第35話
ギルドに登録したことで簡単な食事をとることと宿泊施設の使用が可能となった。
もちろん有料なのだが、Dランクになったお祝いで今晩は特別にタダで泊めてもらえるとのこと。
ラッツから遠く北の森に、どういうわけかスケルトンが大量発生しているという。このスケルトンの群れを撃退してほしいという依頼があったので、これを受けることにした。
夜になってドーラとジーマの二人が寝てから、僕とスーラは出掛けた。
夜空に星が満ちているのが、物珍しく感じられた。
話があるという彼女についていくと、開けた空き地に出た。
そして、おもむろに彼女は木の棒を取り出した。青く鋭い眼差しがこちらに向けられる。
「ハルカ様!」
なに?
ひょっとして今から殴られるわけ?
身に覚えがない……と言えば嘘になるか。
なんせ、彼女を人間にしてからというもの、ろくに養えていない。
甲斐性がないのだから、殴られても仕方ない。
どういうわけかそれで納得できてしまう自分がいるのだった。
さあ、こい。
瞼を閉じて、歯を食いしばる僕。
「どうしたのですか、ハルカ様?」
おそるおそる目を開けると、不思議そうにこちらを窺うスーラがいる。
「え、いやここは甘んじてスーラの怒りを受け止めようと」
「なにを言ってるんですか? わたくしは戦い方を御指南していただきたく思ったのです」
「えっ? 戦い方」
「はい、やはりわたくしも頑張らないと」
そう言って木の棒を力いっぱい振る。
「あっ!」
棒が手からすっぽぬけて明後日の方向に飛んでいく。それを走って拾いにいき、帰ってきた。
それだけで少し息を切らしている。
しかし、彼女の真剣な表情から強い意志を感じる。
この間のように、1人で出ていってしまうよりずっといい。
「分かった」
僕は快諾した。
すると、彼女はにこりと微笑んだあと、少し険しい表情になりながら。
「それと、ハルカ様! す、すす、好きです!」
彼女は唐突に想いをぶつけてきた。
あまりにいきなりすぎて、僕は状況を認識するのにしばしの時間を要した。
「え? えええー!!」
その意味を理解して、動揺する僕。
当然ながら告白なんてされたこともない。
「い、今のは、その、愛の告白ってことでいいの?」
頬をリンゴのように赤く染めた彼女はこくりと頷く。
僕は頭をポリポリと掻く。
黙る二人。
なんか言わなきゃ。
でも、なんて言ったらいいのか。
とにかくなにか言わないと。
「「あの……」」
二人の声が重なった。
再び沈黙の時間が流れる。
それを破ったのは。
ぐううううううううう!
大きな音がだった。
「あっ」
スーラがお腹をおさえて、違う意味で顔を真っ赤にする。
クスクスと笑いはじめてしまう僕。
「わ、笑わないでください!」
見ると少し涙ぐんでいる。
「なにしてるなの?」
いきなり後ろから聞きなれた声をかけられて、心臓が飛び出そうになる。
慌てて振り返るとジーマが紫の瞳でじっと僕を見つめている。
とっさのことで言葉が出ない。
「スーラ、泣かしたなの?」
「え、いや、ちが、ぐわあああああ!」
話してる途中で僕は宙を舞っていた。
ぐわあああああ!という叫び声も自分で痛いとか感じる前に勝手に出ていた。
相変わらずのジーマのパンチ。
その後、ずっとジーマがいたこともあって、告白の返事をするタイミングを逸してしまい、とりあえずスーラに戦い方だけ指導した。
そして、次の日の朝。
さわやかな晴天だ。
「じゃあ、みんな行こうか」
「はい!」
「はいなの!」
「……」
ん? 1人の声だけが返ってこない。いつもなら一番元気な返事が帰ってくるのだが。
「ドーラ、どうかしたのか?」
「別に」
素っ気ない返事をすると、彼女は黙々と先に歩いて行った。