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第21話

 晴れたその日、僕たちはネスターの隣街のラッツに来ていた。ラッツは巨大な闘技場があり、そこを中心に発展したことが容易に想像できる街だ。

 ‎しかし、今の僕たちにはどうでもいいことだった。


「今日はことさら腹が減った」

「お腹が空きました」

「お腹空いた」 ‎


 隣の街といってもけっこうな距離があったのでかなり歩いた。普段以上に腹が減った。

 ‎へこみすぎて背中とくっつきそうな腹を抱えながら、猫背ぎみにとぼとぼと歩く3人組を見たら、間違いなく僕たちだ。

 ところで所持金が約500ゴールド……。

 ‎ドーラは確実に3000ゴールド以上食べる。スーラは300、僕は200といったところだ。


「所持金でだいたいスーラと僕が満腹になれて、キリがいいんだどな!」


 ドーラをにらみつけてやる。

 ‎だが。


「キリの問題ならあたしのご飯にだけ500ゴールド使えばいいじゃん」


 ドーラ、それは頭悪すぎだ。


「いや、そもそもお前は500ゴールドで満腹にならない。結局腹が減ったまま。で、僕もスーラも食べられない。お前に500ゴールド分食わせると誰も幸せになれない」


「あ、なるほど」


 舌を出してごまかすドーラ。 

 ‎しかし、この軍資金ではなんにせよ厳しい。僕だけ食べて闘技場で戦ってお金を稼ぐのがいいのだろうが、さすがに女の子2人に全く食べさせず、ひもじい思いをさせるわけにもいかないだろう。この際だから、腹が減っては戦はできぬという格言を覆してやるとするか。


 そういうわけで、僕たちは早速闘技場にいった。

 ‎闘技場では前金不要、相手を戦闘不能にするまたは降参させたら勝ちで、賞金がもらえるというものだ。だが、相手を死なせてもいいということになってるらしい。

 ‎また、勝てば勝つほどランクというものが上がっていき、高ランクだと賞金も高いが対戦相手も強くなるということらしい。いかにもゲームっぽい! ゲームだ!

 ‎と盛り上がろうとするが、食べてない事実はなにも変わりはしないのであった。


 僕は当然最低ランクからのスタートだ。

 ‎エントリーが終了し闘技場のオヤジから対戦相手を告げられる。

「賞金は5000ゴールド。あんたの相手はコボルトエンペラーだ」

 

 コボルトエンペラーだって?!

 エンペラーって皇帝ってことだろ?

 コボルトって帝国みたいなのを形成しているのだろうか?!

 ‎すげえ、コボルト帝国っ!!

 ‎そんなくだらないことで自分を鼓舞するが、腹がやばいという厳然たる事実に何の変化もなし。

 ‎僕の本当の敵は空腹だ。


 闘技場の待合室で、僕は自分の出番を待っていた。

 ‎武器や鎧は貸し出されるらしい。

 ‎よかった、ひんまがった鉄の剣に、宿屋でもらったボロ服ではあんまりだ。

 ‎僕はロングソードと鎖かたびらを装備する。なんかファンタジーっぽいぞ! ファンタジー!!

 ‎とやたら心の中で盛り上がろうとするが、空腹の前にはやはりなんの役にも立たなかった。

 ‎本来の身体能力ならそこまで重く感じないはずの装備だが、腹が減りすぎているせいか重い。

 いっそのことパンツ1枚でもいいんじゃないかという気さえしてくる。

 ‎そこで僕の番がまわってきた。

 ‎

「ちゃちゃっと倒しちゃえ!」

「頑張ってくださいね」


 ドーラとスーラは期待のまなざしを向けてくれる。だが、どこか他人事のようだ。僕はなんだと思われているのだろうと自分のポジションについて改めて確認したくなる。なんだか惨めだ。


 階段を上って大きな扉の向こうは戦いの場だ。だが、緊張感などまるでない。戦いはとっくの昔に始まっているからだ。もちろん空腹との戦いである。ぶっちゃけコボルトエンペラーだろうが、コボルトゴッドだろうが負ける気はしない。

 大きな扉の脇には門番のように兵士が立っている。


「この扉を越えれば、生きて返って来られる保証はない」


 偉そうに言ってくるがこちとら慢性的カルシウム不足でイライラしてるんだ。


「扉越えても越えてなくても、こっちは餓死寸前なんだよ、早くしやがれ」


 と言うと兵士がびびる。

 ‎よほど僕の目つきがやばかったに違いない。


 慌てて兵士が重い鉄の扉を開く。

 ‎ガガガと軋むような音が響くのだった。

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