第58話
剣を振りかぶった僕の全身を青白い稲光が覆った。
だが、僕は倒れることはなかった。
というか、全くと言っていいほどダメージを食らっていなかった。
服がさらに焼け焦げたが、それくらいだ。
僕にとってはそれくらいと流していいのか分からない死活問題ではあるのだが。
そして、よく見ると剣だけが今なお青く煌めいていた。
まるで剣が雷を帯びたように。
これは?
今はごちゃごちゃ考えている余裕はない。
リリカを助けなくては。
僕は目の前の宝箱の化け物に剣を振り下ろす。
するとそいつは口から生えた多数の手を足のように使って恐ろしく素早く動いた。
僕の剣の攻撃範囲から簡単に逃れてしまう。
だが。
僕の剣の青白い光が切っ先から伸びると。
宝箱型の魔物を捕らえた。
魔物は感電したようになり、急に動きが鈍くなり、倒れた。
僕はすかさず跳びかかるとうずくまった宝箱を叩き切った。
悲鳴とも聞こえる甲高い音を発してその魔物は消えていった。
これでリリカの動きを封じる邪魔物はいなくなった。
「リリカ!」
後ろを振り向くと、巨人はすでにリリカの攻撃に押されはじめていた。
巨人の矛を使った攻撃。
しかし、本来の機動力があるリリカに命中するわけもない。
素早く飛び回ってサイクロプスを翻弄したあと、彼女は懐に飛び込み、足元を攻撃する。
巨人はひとたまりもなく前に倒れこむ。
次の瞬間にはうつ伏せになった巨人の背中の上にリリカの姿があった。
「トドメだ」
切っ先をサイクロプスに突きつける。
サイクロプスの大きな瞳が僕を見る。
その瞳は僕に助けを求めているように見えた。
すると、僕の中に大きな葛藤がうまれる。
ここであの力を使えば、サイクロプスを助けだすことができる。
人間の女の子に変えてしまうわけだが。
だが、それをやってしまうと食費はどうなる。
それでなくても、食費が間に合ってないんだ。
スーラの姉のスライなんて未だに宿屋で下働きさせられている。宿屋の主人に借金を返せていないからだ。
僕が彼女たちを女の子にしたからにはなんとか責任を取らなければいけない。
彼女たちを十分に養えていないのに、ここで、このサイクロプスまで女の子にしてしまうのは無責任ではないか。
だが、サイクロプスの懇願するような視線。
ダメだ。
決められない。
「いいなの?」
左袖を引っ張るジーマ。
僕はどうしたら、どうしたらいいんだ。
「リリカ、待って!」
気づくと僕は叫んでいた。
最後の一撃を加えるべく構えるリリカは僕のほうを向き直る。
「どうした?」
「トドメを刺すのは待ってほしい」
「え?」
なんて優柔不断なんだ。
自分で決めなきゃいけない。
リリカに殺させるなんてダメだ。
助けるにせよ、殺すにせよ、僕が決めないと。
僕はサイクロプスに近づいた。
やつはずっと僕を見ている。
まばたき一つしない。
このまま殺すと夢に出てきそうだ。
僕は自分が本当に情けないと思いながらも、右手を目の前の巨人にかざした。