第46話
ドラゴンスレイヤーはドーラを一時的に解放する。
互いに剣を構え、対峙する僕と竜殺し。
傍らではドーラが不安げに戦いの行方を見守っている。
黒い甲冑姿の男には隙が全くない。
どう攻めればいい?
僕は動けなくなっていた。下手に動けば確実にやられる。
すると、黒い兜の下から低い声が聞こえてくる。
「怖じ気づいたのか、ハルカとやら。そんなことでは」
その瞬間、ドラゴンスレイヤーが僕のすぐ目の前に現れた。
目にもとまらぬ速さで間合いを詰めてきたのだ。
その際に放たれた斬撃を勘でなんとか防ぎはした。
だが、勇者の能力を持ってしても見切ることのできない素早さがある限り、竜殺しのほうが有利だ。
しかし、負けられない!
僕はドーラをなんとしても守らなくてはいけないんだ。
剣を交わしていると分かる。
ドラゴンスレイヤーはスピードでこそ僕に勝っている。
しかし、パワーではこちらも負けてはいないのだ。
一歩前に出ての鍔迫り合い。
ドラゴンスレイヤーを力で押す。
「やるではないか」
この接近した距離では、ドラゴンスレイヤーのスピードが勝っていても、こちらの攻撃も確実にヒットしうる。
最悪相討ちに持っていける。
勇者の勘がそう告げていた。
そんな緊迫した戦いの最中のことだった。
ぐうううううううううううううう!
凄まじい轟音が鳴り響いた。
なんだ今の音は?
ドラゴンスレイヤーから聞こえてきたように思うが。
「くっ、長く戦いすぎたか」
ぼそりとつぶやくドラゴンスレイヤー。
彼の力が徐々に抜けていくのが分かる。
なんだ?
こいつはウルトラマンかなにかなのだろうか?
ぐうううううううううううううう!
そこでまたさっきの音が派手に地響きを起こす。
やはり、どう考えてもドラゴンスレイヤーから聞こえている。
それも彼の腹からだ。
「もうダメ……だ……」
ドラゴンスレイヤーは力なく剣を落とす。
そして、膝をつく。
「腹が減った」
今、何て言ったこの黒兜野郎。
「あの、今なんとおっしゃいましたか、ドラゴンスレイヤーさん?」
僕は念のために、一応訊ねてみた。
すると、兜の下から低い声が。
「は、腹がへっ」
「その呪文はもういいわ!」
思わずツッコミの要領で、黒い兜を思いっきり剣の柄で殴った。
ジャストヒット!
確かな手ごたえとともに。
竜殺しは頭から地面に崩れ落ちた。
どうやら兜ごしであったが、当たりどころが悪く、気絶したらしい。
予想はついていたが、爆音は腹の音だったようだ。
なんとも拍子抜けの展開である。
僕は剣でつっついて十分に意識がないことを確認した。
「ドーラ、無事か?」
すると彼女は涙目で抱きついてきた。
無理もない。一族をほぼ全滅させた相手に襲われたのだから。
「ジーマがどうなったか、心配だな」
「あたしが見てくるよ」
そう言って、ドーラは駆けていった。
僕と倒れた黒い甲冑姿の男の二人だけになる。
せっかくだから、どんな顔をしているのか、この際だから拝むとするか。
興味本位から彼から黒い兜を剥ぎ取った。
「えっ?!」
兜の下から現れたのは輝くような金髪、透けるような白い肌の美少女だった。