第4話
「あれはレッドドラゴン?! どうしてこんなところに?!」
ひどく驚くスーラ。
「あいつはそんなに物珍しい魔物なのか?」
「このあたりで見かけることは絶対にないです! 魔王さまのお城のあたりに生息しているとか。しかもとてつもなく強いはずです!」
いきなり強敵登場かよ。
レッドドラゴンは人をひと呑みにできそうな口を開けると、そこから火の玉を吐いてきた。
馬車のすぐ近くでそれが爆発する。
「なんだ!? どうしたんだ!?」
ハゲ頭の商人が中から顔をだす。
「レッドドラゴンのようです!」
僕が叫ぶと商人は顔を青くした。
「な、なにぃ?! なんでそんな高位の魔物が?」
ここで僕はどういうわけか冷静に妙案を思い付く。
「商人さん、なんにせよこれほどの魔物が出たのです。報酬は増やしてもらいますよ?」
報酬は200ゴールドだが、あの竜を相手にするのは、こちらの世界初心者の僕が考えても割に合わない。
だってゲームとかの終盤の雑魚モンスターってめちゃくちゃ強いし。
「な、なにを言っておる! そんなことが承諾できるか!」
「だったら、僕たちは途中までは戦いますが、報酬の200ゴールド分働いたら離脱しますね」
僕がにっこり笑うと、商人の顔は青ざめる。
「わ、分かった。では倍の400ゴールドだそう!」
「いえ、2000ゴールドいただきます」
「ふ、ふざけるな! 足元を見るにもほどがあるぞ!」
馬車のすぐ後ろの地面にレッドドラゴンの火球が激しく炸裂する。
商人は振り落とされそうになると、頭をかかえ、震えはじめた。
「死にたくない死にたくない」
ぶつぶつと呪文のように同じ言葉を繰り返す商人に、僕は交渉の続きをする。
「現金で2000ゴールドが無理なら、今運んでる中で一番いい剣を僕にください!」
今、必要なのはとにかく武器だ。
なにせ、僕は素手。
あのレッドドラゴンを倒すのに、スライムのように足で踏みつけてなんとかなるはずもない。
ここで商人にだめ押しをしておく。
「よわっちい剣じゃ、あれに勝てなくて負けてしまいますよ! 絶対しょぼいの渡さないでください! それから急いでください! あいつが来ます!」
馬車は全速力だが、レッドドラゴンはどんどん迫ってくる。
「これだ! 鉄の剣だ! ここにはこれ以上のものはない!」
鉄の剣……なんかいかにも安価な響き。かなり序盤の武器だろうな。
だが、もうゴタゴタ言ってる場合ではない。
「分かりました、貸してください。この剣を報酬にいただきます!」
剣を受けとるなり、僕は馬車から大きく跳んだ。
そして、もうすぐそばに迫っていたレッドドラゴンの首に着地。
アクション映画の俳優顔負けの跳躍だった。
やっぱり身体能力はかなり高くなっているようだ。
馬車はスーラが代わりに操るが、かなり心もとない。
レッドドラゴンは僕を振り払おうと頭を前後左右に激しく動かす。
だが、僕は2本の角を握りしめてそれに耐える。
そして、鉄の剣を引き抜くと、鱗と鱗の間に突き刺す。
レッドドラゴンの叫び声が聞こえる。
さらに深く突き立てると、剣を持ったまま足でふんばり頭の方に向かって縦に首を斬っていく。
血が激しく噴き出す。
レッドドラゴンはめちゃくちゃな飛行をしたあと、地上に向かって落下していく。
僕は地面に激突する直前に、近くに飛び降りた。
ふと、嫌な予感がして鉄の剣を見ると、少し曲がってる。
あ、これが今回の報酬なのに……。
レッドドラゴンは著しく出血しており弱りつつあった。
そこで僕の手のひらが虹色に輝く。
1匹目はためしにスライムを女の子にしたが、スーラはかわいいだけでどうにも頼りない。
2匹目は頼りになりそうなドラゴンにしようと僕は思った。
このまま死なせるのは気の毒だしな。
手をかざすとレッドドラゴンが光りだす。
そして、現れたのは燃えるような長い赤い髪に琥珀色の瞳が印象的な美人だ。
歳は僕よりは上だろう、スーラにはない年上の色気のようなものがある。
胸はかなりでかく、身長は凛よりは高い。
案の定、素っ裸。
だが、長い髪でうまく隠されている。
彼女は目を開け、ゆっくりと起き上がると自分の体を確認した。
そして驚愕しつつ、目の前にいる僕に訊ねる。
「こ、これはどういうことだい?」
「僕の魔法で君を人間にしたんだ」
「なんだって?!」
彼女の瞳からは殺気が放たれているのを感じた。
え、なんで僕、憎まれてるの?