第24話
魔人はこちらに気づいて、一気に突撃してくる。
ごつい甲冑で全身を覆い、しかも巨体なのにやたらと速い。
「みんな逃げろ!」
魔人が右手に持った巨大な剣を振り回すと、周りの木々が倒れる。
「きゃああああ!」
スーラの目の前の木が彼女めがけて倒れてくる。
僕は何も考えず、スーラのところまでかけていくと、彼女を庇った。僕の肩に倒れこんできた木がのしかかる。
「ぐっ」
スーラが下敷きにならないよう、上からの重みに耐える。
「ハルカ様!」
「はやく逃げろ!」
スーラは僕の下から抜け出した。
問題は僕だ。勇者の身体能力でも限界がある。背中にかかるの重さが予想以上でかなりきつい。だが。
「うおおおおりゃ!」
全力で踏ん張り押し返した。
我ながらぶっ飛んだ力だ。
なんとか木の下から脱出できた。
「ハルカ様、危ない!」
それと同時に背後に気配を感じて、僕は振り返りながら剣を抜く。
魔人が巨大な剣を容赦なく振り下ろしてくる。それを受け止めようとするが、圧倒的な腕力の前に僕はふっ飛ぶ。
立ち上がろうとしたとき、魔人が咆哮した。
途端にあいつを中心に爆風が起きて、全身を襲う激しい衝撃に気を失った。
「……ルカ様、ハルカ様」
目を開くと、森の木々で遮られてわずかに見える青空と。それから見慣れたスーラの顔が目に飛び込んできた。
「あ、ハルカ様! 大丈夫ですか?」
起き上がろうとすると全身から痛みが生じる。
「ここは?」
「森の中です」
「他のみんなは?」
「分かりません、さっきので、はぐれてしまいました」
「そっか」
ドーラとシーラさんは無事だろうか。
正直、魔人は異常な強さだった。
魔王四天王の1人などとのたまった矢より手強い印象だ。
僕は勇者のはずなのだが、おそらく強い雑魚モンスターにあたる魔人にここまで一方的にやられて、自信がなくなってきた。
「大丈夫ですか」
ここでわかったことだが、どうやら僕はスーラに膝枕してもらっているようだ。
そう考えると妙に緊張してくる。
目が合うと、スーラは顔を赤らめて、視線を反らす。
こんなかわいい子に膝枕されてるとは向こうの世界にいたときは信じられなかった。
スーラは心なしか嬉しそうだ。
でも、膝をずっと占領してるのも悪いなと思って起き上がろうとする。
「ダメです、せっかく2人きりなのに……」
「えっ?」
「いえいえ、怪我されているのですから、あまり動かないほうがいいかと」
「そ、そっか。悪いな」
「ハルカ様は悪くなんてありません。むしろわたくしをかばってくださって、ありがとう、ございます」
しばしの静寂。
「あ、あの」
「なんだよ、スーラ」
「いつも、ごめんなさい」
「え?」
「わたくし、いつもお腹が空いたばかり言って、その上なんの役にも立ててなくて」
「ああ、そのことか。気にするな」
なんだかんだかわいいし、基本一生懸命ではあるから、赦してしまう。
「わたくしにどうしてここまでよくしてくださるんですか? ただのスライムのわたくしに」
「それは……」
「それは?」
そのとき、頭に響くような、ぐうううと音がした。
沈黙。
そして、スーラが耳まで真っ赤になる。
「も、申し訳ありません!!」
腹が減るのが早すぎるが、仕方ないか。
すると、スーラは意を決したように話し出した。
「ハルカ様、わたくし、ハルカ様のことを」