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第41話

 森の奥から僕とジーマは引き上げていく。

 ‎出口までの途中、スケルトンは一匹も現れなかった。

 ‎こんなことで、今回の依頼はクリアーできたと言えるのだろうか。

 ‎なにせスケルトン一匹も倒してない。

 ‎ただ、森の奥の池で先代魔王とやらとお話しただけ。

 ‎なんか、ここまでのところが、貧乏神に取りつかれているとしか思えない展開が続いているので、ちゃんとお金がもらえるのか心配になってくるのだった。


 やがて、森の外にたどり着く。

 ‎スーラとドーラはさっき別れた場所にそのままいた。

 ‎だが、思っていたのと違う。

 ‎二人とも空腹でぐったりしているかと思っていたのだが、睨みあっている。喧嘩でもしているのか。

 ‎

 僕たちが帰ってきたのを見るや、二人は互いに背を向ける。


「ただいま。どうしたんだ、二人とも」

「なんでもありません」

「なんでもないよ」


 スーラもドーラもひどく不機嫌そうだ。

 ‎何か嫌な予感がする。

 ‎すると、ジーマが僕の服の裾をひっぱる。


「お兄ちゃん、しっかりなの」


 意味深なジーマの微笑み。

 僕はどうすべきなんだろうか。

 ‎冷静になって考えると僕はスーラから告白されたのだ。

 ‎それに対して僕はまだ答えてられていない。


「スーラ、話があるんだけど」


 僕がそう言うとスーラではなく、ドーラが口を挟んできた。


「ハルカ、その話、二人でないとダメなの? あたしがいる前だとダメなわけ?」


 口調に棘を感じた。

 ‎なんと答えたらいいのか苦しい質問だったが、ここははっきり答える必要があるだろう。


「うん、二人で話したいんだ」

「あっそ」


 彼女はそっぽを向いてしまう。機嫌をさらに損ねてしまったようだが、やむを得ないだろう。


 そして、僕とスーラは他の二人の視線の届かないところまで歩いていった。


「スーラ」

「……はい」


 彼女はうつむき気味なので目が合わない。


「昨日の件なんだけど」

「……はい」


 そんな僕もなんとなく彼女のほうを見るのは気が引けた。だって。


「気持ちはうれしいんだけど、その……」

「……」


 しばしの沈黙が流れたが。


「…………その、なんですか?」


 スーラが促してくる。

 そこで彼女のほうを見ると、視線が合った。瞳に浮かんだ涙が見えた。


「はっきり言ってください」


 どこか覚悟を決めたような、強い意志を感じる声は普段のスーラにはあまり見られないものだ。

 ‎

「その、その、今はさ、食費、生活費も厳しいしさ、そういうことをしてる場合じゃないっていうかさ。とにかく、ごめん」


 またも気まずく二人を静けさが包みこむ。

 そして再び先に言葉を発したのはスーラだった。


「それが、理由なんですか? ちゃんと言ってください」


 声が震えている。


「そうだよ、今、そんなことしてる余裕がないんだ。分かってくれるだろ? いつパンツ1枚になるか分からないんだよ? それにスーラのお姉さんのスライのこともあるし」

「……わかりました」


 ぼそりとか細い声だった。

 だが、僕はほっとする。


「分かってくれたか、よかった」

「はい、よかったですね」


 研ぎ澄まされた刃物のような彼女の視線は僕を突き殺しそうだった。


「スーラ?」

「……んなに」

「え?」

「そんなに、ドーラさんのほうがいいなら、ハルカ様なんてドーラさんに食費食い潰されて一生パンツ1枚で過ごしたらいいんです!」


 いきなりの大声に僕は驚き、パニックになった。


「ど、ドーラ? ここでなんでドーラが出てくるんだよ?!」

「ハルカ様はドーラさんの気持ちにお気づきですよね?」


 確かに気づいてる。

 ‎いや、正確にはカンニングしたようなものだ。

 ‎だが、スーラもジーマもドーラが僕に好意をもっていることを気づいていたようだ。僕はよほど鈍感であるらしい。

 ‎そんなことを考えて口ごもってしまうと、スーラはすかさずまくし立てる。


「やっぱり気づいてるんじゃないですか?! だったら、ハルカ様がわたくしの気持ちをお断りになる理由はドーラさんしかないじゃないですか?!」

「いや、だからそれは」

「どうしてごまかすんですか?!」

「ちょっと待ってくれよ、ドーラは関係ない!」

「じゃあ、ドーラさんのことはどうでもいいんですか?!」


 なにを間違ったのだろう。

 ‎こじれていく話。

 ‎疲れている体。

 僕はひどく苛立った。


「ああ! どうでもいい!」


 気づけば感情が声になっていた。


「僕は食費のことで頭いっぱいなんだ!」

「じゃあわたくしのこともどうでもいいんですね! 分かりました!」


 そう言ってスーラは僕を置いて走っていってしまった。




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