第55話
ジーマとリリカは無事か?
そう思って振り向くと。
「お兄ちゃん、大丈夫なの?」
「ハルカ、今の雷くらいは避けられるだろ。情けないぞ」
二人ともなにもないかのように無事だった。
強いな、この二人。
頼もしすぎる。
にしてもリリカ、光の速さの雷をどうやって避けたのか。
僕は立ち上がる。
ダメージはあったが、さすが勇者。
我ながら魔法耐性強めだ。
だけど、王様にもらった貴重な貴重な服がぼろ布になってしまった。
心の中で一瞬号泣するも切り替えて。
「サイクロプスはどこだ?」
「気配まで隠してるからな、しかも第2撃が来ない。かなり慎重なやつだ。攻撃を連発してくれたら相手の場所も特定しやすいのだが」
そう言いながらリリカはあたりを見渡す。
静まりかえるが。
「ジーマ、退屈なの、退屈なの、退屈なの」
唐突にジーマが静寂を壊す。
緊張感なくなるから静かにしてくれないかな。
そのとき。
「危ない!」
リリカが僕の背中を突き飛ばした。
僕がつい今まで立っていた場所に一筋の稲光が走る。
結局、敵がどこにいるのか皆目わからない状況がなお続いているのだった。
雷が1発落ちるだけということは、どうも敵は一匹のようだ。
この一匹にだけでも手こずっていることを考えると……。
依頼によればこのサイクロプス、大量発生しているとのこと。
これまでで一番ピンチなんじゃなかろうか。
「見つけた!」
リリカの声が響き渡るのを耳にしたその瞬間。僕はまたしても前のめりに地面に倒れていた。その後に全身に走る激痛。どうやらまた一撃を食らったらしい。
そこで前方を見据えると10メートルほど離れたところに飛びかかったリリカの姿があった。
そして、その向こうには大きな人影、いや人影と呼ぶにはあまりにも巨大な人型のシルエットが見えた。
大きさはリリカの3倍くらいの背丈だ。
顔とおぼしきものの中央には巨大な目玉が1つ。
「こいつがサイクロプス?!」
僕が思わず漏らした言葉に頷くリリカ。
リリカの剣がサイクロプスの下腹あたりを貫いていた。
うがああああああーっ!
サイクロプスの鼓膜も破りそうな叫び声が洞窟全体を激しく揺さぶった。
「うるさいなのー!」
さすがのジーマも耳をふさいでいる。
サイクロプスが腹をおさえながらもがいている。
リリカはそれに巻き込まれないようにあっさり後方に退いていた。
僕はそんな彼女に目をやる。
どうやってサイクロプスを見つけたのか?
そんなことを思っていると、彼女はそれを察してか口を開く。
「雷を放つ一瞬だけ姿がうっすらと匂いがしたんだ。恐らく帽子の効果が雷を出すとき少し弱まるんだろう。それで一撃を加えられた」
リリカ、さすがに規格外の嗅覚だ。
ドーラの血の匂いが好きすぎるだけのことはある。
変な感心の仕方をしてしまったのはおそらく僕が雷に打たれておかしくなっているせいだろう。
だが、僕たちは次の瞬間、絶望的な光景を目にする。
さっきリリカが刺したサイクロプスを守るかのように多数の巨人たちが音もなく現れた。
闇の中からギョロリと多数の1つ目が僕たちを睨んでいた。