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第56話

 それらは音もなく気配すら感じさせず突然に現れた。

 数えただけでも10以上いる青いサイクロプスたち。

 いくらリリカやジーマが強いとはいえ、これは明らかに不利だ。

 周りを完全に取り囲まれているかと思われたが、唯一巨人と巨人の間に隙間があるところを僕は見つけた。

 そこから逃げ出すことは決して不可能ではない。

 いや、そこから逃げ出す以外にない。

 僕はジーマの手をにぎるやいなや。


「走れ!」


 叫んで駆け出した。


 僕はジーマを抱えてサイクロプスの足の間を無事抜けた。


「逃げるなの?」


 きょとんとした様子のジーマに首を縦に振って見せた。

 

 一瞬遅れてリリカがついてくる。


 彼女はすぐに追い付いてきて僕の横に並んだ。


「気になることがあるんだが」


 こんなときに悠長に話しかけてくるリリカ。

 後ろを振り向けば、何体もの巨人が追いかけてくる。


「話は後だ!」


 僕は巨人を背にフルスピードで出口のほうに走った。

 だが、そこでようやく違和感のようなものを感じた。

 確認するように僕は後ろを振り向く。

 決して速くはないが迫りくる巨人たち。

 

「おかしいと思わないか?」


 再びリリカが話しかけてくる。


 おそらく僕も感じた違和感のことなのだろう。

 リリカに対してうなずいた。


「私の推測が正しいなら」


 リリカは突然立ち止まった。

 そして、そこで追手のほうに向き直る。


「な、なにを?! 危ないぞ、リリカ!」


 やがて、巨人たちがリリカのところまでやってきた。

 だが、しかし。

 サイクロプスたちはどういうわけか攻撃してこない。 


 リリカは足元から小石を拾うと、巨人に投げつけた。


 それは巨人の体にはじかれ……なかった。

 むしろ放物線を描いてすり抜けると洞窟の床に落下した。


「やっぱりな。ハルカ、大丈夫だ」


 僕はリリカのもとに駆け寄った。


「リリカ、これって」


「そうだ、こいつらは幻だ」


 そう。僕の感じた違和感は後ろから追いかけてくる巨人たちの気配を感じなかったこと。確かに振り向いたら巨体が迫ってくるのが見える。その光景に誤魔化され、それらが気配を全く発していないことに最初気づかなかったのだ。


「こいつらからは匂いがしなかった」


 え? またここでも匂いで敵に実体がないことを見抜いたのか?

 犬みたいなやつだなと思いつつも、頼りになるリリカに感謝する。


「じゃあ、戻ろう。さっきの巨人のところに」


 僕たちはさっきリリカが一撃を加えた巨人のところへ駆けてきた道を戻っていった。


 だが、その姿は見えない。

 けれど、手がかりがないわけではなかった。


「血だ」


 床には先の巨人の傷から滴ったのだろう赤い液体があった。

 それに沿って追いかければ奴を倒せるだろう。

 僕たちは洞窟のさらに奥へと進んでいった。


 この洞窟思った以上に深い。

 いったいどこまで続くのやら。

 松明の炎があっても、血のあとがあっても、帰り道がどんどん長くなっていくと心細さを感じるものだ。

 道もどんどんと先細っていく。


 そして、壁にぶつかった。

 実際に物理的に壁に激突したわけではない。

 床の血痕が、行き止まりになったところで途絶えていたのだ。


「ここで血がなくなっているな」


 リリカがそう言って顎に手をあて考えるポーズをしたとき。

 僕はピーンときた。

 ファンタジーでこの展開なら、行き止まりの壁を通り抜けられる!

 これしかない!


「任せて」


 僕はリリカとジーマにそう言って、壁に触れた。

 だが。

 ただの壁だった。


「あ、いや、ただの勘違い」


 気恥ずかしくてそんなことを口走ると、リリカもジーマも頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。


 あてが外れてしまった。

 

 突然壁から手のようなものが伸びるとリリカに巻き付く。


「!」


 反応が一瞬遅れた間に、リリカは壁の中に飲み込まれてしまった。


 

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