第54話
「リリカ、確認のために聞いておくけど」
「なんだ?」
「その報酬、当然後払いだよな?」
「当たり前だ」
当たり前だと偉そうに言われても……。
実はこいつスーラかそれ以上に天然なんじゃないだろうか。
「あのさ、それだと10日分の旅費がまず必要になるよね?」
「旅費もなにも、ドーラたんの血の匂いさえあれば、飲まず食わずで野宿すれば何もかからないだろ」
「そりゃお前1人ならそれでいいだろうが、お前以外のメンバーはどうなる! 野宿はいいが飲まず食わずなんてとても無理だ!」
普段食費で困ってるだけについつい力が入ってしまう。
「少し考えさせてくれ」
そう言って僕は思考しはじめる。
この問題をいかに対処すべきかを。
やがて、1つの結論にたどり着く。
「リリカ、訊きたいんだけど、Aランクの依頼なら1日で10万ゴールド稼げる依頼、ある?」
「ああ、多分あるぞ」
「ちょっと見に行こう」
僕とリリカはAランクの依頼が貼ってある掲示板まで行き、くまなく探してみた。
あった。
なんでも近くの洞窟で大量発生しているサイクロプスを全滅させてほしいという依頼で報酬は12万ゴールドだ。
「これだ」
「ただハルカ、これはかなり大変な依頼だ。サイクロプスというのは知ってるか?」
「1つ目の巨人だろ」
リリカにやや得意気に返す。ゲームで遊んでいたときの知識が役に立ってなんか嬉しかった。
「それはそうなんだが、もっと重要な点がある。サイクロプスは最高位の武器職人なのだ。自ら作成したとてつもなく強い武器を多数持っていてそれを振るってくる」
武器職人?
なんだ、それ。
そんな話は聞いたことがないぞ。
「たとえばどんな武器を?」
「まず、あいつらは被ると姿はもちろん気配まで消せる帽子で、巨体を隠している。そして、三又の鉾で地震や津波を起こし、雷系最高位のサンダーストームの魔導書で無数の雷を落とす」
なんだそのアイテムチートぶりは。
1つ目の巨人がのろい速度ででかいこん棒を振り回すだけだと思っていたが、全然イメージと違うじゃないか。
だけど。
「1日で12万ゴールドは大きいから、やろう」
「これで達成できなかったとき、私の信用が壊滅するんだが」
「僕も、リリカもいるんだからなんとかなるって」
リリカはしぶしぶ承諾した。
僕たちは街からほど近いその洞窟の前までやってきた。
白い岩肌に開いた入り口の奥には深くて見通せない闇が広がっている。
「スーラ、ドーラはここで待ってて。中は危ないから」
「ハルカ様が心配です」
「あたしもさすがに心配だよ。そこのリリカがいくら手練れだからって」
二人ともとても不安げに僕を見つめている。
すると。
「ジーマはどうするなの?」
ジーマが嬉しそうに訊ねてきた。
「ジーマは強いからついてきて」
「分かったなの!」
すると、彼女は大喜びだ。
普段の遊びの延長といった感じなのだろう。
だが、僕としてはかなり戦力としてあてにしているというのが本音だ。
さらに本音を言えば、彼女の食欲を少しでも抑えるため、戦わせたくはない。
だが、贅沢を言っている余裕は僕たちにはない。
こうして、僕とジーマとリリカの3人は洞窟の中に足を踏み入れた。
僕が先頭で松明を掲げながら進んでいく。
真っ暗で静かだ。
じめじめとしているが涼しい。
何の気配も感じられない。
やがて、奥の広間のようになっている所に行き着いた。
一本道でしかもここが最奥部ということは思った以上に小さな洞窟だ。
「サイクロプスどこなの?」
ジーマがきょろきょろと辺りを見渡す。
僕とリリカも周囲に気を配る。
そのときだ。
僕の頭上で何かが煌めいた。
そして、気がつけば僕は前のめりに倒れていた。
体に激しい痛みがあり、なにより王様からもらった服が黒こげになっていた。
そこで、僕は自分が感電したのだと分かった。