第38話
腹が減って使い物にならなくなった二人を森の外に置いて、僕とジーマでスケルトン退治をするしかなくなった。
ジーマは強い。おそらくドーラよりも。
だが、見た目通り中身も子供っぽい。
どこか、いたずら好きなとこがあって、ちゃんと戦ってくれるのかどうか。
「どうしたなの?」
ニンマリ笑う彼女。
煌めく紫水晶の瞳から何か無邪気な悪巧みを感じる。
「いや、ジーマがいてくれて心強いなあって」
「お兄ちゃん、嘘つきなの」
「えっ?」
「本当はジーマのこと、信用してないなの」
意外と鋭いなあ。
「そんなことないなの」
ジーマの口調を真似して笑顔でごまかす。
すると。
気づけば彼女に襟具りを掴まれ、宙に浮く僕。
妖しく笑う彼女。
どうせ、ふっとばされるんだろう。
さあ、煮るなり焼くなり好きにしやがれ!
だが、ジーマの方が1枚も2枚も上手だった。
「お兄ちゃん、お腹空いたなの」
死に誘う必殺の呪文を唱えはじめたのだ。
「お腹空いたなのお腹空いたなのお腹空いたなのお腹空いたなのお腹空いたなのお腹空いたなのお腹空いたなの……」
「や、やめろ! やめてくれ!」
耳を塞ごうとすると、腕を掴まれ、耳元で囁き続けるジーマ。
「お腹空いたなのお腹空いたなのお腹空いたなのお腹空いたなのお腹空いたなの……」
そこで僕の意識は途絶えたのだった。
はっと目覚める僕。
危うく二度目の人生も終了するところだった。
目の前に僕の顔をまじまじと見つめてくるジーマの姿があった。
「僕を殺す気か? ってか、別に腹減ってないんだろ?」
彼女は紫の瞳を輝かせながら微笑み、ピースサインしつつ首を縦にふる。
「なにがしたいんだ?」
投げた質問の答えは返されることはなく、むしろ質問が返ってくる。
「どっちにするなの?」
意味が分からない僕は聞き返す。
「どっちってなんのこと?」
「スーラとドーラのどっちとラブラブするなの?」
いきなりの思いがけない質問に後頭部を強打されたかのような衝撃を受ける。
「ジーマ?!」
狼狽する僕に、彼女は勝ち誇ったように腕を組む。
「見てれば分かるなの。二人ともお兄ちゃんのこと大好きなの」
普段の仕草ほど中身が子供というわけではなさそうだ。
しかし、この質問は簡単に答えられるようなものではない。
僕がどちらかを選ぶと多分、もう一人は一緒に居られなくなる。
「僕は、今、食費をなんとかしなくちゃいけない。甲斐性のない男は恋なんてしてる場合じゃない」
すると、ジーマは真剣な面持ちで僕を睨みつける。もともとが高位の魔物だからか彼女の容姿とは似つかわしくないゾッとする迫力があった。
「お兄ちゃん、恋をなめすぎなの」
「なめすぎって」
「そんなことやってると、大変なことになるなの」
彼女の言葉を聞いて、心臓が一際大きくドクンと鳴った。
そのときだった。
森の奥のほうから青白い光が溢れてくる。
「なんだ?」
「あれは、まさかなの」
ジーマは光に吸い寄せられるように、早足で森の奥に歩いていった。