第19話
平和のための世界征服?
そのとき。
ぐ~~
俺の腹が鳴った。
「あ、ごめん。真剣な話してるところで。どうぞ、続けてください」
「もう、ハル! なにやってるんだよー!」
「仕方ないだろ! 腹の虫が勝手に鳴いたんだよ、僕は悪くないぞ。むしろドーラのせいだ!」
そのドーラからは珍しく返事がない。
彼女は気持ち良さそうに寝ていた。
食べてお腹が膨れて眠くなったに違いない。
赦せん!
と思うが、まるで力が入らない。
腹が減ってダメダメだ。
「隙あり!」
「しまった!」
トラなんちゃらって長い名前の矢が僕の足の下から脱出する。
そして、再び凛に突撃をかける。
「凛よけろ!」
だが、凛が突如消えた。
魔王様専用の姿を隠す泥棒スキルを発動させたらしい。
矢が空中で静止する。
「どこだ?」
かなり優秀なスキルのようで僕もあの矢も凛の気配を全く掴めずにいた。
「くそっ! 初撃で倒すはずが……!
貴様のせいだぞ!」
矢がこちらに標的を変えたようだ。
猛スピードで迫りくる矢。
僕はそれを鉄の剣で受け止めるが。
「うわあああ」
衝撃で宙に高く吹き飛んだ。
ただの矢だと思ってたがすごい突撃力だ。
「ハルカ様!」
スーラの声がはるか下から聞こえてくる。
僕の体は空中で放物線を描き、今度は落下し始める。
重力加速でぐんぐんと近づく地面。
さすがに勇者でもこれは痛そうだから勘弁してくれ!
と、スピードが急に落ちたと思うと、僕はゆっくりと地面に着地した。
「ハル、大丈夫?」
近くに現れた凛。
「巻き込んでごめんね。さすがにこれ以上やらせるわけにはいかない」
凛の両手のひらが黒く光りだす。
「そこにいたか!」
名前が長いしゃべる矢が凛の姿を確認して方向転換して急速接近してくる。
凛が手のひらを合わせると黒い壁が、目の前に出現した。
矢の魔物はかまわず突撃。
が。
漆黒の障壁に遮られる矢。
凛、すげえ。
「おのれ!」
矢は障壁に捕らえられたらしく、前にも後ろにも動けないようだ。
「さっさと帰ってくれる? それとも、このまま、へし折られたい?」
凛の声にはかつて聞いたことがないような威圧感があった。
「くっ、やむを得まい」
矢は逃げ足も速く、あっという間に夜空に消えていった。
「凛、お前やっぱ魔王だったんだな。すげえ」
だが、凛はあまり嬉しそうではなかった。
「あんまり力ずくは嫌だったんだけど、ハルを危険な目に合わせるわけにはいかなかったから」
なんとも悲しげな表情だ。
そして、続ける。
「やっぱ僕がいると、迷惑がかかるから、事態が解決するまでは1人で旅をするよ」
「なに言ってんだ、凛! お前がいなくなったら」
凛を見つめて。
「お前の泥棒スキルに頼って、スーラとドーラともども養ってもらう僕のプランがーー!」
泣き叫ぶ僕。
「まだ、そんなつもりだったの、ハル?! 泥棒はごめんだよ! 僕はやっぱり1人がいいよ、いろんな意味で!」
そう言い残して凛は消えてしまった。
残されたのは腹ペコの僕だった。