第30話
僕は気がつけば、がっくりと膝をついていた。
服の件での精神的ダメージが大きすぎて、ゴルゴブさんとの戦いなんてもうどうでもよくなっていた。
ジーマまで加わったのにどうするんだ、どこから衣類を買う金を捻出するんだ、とひたすら自問自答していた。
その後のことはなにも覚えていない。
「ハルカ! ハルカ! ちょっと、どうなってんの?!」
シーラさんに肩を叩かれながら、大きな声を出されてようやく正気に戻った。そのときには全てが終わっていた。
どうやら僕はゴルゴブさんの攻撃を全てかわしきり、剣を抜くこともなく倒してしまったらしい。そして、シーラさんの魔法の剣でゴルゴブは捕まえられたとのこと。
だが、それがどうしたというのか。
僕の服が再起不能であることに変わりはない。この粘り、水洗いでどうにかなるとは思えない。
「大丈夫ですか?」
座り込んでいる僕をスーラが心配して覗きこんでくると、僕は首を横に振り、無惨な服を見せる。
顔を青くして無言で後ずさるスーラ。
その様子を見てか近づきもしないドーラ。
そんなとき、紫の髪をしたジーマがアメジストのような瞳を輝かせて僕を見ると。
「ばっちいなの」
鋭いナイフのような言葉を言い放った。
僕の心はぐさりとやられた。
次の日の昼頃、ラッツの街に戻って闘技場に行った。シーラさんだけ中に入ってしばらく待っていると、彼女は袋にいっぱいのお金を持って現れた。
「全部で2万ゴールドよ! 山分けと言いたいところだけど、今日、あのヒュージゴブリンを捕まえられたのはほとんどあなたたちのおかげだから、私の取り分は4千ゴールドでいいわ」
ゴルゴブってヒュージゴブリンって言うのか。
ってそんなことはどうでもいい!
1万6千ゴールド!
ひょっとしたら服を買う余裕があるのでは!
僕は希望を見いだした。
だが、それがいかに愚かであるか、僕はすぐさま思い知ることとなった。
「もう食べてないでくれ! ぐはっ!」
ジーマの平手打ちが僕の頬に炸裂する。
素晴らしい破壊力で僕は壁に回転しながらめりこむ。
彼女の破壊的な腕力は、もっと他のなにかに有効活用できそうなものだが、ここまで僕を攻撃する以外には全く使われていない。
だが、そんな彼女の腕力も、彼女の食欲の破壊力の前にはかすむのだった。
すでに食費はさっきもらった金額を超えようとしていた。
それでも衰えることのない食欲に、うちの大食いドラゴン娘も驚く。
ドーラ、君がかわいらしく見えるよ。
僕は鼻くそまみれの服を捨てさろうかと何度考えたことか。
だが、それで裸になって直に鼻くそを浴びたらと考えると、捨てるのを思い止まるしかなかったのだった。
明日から闘技場で勝ち続けるしかない。
たとえ、空腹があろうとも負けるわけにはいかないのだ。
そんなことをぼうっと考えていると、銀髪碧眼の美しいエルフの女性の姿を視界にとびこんでくる。シーラさんだ。
「なんか大変そうね、あなたのパーティの食費事情」
「はい」
「これは提案なんだけど、冒険者ギルドに入ってみたらもう少しマシになるんじゃないかな?」