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第48話

「昔、竜によって私の父と母は命を奪われた。だから、私は竜を殺すために旅をして、竜殺しの力を手にした。だが、その代償は常に兜をつける事と竜を狩らないと空腹が起きる事なのだ」


 兜を身につけたドラゴンスレイヤーは落ち着いて話してくれた。

 ‎もちろん木に縛りつけたままだ。

 ‎にしても、結構ベラベラと話すのが好きなようだな、こいつ。

 なんか戦意がどんどん削がれていく。


「ちなみに本当の名前は?」


「リリカだ」


 なんとも低いかすれ声と合わない名前だ。


「そんなことはともかく竜はどこかにいないのか、せめて血の臭いだけでも嗅げれば」


「ドラゴンの肉は必要ないのか?」


「そんなものはいらない。ただ、殺すことで空腹はおさまる。血の臭いを嗅ぐとやわらぐ。だが、最近竜の数が減っていてな。魔物自体減っている気がする。なんにしても、竜がいないので私もこのところ空腹感が半端じゃないのだ。それで、こちらのほうに来たレッドドラゴンをはるばる追ってきたところ、お前たちに行き着いたというわけだ」


「なるほど」


「で、その娘、ドーラとか言ったか、そいつはどうなっている? 完全に人間の姿なのにレッドドラゴンの臭いがするのだ。人間から竜族の臭いがするなど聞いたこともない。どういうことか説明してはくれないか?」


 これはどうしたものか?

 ‎そこまで悪そうな奴ではないんだが、ドーラのことを話したら、ドーラに危害を加えない保証はない。空腹感に負けてしまわないとは限らないのだ。


「どうする?」


 ドーラを見ると、やはり怯えているようだ。当たり前だろう。自分の一族をほとんど滅ぼし、さらには自分を執拗に追いかけてきたやつだ。


「どうするって言われても……。ハルカ、決めてほしい」

「分かった」


 再びリリカのほうを向き直る。


「じゃあ、話すことにするよ。この子は元々お前が追いかけていたレッドドラゴンなんだ」


「やっぱりそうなのか!」


 やや鼻息が荒くなるリリカ。

 ‎ドーラは僕の影に隠れる。

 僕は話を続ける。


「だけど、僕の力で彼女を人間にしたんだ」

「力?」

「弱った魔物を人間の女の子に変えてしまうという力なんだ」

「なるほど、だが元の魔物の性質をいくらか残していると?」

「そういうことになる」


 リリカは、しばし考え事をするように黙ると、また話し始めた。


「ドーラとやら」


 名前を呼ばれるだけでびくつくドーラ。


「な、なんだよ?」


 おそるおそるリリカに訊ね返す姿はいつもの剛毅な彼女からは想像もつかないものだ。


「頼みがあるんだが」

「た、頼み?」

「少しでいいからお前の血の臭いを嗅がせてほしい。それだけで空腹がおさまって竜を殺したい衝動が抑えられるんだ」


 なるほど。

 ‎それが本当なら布に少し血を湿らせて、その布をこいつにくれてやるくらいはいいとは思うが、当の本人であるドーラがどうしたいかが重要だ。

 

 ドーラは僕をじっと見つめると、僕の意図を汲んだのか、指先を軽く噛んで血で湿らせる。そして、布切れに血を吸わせた。それを無言で僕に差し出す。 

 

 僕はそれをリリカの兜の前に持っていく。


「兜を脱がなくて臭いが嗅げるのか?」


 心配してやるが、リリカは首を横に振りまくる。


「兜は取らなくていいからな、それに私は鼻はすこぶるいいのだ」


 そう言うとドーラの血の染み付いた布を目の前にして深呼吸する。


「おお、これは。この臭いだ。これを嗅いでいたらこの空腹はかなりおさまるぞ」


 良かった。

 ‎とかく、僕と関わる連中は空腹がどうにもならないやつが多い。というか、そんなやつばっかだ。こんな簡単に、とりあえず解決策が見つかるパターンはこれまでになかった。そう思うと不意に熱いものが込み上げてくる。僕も苦労してるんだなと我ながら思った。

 しかし。


「これからどうするんだ?」


 すると、リリカはうなづいた。


「いろいろな文献に当たってみたところ、この空腹感から永遠に解放されるためには『目に見えない竜』を倒す必要があるということを知ったのだ」


「『目に見えない竜?』」


 そんな竜がどこにいるというのだろうか。








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