第27話
僕がスーラの姿を求めて周囲を探していると、ドーラが近寄ってきた。
「ハルカ、どうしたんだい? こんな時間にさあ」
「スーラがいないんだ! 探さないでくれって地面に書き置きがあって」
「え、スーラが?!」
いつもは細かいことはおろか、結構大きなことでもあまり気にしないドーラがひどく驚く。
「どういう理由でこんなことしたのかも、行き先も分からない。ドーラ、心当たりはないか?」
「あたしが悪いのかもしれない」
どういうわけかドーラは珍しく気落ちしているようだ。
神妙な彼女は普段見ないから新鮮だ。
なんか可愛く見えてくる。
「どういうこと?」
「スーラは自分が何の役にも立ってないと常々気にしてるところがあった。普段こそあたしと言い合いしたりしてたけど、無理してたんだと思う」
「そうなんだ」
根は真面目で一生懸命なのは知っていたが、そんな思い詰めてるとは思っていなかった。そう言えば、スーラと2人きりになったとき、何か言いかけていたが。
「そういうことで悩んでいたなら、ネスターの街の宿屋にいるスライのところに向かったのかもしれないな。でも、そんなことをしたって……」
ここからネスターの街まで戻るのにかなりの距離がある。いくら最近魔物の数が減ったからと言って、万一魔物と遭遇した場合、スーラ1人では危険だ。
「僕1人で探してくるから、ドーラはシーラさんによろしく伝えてほしい」
「あたしも付いていきたい。スーラを追い詰めたのはきっとあたしだし」
「いや、それだとジーマとシーラさんだけになっちゃう」
そのときに背後に気配を感じた。
振り返るとシーラさんがいた。
「途中から話は聞かせてもらった。あの子は私がなんとかするから行って。早く行かないと追いつけなくなるわ」
シーラさんは寝息を立てているジーマの方を見ながら言った。
「じゃあ行こう!」
僕とドーラはネスターの街までの道を駆けていた。
「ねえ、ハルカ」
「なんだ?」
「ぶっちゃけたこと聞いてもいいかな?」
「なんだよ?」
「あたしってすぐお腹空くし、すごい食べるし、迷惑かけてるよね?」
「はい、かけてますとも。もう少し食欲自重してください、なんてな」
笑いながら冗談っぽく言ったのだが、彼女は突然立ち止まる。
「そうだよね。なんか申し訳ない」
「ドーラ?」
「スーラはいなくなる必要ないんだよね、あたしが悪いんだ」
さすがに言い過ぎてしまったか。豪胆な彼女に言っても大丈夫だと思って、うっかり言い過ぎたのかもしれない。
「そんなに気にするなよ」
彼女の肩を手をおいて慰めようとしたとき。いきなり抱きつかれる。
「お、おい。ドーラ?」
どうしたんだ?! ドーラらしくない。
だが良い匂いに柔らかな感触。
ん? 泣いているのか。
「怖いんだ。あの竜殺しと会って、あたしは震え上がった。だから、ハルカに守ってもらって。でも、甘えすぎだよね……」
彼女は僕から離れるとともに涙をぬぐったようだ。
「あたし、スーラが帰ってきたら、一人でなんとかやってくよ。妹も探す」
「待てよ」
「えっ?」
「僕はスーラとドーラ、2人にいてほしい。そのためなら食費くらいなんとかしてみせる」
食費うんぬんという台詞でいまいちしまらないのは気のせいだろうか。
だが、2人と一緒にいたいという気持ちは本物だ。
僕も男だ。意地を見せる。
「だから、どこにもいくな。スーラも連れ戻して、また3人一緒でやってこう」
「でもさ、ハルカ」
「ん? なんだ?」
「ジーマもいるんだよ? 本当に大丈夫?」
あ、そうだった……。
でも、かっこつけてしまって、ひっこみがつかない。
やってしまった。自爆。
そのとき。
「きゃああああああ!」
間違いない。
スーラの悲鳴だ。