第57話
ただの壁じゃなかった!
いや、この際それはどうでもいい。
リリカが壁の向こうに飲み込まれてしまった。
おそらく僕たちを分断して戦うつもりなのではないか。
リリカは一人でも強い。だが、多数の強力な武器を持つサイクロプス相手に1対1で戦うのは賢明とは言えないだろう。
物言わぬ壁を叩いてみるが、もちろん何も起きない。
僕は深くため息をつく。
すると、ジーマが僕の袖を引っ張る。
「お姉ちゃん、どこいったなの?」
不安げな表情の彼女が僕を見上げていた。リリカのことを心配している様子だ。
「ああ」
「じゃあ、まだ帰れないなの?」
リリカのことを心配しているというより、早く帰れないのが嫌なだけのようだ。
ジーマらしいと言えばジーマらしいな。
「ハルカ?」
「なに?」
「お腹空いたなの」
またそれかよ。
いいかげんそれは。
ガガガガガガガガガガ……
なんだ?
音とともに目の前の青い壁が急に開いた。
ま、まさか。
今の「お腹空いた」が、合言葉だったのか。
とにかく道は開かれた。
壁に開いた入り口の奥は闇で満たされていた。
「ジーマ、お手柄だよ」
「なの?」
不思議そうに首を傾げる彼女の手を引いて、急ぎ奥へと進んでいった。
道の天井は高いが、幅は僕の肩がギリギリ通れるほどしかない。
松明をかざしながら進むのがやっとだ。
相当深くまで続いている。
リリカの名を呼んで探すのがいいのか迷うところだ。
呼べば敵にもこちらの動きを気取られることになるかもしれない。
「まだなの?」
ジーマは相当お腹が減っているとみえる。
そこで、僕は考えるより前に剣を上に放り投げていた。
瞬間、頭上で電撃が炸裂する。
「ジーマ!」
僕は一気に狭い道を駆け抜けた。
ジーマは僕に腕を引っ張られて足が浮いてしまっていた。
やがてひらけたところに出た。
そこには青い巨人が立っていた。
そして、対峙しているのは。
リリカの姿だ。
だが、彼女は右腕を押さえている。
どうやら手負いのようだ。
リリカが苦戦しているなんて。
サイクロプスは巨大な矛を振り回す。
すると、矛の先からレーザー光線のように水が高圧で吹き出される。
リリカが剣でそれを防ぐが、明らかに押されている。
リリカほど俊敏な動きができれば、あんな水の攻撃、いとも簡単にかわせそうなものだ。
そこで僕は気づいた。
リリカの足元に無数の手がまとわりついていることに。
そして、その手が彼女の動きを封じていることに。
その手は近くの宝箱から生えていた。
いや、正確には宝箱型の化け物というべきか。
あいつをなんとかしなければ!
「リリカ、もう少し耐えてくれ!」
「ハルカ!」
リリカは頷き、攻撃に耐える。
僕が宝箱の化け物に近づくと、そいつの口からさらに手が伸びてきて、僕の行く手を遮ってくる。
さっき剣は投げてしまって、武器がない。
そこに。
「はいなの!」
ジーマが剣を投げてきてくれる。
ジーマとは思えないほど気が利く。
よほど、早く帰って腹を満たしたいに違いない。
彼女の期待に応えるためにもここは。
僕は剣を受け取ると瞬く間に、襲いかかってくる手を数本切り落とす。
そして、一気に宝箱の形をした魔物に迫った。
剣を振りかざした瞬間。
無数の雷が僕にまともに降り注いだ。