第49話
にしてもこのドラゴンスレイヤーこと兜なし恐怖症のリリカ、一体どうするのか。
なんか和んでるし、旅仲間になってしまいそうな予感すらする。兜なし恐怖症のせいで手強い敵という認識が薄まってしまったに違いない。
彼女の旅の目的ははっきりしている。『目に見えない竜』とやらを探すことだ。
だが、ドーラは今でも警戒している。
「こいつと仲良く旅なんて、あたしはごめんなんだけど」
それはご最もな意見だ。
「そこのドーラとやら、私は腹さえ減らねば竜を襲うような真似はしない。私が竜殺しの二つ名を持つからと毛嫌いしないでほしい」
まあ竜殺しの側からしたらこんなふうになるか。
「そういうことじゃないんだよ。お前は覚えていないのかもしれないが、魔王様のお城近くの竜の巣を襲撃して、巣の竜を壊滅させただろう? あたしはなんとか逃げ延びたけど妹とも離ればなれになってしまった」
それをドーラから聞いたリリカは首を傾げた。
「巣の中の竜を壊滅? そんなことはしたことがない。私は確かに竜を憎んできたが、最近は親の敵として竜を殺すなんて余裕はなく、もっぱらこの空腹を満たすために竜を殺している。特に近頃は竜が少ない。巣にたくさん竜がいるなら、数日に一匹狩らせてもらうことはしても、巣に突撃してまとめて竜ちを殺すなんてことはしない。なにぶん、狩り貯めることはできないんだ」
竜殺しさんの特殊な食事情だ。
「だけど、あんたそっくりの容姿だった。だまされないよ!」
ドーラを納得させるのは大変そうだ。
「私としては誰かが私に成り済ましてやったとしか思えないが。なんにせよこの布切れの礼もある。ドーラとやらお前に危害を加えるようなことは絶対しないと誓おう」
「信用できないね! それに食費の問題はどうするの?!」
そう、これだよ。
これ以上腹へり要員が増えると大変な事態になってくる。
「食費? 私はドーラとやらの血の臭いを時々嗅いでいたら、数日飲まず食わずでも平気だぞ。私はこう見えて少食なのだ」
「それは本当なのか?!」
僕は驚いてドーラとリリカのやり取りに割って入った。そんな人員が増えてくれたらこちらとしては願ったりかなったりだ。
「うちは食費が足りなくて大変なんだ。リリカの稼ぎの一部でも食費に回してもらえたら助かるんだが」
「お安いご用だ」
なんとまさに天の助け。
心強い仲間ができたと言える。
だが、あまりに信用しすぎるわけにはいかない。
ついさっきまで戦っていたような相手だ。
ドーラは絶対反対だろうし、それに今はスーラがこの場にいない。安易にバーティに加えるのは考えものだ。ん? そう言えばこいつさっき。
「リリカは鼻がいいんだよね?」
僕が訊ねるとご機嫌で首を縦にふるリリカ。
「実は旅仲間のスーラがさっきどこかに行ってしまって、探したいんだが手伝ってくれるか? 臭いに敏感なら見つけられるんじゃないか?」
そう言ってスーラの臭いがする黒いマントをリリカに差し出す。
この黒いマントは僕がこちらの世界に転生してきた際に身に付けていたもので、着る服がないスーラがしばらく服として使っていたものだ。
リリカは兜を被ったまま臭いを嗅ぐと頷いた。
「あっちのほうから臭う。私を解放してはくれないか?」
ドーラは表情で露骨に難色を示したが、僕は思いきってリリカの縄を解いてやった。
すると、リリカは立ち上がり、臭いのするという方向に走り出した。僕もそれに続いたのだった。