第28話
僕たちはスーラの声が聞こえた方に駆け寄った。
そこは森の中の開けたところで、真ん中にスーラがいた。
そして彼女の周囲を多数の緑色の小鬼、ゴブリンたちが取り囲んでいた。おそらく30匹はいる。
スーラは木の棒を振り回しているが、いくら以前よりは強くなったとはいえ、この数だと危ないところだった。
「ドーラ!」
僕が言う前にドーラは炎の玉を放って、ゴブリンたちを焼きつくす。ゴブリンはドーラに任せよう。
「スーラ!」
スーラは僕とドーラの姿を見ると逃げはじめる。僕は走って追いかける。
「ついてこないでください!」
スーラの声を無視して一気に速度をあげて追い抜くと、彼女の行く手をふさぐ。
「なんで逃げるんだ?!」
彼女は一瞬黙りこむがやがて口を開く。
「わたくしがいても、なにもできません。それどころか足手まといになりますし、姉もわたくしのせいでまだ宿屋で働かされています。せめて身代わりになっている姉の労働だけはわたくしがやるべきことだと思って」
ぶっちゃけ姉のスライのほうがスーラよりずっと働けているだろう。なんせこのスーラは失敗が多いからな。
皿を割ったり、ベッドを汚したり、料理の味付けをしくじったり。だが、彼女なりに考えての行動だから、あまり責めるのはよくないだろう。
「いいか? 僕はスーラとドーラの2人と一緒にいたいんだ。だからいてくれるだけでいいんだ」
「よくありません!」
スーラは涙目になっている。
「何もできないわたくしじゃダメなんです。ハルカ様の側にいる資格はありません! 自分の食費も稼げないどうしようもないスライムスメなんです、わたくしは!」
なんか、その通りなんだが、ずいぶんと自虐的な響きだな。
すると、追いかけてきたドーラが後ろから声をかけてくる。
「何もできない程度のあんたがダメなら、あたしはどうなる?! ちょっと動いたら毎日3000ゴールドのご飯を食べるあたしは! あんたこないだ言ってたじゃないか?! ゼロの自分のほうがマイナスのあたしよりマシだって! あんたがダメならあたしまでハルカの側にいられなくなるだろ?!」
そう、スーラがダメならドーラはどうなるんだ!
スーラだけなら余裕で養えるぞ僕は。
「でも、だって、じゃあ、姉はどうなるんです?」
スーラ、痛いところを突いてくるな。
無自覚なんだろうけど。
案の定、困ってるよドーラ。
なんせ、あの日、食欲我慢してたら夢遊病を来して、寝ながら食糧庫を食い荒らしたのが、スライが宿屋に取っ捕まってる直接の原因だからな。
つまり、一言でいえば、全てドーラが悪いわけだ。
ん? なにかの気配を感じる。
地響きだ。
何か大きなものがこちらに向かって歩いてくる。
「ハルカ様?!」
「ハルカ、この足音は?!」
「ああ、間違いなくデカイのがくる!」
そして、森の木々の間から姿を現したのは。
通常のゴブリンの10倍以上の身長はあろう巨大な金色のゴブリンだった。