第52話
リリカに部屋の中に通された僕は、彼女の服装に違和感を感じつつも早速訊いてみる。
「リリカは竜族の血の匂いを嗅ぎわけられたりするのか?」
「唐突になんだ? 竜族も匂いには個体差があるが私なら嗅ぎ分けられるぞ」
「じゃあ、ドーラの妹を探せるかな?」
「ん? ドーラたんの妹?」
ドーラたん? いつからそんな呼び方になったんだ? しかも低音かすれボイスでそういう言葉を使われるとめちゃくちゃ気持ちが悪い。
「ドーラは妹を探している。探し出すことがもしできたら、ドーラともっと仲良くなれると思うんだけど」
「なるほど、はっきり言うができなくはない。血族同士なら匂いが似ていることが多いのだ」
そう言いつつ、いとおしそうに布の血の匂いを嗅ぐリリカ。声も兜のせいでオッサンみたいだし、ヤバい変質者にしか見えない。まあそのことには目を瞑ろう、この際。
「じゃあドーラの妹を探すことはできるんだな」
「不可能ではない。ドーラたんのためなら見つけてみせる。『目に見えない竜』よりさっきにそっちだ。うんうん」
そう言ってドーラの血の匂いをひたすら嗅ぎ続ける。
これほど残念な美人を僕はまだ知らない。
だが、彼女がドーラと仲良くやっていくことはとても大事なことなんだ。
本当のことを言えば、リリカがドーラの一族を滅ぼしたのではないということが証明できたら一番いい。だが、それは今すぐには難しいだろう。
「ところで、リリカ」
「なんだ?」
「お前はどうして僕たちと同行しようと思ったんだ? ほんとにドーラの血の匂いだけが目的か? 僕たちと旅をしたら自分以外の食費まで負担してもらうことになってしまうんだが」
「……」
口ごもる彼女。
だが、しばらくすると話し出す。
「私はドーラの一族を殺したわけではないが、多くの竜族を殺めてきた。それも自分の抑えられぬ食欲のためだ。だが、ドーラを見て、なにか分からないが罪悪感のようなものに苛まれてな。人の姿になっただけでなんとも虫のいい話に聞こえるかもしれないが」
「じゃあ罪滅ぼしのために、ドーラの役に立ちたいと?」
「ああ、それにお前にも一応興味がある」
「えっ! 僕に?」
そこまで話したところで部屋の扉が急に開く。
「どういうことですか?!」
そこに鬼のような形相で立っていたのは。
「スーラ?!」
「リリカさん、あなたが興味があるのはドーラさんであって、ハルカ様ではないはずですよね?!」
「お、おい、待って、スーラ!」
「ハルカ様は黙っていてください! だいたいどうしてこんな時間にお二人がこっそりと会っているのです?! リリカさん、あなたが誘ったんですか?! そうなんですね?! どうなんですか?!」
元スライムとは思えない迫力でまくし立てるスーラ。
唐突に修羅場が始まろうとしていた。
修羅場、最近多くないか? 僕は疲れたよ。