第23話
「あなたはどちらさまです?」
僕の問いに銀髪の美女は答える。
「私はシーラ。魔法使いよ」
彼女の尖った耳を見て、疑問をぶつけてみる。
「シーラさんはエルフなのですか?」
「ええ、そうよ」
やっぱりそうか。
それにしてもキレイな人だ。
エルフだからなのか、幻想的な雰囲気が漂っている。
しばし、僕はシーラさんにみとれてしまうのだった。だが。
「いったた……なにすんだよ?!」
いきなりドーラが僕の脛を蹴ったのだ。
「なにニヤニヤしてだよ?! あんたにはあたしがいるだろ?!」
「ああ、確かに大食い女のお前はいるが。ぐはっ」
みぞおちに炸裂するドーラの拳。
「何言ってるのかな? あんた、あたしのことなんだと思ってるわけ?」
「それは、もちろん食糧浪費係、ぐおっ」
今度は膝蹴りだ。
しかし、僕は断じて間違ったこと言ってない!
「ふん!」
ドーラはそのまま行ってしまう。
助けを求めるように、黙ったままのスーラの方に目を向けると、目を反らされる。
え、なんで?!
まあそれはともかく。
「それでシーラさん、お願いってなんです?」
「ええ、魔物の捕獲を手伝ってほしいの。もちろん報酬ははずむわよ」
「魔物の捕獲……。 どんな魔物ですか?」
「闘技場で戦う魔物。コボルトエンペラーと同等かそれ以上の強さのものね」
それって……。
「シーラさんは、闘技場の運営サイドの方ですか?」
僕がコボルトエンペラーを負傷させたから、運営側の人間から恨まれているのではないかと心配になった。
「いいえ、ただ、闘技場側がそういう魔物を欲しがっていると聞いたからね。それで依頼を受けたのだけど一人で捕獲は大変だからね」
「それで捕獲はどういう方法でするんです?」
「私は戦闘力は高くない。ただ、相手を弱らせれば、私の魔法でこの剣に封印できる」
彼女は刀身が細く赤い剣を鞘から抜いて見せた。
「なるほど。では僕が魔物を弱らせればいいのですね」
「その通り! 察しがよくて助かるよ。ってか君さ」
と言ってシーラさんは、突然自分の額を僕の額とくっつけた。
か、顔が近い。
なんかいい匂いがする。
そして、しばらくすると彼女は離れた。
「やっぱりね」
納得したようにうなずく彼女に、きょとんとする僕。
「君、すごく魔法の才能がある! 人間としてはめったにいないレベルよ」
シーラさんと僕たちは次の日の朝に合流し、魔物探しに出かけることになった。
彼女は僕たちの空腹を知るや、ドーラが満足するまで晩飯をおごってくれた。
まさに天使のような人だ。
天使と言えば、転生したときのじじいを思い出すから、女神のような人としておこう。
だが。
長い間の空腹から解放されたというのに、その日の夜、うちの女の子2人はどういうわけかご機嫌斜めだった。
「どうしたの? 2人とも」
「「別に」」
声がハモった。
にしてもキレイだったな、シーラさん。
いい匂いしたし。
なんか頼りになるお姉さんって感じ。
ふと我に帰ると、スーラが僕をじっと見ていた。
その目つきがなんかよくわからんが、めちゃくちゃ怖い。
そして。
「いってえ!」
いきなりドーラが後ろから頭を殴ってきた。
ったくなんなんだ、こいつら。
せっかく飯が食えたってのに。
次の日の朝が来て、僕たちはシーラさんと出発した。
スーラとドーラの2人は相変わらず不機嫌だった。
ラッツの街を出て、西に進んだ。
そして、森の中に入る。
「最近このあたりの魔物もだいぶ変わってきてしまっているのよね」
「そうなんですか」
「弱い魔物が激減して、魔物と出会うことは減ったけど、出会ったときはとことん強い魔物であることが多いの」
「強い魔物と出会ったときはどうすれば?」
「君ならなんとかしてくれそうだと期待してるわ」
ウィンクしてくるシーラさんに、僕はドキッとしてしまう。
ここはシーラさんにかっこいいところを見せれば、仲良くなれるかも。
そんなことを考えていると。
目の前にスーラが来て、僕を死んだような目でじっと見つめてくる。
怖いんだけど。いつからホラーキャラになったんだ、お前は。
「いててててっ! なんだよ!」
そこへ背後からドーラが腕に関節技をかけてくる。
「ふん! 知らないね」
その様子を見て、シーラさんはなにかを察したように微笑む。
「あらあら」
なんだ? なにがあらあらなんだ?
すると、動物たちが森の奥から飛び出してくる。
木のかげに隠れて、それをやり過ごす。
「なにかいる」
シーラさんが警戒する。
僕も森の奥に気配を感じる。
そして、地響きのような足音とともに、木々をかき分け大きな影が現れる。
深い紫の輝く甲冑を全身くまなく身につけた巨体。
「まさか、あれは?!」
シーラさんの顔がこわばっている。
「あれは、なんなんです?」
「魔王城を守護する魔人、最高位の魔物よ」