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第50話

「こっちだ」


 黒い甲冑姿のリリカは軽い足取りで僕の前を行く。

 正直に言ってこいつは人間なのかと思うほど速い。

 ‎付いていくのが精一杯で彼女との距離はいっこうに縮まらない。

 ‎やがて、河辺に出ると見慣れた青い髪の少女が座り込んでいるのが見えた。

 

「あの娘か?」

「ああ、そうだ。しかし、リリカの鼻は犬並みなんじゃないか? すごいな」

「これくらい鼻が利かないと竜を捕まえるのは難しいんだ」


 そういうものなのかと心のなかで愚痴ってみるが、スーラがあっさり見つかったのは助かった。思いの外、遠くまでやって来ていたのだ。

 ‎しかし、ここまで来て僕は途端に困ってしまった。

 ‎スーラになんて言葉をかけたらいいのだろう。

 ‎とりあえず謝らないと。


「ちょっと話してくるからリリカはここで待っていてくれないか?」

「分かったよ」


 ‎僕はスーラの方に近づいていった。


「スーラ」


 僕の呼び掛けにびくりとする彼女。


「見つかってしまいましたか」


 気まずそうに笑顔を見せるスーラ。


「わたくしってバカですよね。こんなふうに迷惑かけて。ただでさえ普段からご迷惑をおかけしているのに」

 「そんなことないよ。僕はスーラにいてもらえて良かったなって思ってる」 


 そこで沈黙。

 ‎

「あの」

 

 沈黙を破ったのは、僕だ。


「さっきのことだけど、ごめん。食費のせいにしてちゃんとスーラに向き合ってなかった。スーラの気持ちに向き合うべきだった」

「ハルカ様」

「僕はスーラもドーラも同じくらい好きなんだ。どっちかを選ぶなんて今のところできそうにない。食費とか関係なしにそうなんだ。僕はずるい人間だ。スーラを選べばドーラを、ドーラを選べばスーラを失うような気がして怖かった。それなのに二人の居場所のためだと自分を正当化していた」


 スーラは無言で聞いていた。


「スーラもドーラも大切だなんて、僕はこの通り優柔不断な人間だ。でも、食費の問題が解決するまでに自分なりにけじめをつけるというか、結論を出したいとは思ってる。もうちょっと待ってほしい」


 しばらくするとスーラは頷いた。


「わたくしの気持ちに真剣に向き合ってくださってありがとうございます、ハルカ様。本音を聞くことができてよかったです」


 スーラは涙ぐみながらそう語った。


「いや、それにしてもさっきは苛立ってしまって申し訳なかった」

「いえ、わたくしもこんなところまで走ってきてしまって。お探しになるのにご面倒だったのでは?」

「うん、それがそれほどでもなかった」

「え、そうなんですか?」

「おい、出てきてくれていいぞ」


 僕が呼ぶと木の影に隠れていたリリカがスーラの前に姿を表す。


「え、この方は? その黒い甲冑は確か竜殺しの……!」

「いかにも。リリカという名だ。よろしくな」

「え? え? 男の人なのにリリカさん?」


 困惑している様子のスーラに僕が少し口を挟む。


「こいつ、実は男じゃないんだ。兜をぬげ、ってそれは無理か。あ、そういやバイザーを上に上げるのはできないのか?」

「それならできるぞ」


 自信満々にそう言ってバイザーを上にあげると美少女の顔が現れた。

 ‎こうやって顔を晒すのに抵抗がないくせにどうして兜は外せないのかその理屈がとかくよく分からない奴だ。

 ‎スーラはまだ状況が飲み込めていないらしい。


「えーと、女の方であるのは分かりました。けれど、どうしてハルカ様と竜殺しのリリカさんは仲良さそうに話しているのですか?」


 だよな、その疑問がむしろ先に来るべきだ。

 ‎ん? スーラの様子がどこかおかしいぞ。


「しかもリリカさんは相当な美人ですね、これはどういうことですか、ハルカ様」


 スーラの目付きが怖い。

 しかし、これはどういうことかと問われても、竜殺しが実は女、しかもすげえ美少女だという事実は僕とは直接関係ないわけで。


「ス、スーラさん、ちょっと落ち着こうよ、ね、ね?」


 僕は慌てて彼女をなだめようとする。

 そこでリリカが援護射撃のつもりか、話に入ってくる。


「私はハルカには興味はない、あるのはドーラとかいう娘だ。だから安心しろ」


 すると、スーラの様子がガラリと変わって、顔を赤らめている。


「女の子同士がご趣味だなんて……」


 はあ、変な誤解してるよ。

 もう知らねえぞ。

 ‎


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