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第40話

 池の表面が揺れたかと思うと、ごうごうというけたたましい音とともに水位が下がっていく。

 池の真ん中に渦が生じて、その中心から水がぬけていく。 


 やがて、池の底に真っ黒い穴が現れる。まさに底無しの穴という感じだ。

 

 ‎その穴から青白いもやもやとしたものが浮かび上がってくる。

 ‎それはよく見ると大きな老人の顔だった。

 ‎ただ、顔だけしかなく、向こうが透けてみえ、さらに顔が3つ横並びになっているのが特徴的だった。

 ‎透けているのはいわゆる霊というやつだからなのだろう。

 なんにせよ不気味だ。顔が3つもあるのはラスボスっぽいが。


「お兄ちゃん、紹介するなの。これがおじいちゃんこと先代の魔王なの!」


 ジーマが嬉しそうに紹介してくれる。

 って、先代の魔王だって!


「おじいちゃん、これがお兄ちゃんなの。ジーマをこんな姿にしたなの」


 今度は僕が先代の魔王様とかいう顔だけ幽霊に紹介される。


「興味深いな」


 幽霊こと先代魔王様がこちらを見ながらしゃべった。

 ‎ん? よく見ると3つある顔のうち、真ん中の顔以外は眠り込んでいびきをかいている。


「それはともかく、腹が減ったぞ」


 なんの前触れもなく、僕に即死呪文をかけてくる。

 ‎さすが、先代魔王。 

 ‎ってかお前、顔だけだろ。

 ‎腹の減りようがないだろ。


「ところで、そなた、どこから来た?」


「こことは違う世界から」


「だろうな、ということは会ったであろう。(あるじ)に」


「主?」


「そう、そなたにその力を与えし主」


 それって、転生してくる直前に会ったあの天使かな。


「あの自称天使?」


「そう、あのお方こそ気高き主」


 自称天使で通じたのが地味に驚きなんだが。ってか、気高き主とやら……ちょっと胡散臭いジジイだったぞ。


「あのお方にその力を与えられたということは、そなたにこの世界は委ねられたに等しい」


 え、いきなり、話の規模が大きくなっちゃいないか?

 ‎ハーレム要員製造魔法を使えるとこの世界は委ねられちゃったことになるのか?

 ‎この世界、軽すぎない?

 ‎大丈夫?

 ‎あ、でも僕一応勇者でした。

 世界の命運を一応握っていてもおかしくない。

 ‎

 ‎いや、そんなことよりも。

 ‎さっきからずっと気になっていたんだが、両横の顔のいびきがどんどん大きくなっている。ぶっちゃけ会話に支障が出るほどうるさい。


「その両横の方々のいびきはなんとかなりません?」


 とうとう我慢できず言ってしまった。


「今、このときは過去でも未来でもない」


 …………。

 ‎は?

 ‎なに今の?

 ‎どゆこと?それが答え?


「ところで、そなたは主に選ばれしもの。与えられたその力をもって使命を果たせ」


 いや、ところでじゃないよ。いろいろすっ飛ばしただろ。

 偏差値30の生徒に偏差値80レベルの授業をしてるかのような不親切ぶり。

 使命を果たせって、魔物を女の子にしていけってこと?

 それでなにが解決するの? 僕のお財布事情がクライシスを通り越してアポカリプスするだけじゃん。


「まったき愛は空腹を閉め出す。それこそが真理だ」


「ちょっと待った。全くついていけてないんだが!」


「最後に言っておく。我を打ち倒し魔王と呼ばれしものには用心せよ」


「それって」


 凛のことか……?


「では、我はもう寝るぞ」


「ちょっと待って」

 

 この先代魔王様とやらが僕の呼び掛けに応じるわけもなく。

 あくびをしながら、再び底無しの穴に戻っていった。


「おじいちゃん、完全に寝ちゃったなの」


 なんかよく分からなかったが、ツッコミどころだけは多かったことが分かる。


 そういやスケルトンの群れはどこに?

 僕が後ろを振り向いたりしていると。


「あのスケルトンならもういないなの。あれは昔、おじいちゃんに食べられて今はおじいちゃんの使い魔になった連中なの」


 なるほど、そういうことなのか。

 

「しかし、あのスケルトンたち、すごく強そうだったが」


「あいつたちはかつておじいちゃんに挑み、倒された勇者たちの成れの果てなの。強くて当たり前なの」


「そうなんだ」


 道理で強いはず。雑魚扱いして悪かったよホネホネ軍団の諸君。


「そんなことより、スーラとドーラはどうするなの?」


 またその話題か。

 

「お兄ちゃん次第で、今よりもっとずっとひどいことになるなの」

 

 こないだもそんなことを言っていたような。

 ジーマのこの言葉の意味を僕はほどなく知ることになる。


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