第47話
「お、女?!」
背丈や低くかすれた声などから完全に男だとばかり思っていたが、竜殺しの正体は美少女だった!
完璧なブロンドに整った顔立ち。
スーラやドーラにも負けないほどだ。
「ハルカ!」
少し離れたところからドーラの声。
振り向くと、ジーマを背負った彼女が走りよってくる。
「ジーマは大丈夫なの」
ドーラに背負われているジーマは意識もあり、元気そうだ。かすり傷を負った程度。
この竜殺し相手にここまで戦えるなんて、やはり、ジーマの実力は相当なものだ。
「竜殺しは女?!」
黒い兜を取り去られたドラゴンスレイヤーの姿を見て驚くドーラ。
「さて、こいつをどうするかだな」
僕たちは竜殺しを武器を取り上げた上で太い木の幹に鎖で何重にも縛った。
やがて、目覚める彼女。
エメラルドのような輝く瞳が僕を見る。
「気がついたか?」
「こ、これは?」
周囲を見渡して、状況を理解したようだ。
すると、突然、竜殺しの美しい顔が青ざめる。
「兜だ、兜はどこにやった?!」
兜を求めて騒ぎ立てる。声も容姿にふさわしくかわいらしいが、兜、兜と半狂乱になっている様はなにか異様な感じだった。
「兜ならここにあるぞ」
そう言って、僕が兜を見せる。
「早く私に被せろ! 早くするんだ!」
「なぜそんなに兜を被りたいんだ? 顔が見られるのがそんなに嫌なのか?」
当然の疑問を投げかけてみる。
「そういう問題じゃないんだ! とにかく兜を!」
「訳を話さないなら、被せないぞ」
僕の一言に竜殺しは情けなく涙を浮かべはじめる。
「そんなこと言うな! 兜をよこせ!」
これじゃあ、なんか僕が悪いことをしているみたいじゃないか。
「訳を言ってみろ」
なだめるように言うと。
「……だ」
小声でボソボソと何を言っているのか全く聞こえない。
「なんだって?」
耳に手を当てる僕。
「私は兜を被ってないと怖くてたまらないんだーーーっ! 兜なし恐怖症なんだーーーっ!」
突然叫ばれて僕の鼓膜が破れかける。
兜なし恐怖症?! 聞いたこともない。
「なるほど、そういうことなら被せてやらん」
「頼む、お願いします! 兜をください!」
滝のように涙を流して懇願してくる。
なんだか、さっきまでとキャラクターが違いすぎないか。
「仕方ないな」
僕は彼女に兜を被らせてやった。
すると。
「ふん、私から兜を取り上げるとはやるではないか」
突然、さっきまでの自信みなぎる低いかすれ声になった。
この兜、ボイスチェンジャー付きなのか。
なんかむかついたので、再び兜を脱がせた。
「な、なにをする!」
必死に訴えてくる彼女。
そこで。
ぐうううううううううううううう!
彼女の腹が盛大に鳴った。
「腹が、腹が減った」
この世界はなんでこうハラヘリ娘ばかりなのか。
元モンスターのスーラたちだけかと思ったが、まさかこいつまで。
「腹が減ったから、ドラゴンを狩らせろ!」
なんか意味不明なことを言い出した。
きっと空腹で血糖値が下がりすぎて脳がおかしくなっているに違いない。
「とりあえず水でも飲め」
携帯用の食糧など当然持ち合わせていない僕は、せめてと水を差し出した。だが。
「そんなもんいらん! 私はドラゴンを殺さないと空腹が治らないんだ!」