぱりか。
スーラに期待していいのはかわいさだけだと思えば、がっかりもしない。
「あ、そういえばハルカ様」
お、ひょっとしたら1回くらい経験あったのを思い出したのかも。
「なんだい?」
「お腹が空きました」
思えば、スライムに料理経験を期待した僕がバカだった。
しかし、それにしてもよく空く腹だ。
「こんなもん不味くて食えるか! ちゃんとレシピ教えたろ? そもそもスープじゃないだろ、これ? 食材無駄にしやがって!」
厨房に響きわたる宿屋主人の怒鳴り声。
スーラがスープを作った。
ただ、どう調理したのか皆目分からないのだが、ゲル状に固まり、食せば異世界に転生しそうな味に仕上がっていた。
それだけじゃない。
「おい、そういえば、皿はどこだ? えらく少ないじゃないか!」
宿屋主人の苛立ち紛れの問いかけに、僕はおそるおそる床を指差す。そこには散乱した、無数の粉々の破片。言わずもがな、しばらく前まではお皿だったものの変わり果てた姿である。
スーラが落としまくった結果であった。
それでも一生懸命やっているのだ。
どうやったらあそこまで落とせるのだろうか。
「すみません」
スーラが涙目になって謝る。
かわいい、かわいすぎる。
宿屋の主人も怒るに怒りにくそうだ。
いや、しかしだからと言って。
「お前が責任をとれ!!」
僕の方に話が来るのは理不尽だ。
と、いうわけで食材に皿代にと、借金はさらに500ゴールド増えてしまった。
スーラの使えなさそうな匂いは感じてはいたが、想像を超えていた。
「なにやってんだい!」
当然ドーラはぶちギレである。
スーラを穴の開くほど睨みつける。
だが、元はと言えば、ドーラ、君の食欲にも原因があるんだよ。
そういう気持ちはスーラにもあるらしく、ドーラに対しては不満そうだ。
「わたくしよりも、ドーラさんのほうが借金を増やしてます!」
「あたしに、言い返すなんて無謀なスライムは初めてだよ!」
「2人とも落ち着こう、また魔物退治でお金を稼げばいいよ」
疲れる。
そんなこんなで何日か経ったとき。
宿屋にとある客が現れた。
全身を黒い鎧で覆った男だった。
兜のバイザーも下ろしていて、顔も分からない。
僕と宿屋の廊下ですれ違うと尋ねてきた。
「この周辺で最近赤い竜が空を飛んでいたのを見てないか?」
かすれた低い声だった。
それはドーラのことだろうか。
嫌な予感がする。
「見てません」
とりあえずそう返しておいたが。
念のためにドーラにその男のことを話すと顔色が変わった。
「その男は、ドラゴンスレイヤーだと思う。とてつもなく強い。正体がバレたら、あたし、こ、殺される」
豪胆なドーラが震え上がっているのを見て、これはただ事では済まないだろうと直感したのだった。