第33話
武骨な石造りの部屋に鉄格子。
そう、ここは牢屋。
いいわあ、牢屋。ここ天国じゃね?
だって野宿じゃないし、囚人服支給されるし、ただ飯が食える。
そりゃそんな豪華なものではないが。服に関してはあの鼻くそまみれと比べたら格段にグレードアップしたと言い切れる。
なにより、僕は腹ペコモンスター娘たちを養う義務から解放されたんだ。
隣では囚人服姿のスーラ、ドーラ、ジーマ。
案外露出度高めでこれはこれでかなりいい感じだ。
なんで、男女別じゃないのか全く不明だが、そこはご都合主義ってことで。
だが、特にドーラ、ジーマは腹が減って仕方がないらしい。
「ハルカ様?」
「ん? なんだい、スーラ?」
「とてもお幸せそうですけど、ひょっとしてここがお気に召されたのですか?」
「うん、正直ね」
「そうなんですね、私も好きです。暗くてじめじめしてますから」
「お、気が合うね」
「ここ、私たちの終の棲み処にしませんか?」
「名案だ!」
なんだこのやり取り、って理性のレベルでは思いながらも、圧倒的な幸福感が実際にあるので流される自分がいた。
スーラはスライムだからじめじめしたところが得意なのだろう。それはそれは上機嫌だ。
対照的に覇気がないのはドーラだ。
彼女は火を吐くレッドドラゴン。
水が苦手なのは容易に想像がつく。
ドーラがずっとこのままなのはかわいそうだな。
そう思いながら彼女を見ていると、目があった。琥珀のような瞳にいつもの輝きはない。
「なに?」
いつになく不機嫌そうだ。
「大丈夫か?」
「あんたのせいでね」
なんでそこ、僕のせいになるの?
そもそもここに連れてこられたのは、3人の空腹合唱隊のせい……いや、僕も途中から4人目として加わったし、むしろ一番熱唱したあげく、服まで要求していたから、責任がないとは言わないが。
「スーラと話せば? 気が合うみたいだし」
よほどここがお気に召さないと見える。
最高なのに。
僕はそのとき完全に油断していた。
もう1人の腹ペコ娘のことが意識の隅に追いやられていたのだ。
バキッ! バキバキッ!
けたたましい音が耳を痛めつける。
見たときにはジーマによって鉄格子が破壊されていた。
うおおおおおおおおおおおお!
俺の安住の地が!
そんな気持ちをこめてジーマを見つめると、彼女は誇らしげに軽く微笑んで親指を立てている。
そこに看守がやってくる。
「ん? 脱獄をはかっているぞ!」
そら、そう思われて当然よなあ。
変に刑罰が重くなって、居心地悪くならないかとてつもなく心配。
心配は現実となり、無事僕たちは飯抜きとなった。