第36話
街を出発して少し経った。
みんな、黙々と歩いている。
そよ風が気持ちいい。
なのに、どういうわけか、ドーラの様子がおかしい。
さっきから一言も話さず先頭をさっさと歩いていく。
何となく話しにくい。
普段ならむしろムードメーカーなのだが。
まさか腹が減ってるわけじゃないだろうな……。
「ドーラ、なんか怒ってるような。僕、なんかしたかな?」
スーラに小さな声で訊いてみる。
「いいえ、特に何もしてないかと」
お、おい! 普通のボリュームで返すんじゃない!
僕は焦りながらドーラを視線をうつす。
特に彼女に変化は見られない。
一方、スーラはそんなドーラに冷ややかな視線を送っている。
「しーっ、ドーラに聞こえる聞こえる」
だが、スーラはお構い無しだ。
「どうしてわたくしたちが気を遣わないといけないのでしょう!」
さっきより声の音量をあげて、挑発している。なんか容赦ないな。
でも、ドーラはドーラで知らんぷりだ。
このままでは埒があかない。
直接問いただすしかないだろう。
僕は早足でドーラに追い付く。
「ドーラ、今朝からどうしたんだ?」
だが、彼女は無視して先に進もうとする。
「ちょっ、ちょっと待てよ」
やむを得ず彼女の手を掴んだ。
「放せ!」
振り返りざまに見えたドーラの琥珀色の瞳は涙で潤んでいた。
「ドーラ?」
「ほっといてくれ!」
ドーラは僕の手をふりほどくと、急に走り去っていく。
「スーラ、ジーマはここに残って」
「あの、ハルカ様」
スーラがなにか言いかけたが、僕は構わずドーラのあとを追いかけた。
途中で森の中に入ってから、ドーラを見失ってしまった。
闇雲に歩いていても、迷ってしまうだけだ。
森の奥は深く見通しも利かなさそうだ。
ドーラ自身は強いので、そこまで心配は必要ないとは思うが。
しばらく歩くと川のせせらきが聞こえてきた。
音のほうへ近づいていくと、ドーラが一糸まとわぬ姿で水浴びをしているのを見つけた。
ここから見ているのがバレたらそれこそ厄介だ。気配を殺して茂みに隠れる。
彼女は何度かため息をついていた。
「そりゃさあ、男はスーラのほうがかわいいよね」
唐突につぶやくドーラ。
「あたしみたいな、大食いドラゴンじゃ、ハルカの迷惑になってるだけだし」
なんだ、よく分かってるじゃないか。
「スーラは昨日とうとう告白したのにあたしは勇気が持てないよ、どうしたらいい?」
ん? それってどういう?
少なくとも昨日スーラが告白したのを知ってるのか。
「ハルカ、好きだ。って本人がいないところでも恥ずかしい」
いくら鈍感な僕でも今ので分かった。