第45話
剣と剣が激しくぶつかる音。
すさまじい剣圧に思わず剣を落としそうになる。
言うまでもなく強敵だ。
だが、こいつの目的がドーラなのは明らかだ。
「逃げるんだ、ドーラ!!」
目の前の黒い甲冑姿の敵とにらみ合いながら、大声をあげる。
「女のことを気にしている場合か?」
次の瞬間、胸に鉄の棒が突き刺さるような激しい衝撃を受ける。
ドラゴンスレイヤーの蹴りだ。
避けることができず、まともに受けてしまう。
後ろに吹き飛ばされる間にドラゴンスレイヤーは目の前から姿を消す。
僕が振り返るとドーラのすぐ前に黒い甲冑姿があった。
なんてスピードだ。
全く目で追えなかった。
ドーラは恐怖のあまりに動けないといった様子だ。
間に合わない。
何より僕の体の動きはいつもより鈍い。
その理由は自分でも分かる。
恐怖だ。
以前ドラゴンスレイヤーと戦ったとき、僕は体を刺し貫かれた。
あのときの感覚が僕を恐怖させるのだ。
思い出せば思い出すほどダメだ。
足が動かない。
体が拒否する。
ドラゴンスレイヤーは一瞬にしてドーラの背後に回り込むと、彼女をなで回すように触りながら、顔を近づけ匂いを嗅ぐ。
ドーラはなにもできず顔を真っ青にして、震えている。
そして、怯える瞳で僕に助けを請うている。声も出せないのだろう。それは無理もないことだ。彼女が元いた巣はあのドラゴンスレイヤーによってほぼ全滅させられたのだから。
「やはり、間違いなくドラコンの匂い。だが、人間の匂いのほうが強い。しかも、体は人間とは、どうなっている。竜族の変身魔法の類いか。しかし、これは?」
ドラゴンスレイヤーはなにやら独り言を言っている。今すぐドーラを手にかける様子はない。
僕はというと恐怖と戦っていた。
そう。
ここで動けなきゃ。
勇者じゃない。
いや、男じゃない!
そう思ったとき、僕はもう走っていた。
恐怖を振り払って体が軽い。
こんなに力が出たことはかつてない。
一気に間合いをつめる。
すると、ドラゴンスレイヤーは訊ねてくる。
「これはどういうことだ? この女、どうなっている? 人間からドラゴン特有の匂いがするなどあり得ぬ。説明しろ、ハルカとやら」
なんと突然説明を求めてきたのだ。
だが、真面目にそれに答えてしまっては、結局元レッドドラゴンのドーラは殺されてしまう可能性が高い。
素直に答えるわけにはいかない。
「聞きたければ、僕を倒してみろ」
「ふん、この前あっさり私に敗れたというのにえらく自信満々ではないか」
低くかすれた声。
「いいだろう。この前のように切り伏せてくれる」
バイザーの奥で奴の瞳が鋭く輝いた。