第18話
「危ないっ!」
とっさに凛を押し倒す。
僕の頭のすぐ上を謎の飛来物が通過していった。
それは近くの木に刺さる。
「ハル?!」
気づけば、僕が凛を組み敷く形となっていた。
顔を赤らめる凛は本物の女の子も顔負けなほど可憐で、僕まで変な気分になってくる。いかんいかん。二人の間に新しい禁じられた世界が広がるようなことはあってはならないんだ。
「いや、これは。今、凛のほうにあれが飛んできたから」
わけを説明し、ヤバい雰囲気を払拭して、凛を起き上がらせる。木に刺さったのは矢のようだ。
それと同時に周囲の気配をさぐる。
近くに誰かいるようだ。
だが、どこに潜んでいるかが分からない。
すると、さっきの矢が木から抜けると、再び凛のほうに飛んでくる。
それを僕は剣で叩き落とした。
「なに?! どうなってんの?! 矢がひとりでに」
「わたくしも見ました!」
ドーラとスーラもかなり驚いている。
「それは?!」
「凛、心当たりがあるのか?」
「そいつは魔王軍四天王の1人、トラペチィウス! 滅びの矢の2つ名をもち、どこまでも標的を追いかけてくる」
え、どういうこと?
魔王軍四天王の1人が矢なのか?!
いくらなんでも設定がぶっ飛んでないか。
剣とかだったらあるかもしれないが矢って何?
内心ツッコミをしてしまう僕だった。
「その通り! 吾が輩こそ滅びの矢、トラペチィウスなり! 魔王リンよ、いさぎよく我に貫かれるがよい」
矢がしゃべったよ。
実際にしゃべると不気味さなんかを通り越してシュールだな。
地面からふわっと浮き上がる矢。
そして、僕は踏みつける。
「がふっ! な、なにをする貴様! さっきから邪魔ばかりしやがって! なんだ、う、動けん! 足をどけろ!」
う、動けんって……
普通、ひとりでに矢は動かないんだよ!
「ハル、すごい! トラペチィウスの動きを封じるなんて、さすが勇者だね!」
「な、なに?! 勇者だと! なぜ魔王と勇者が行動をともにしているんだ!」
「わめくな、矢の分際で!」
「ぐはっ!」
うるさいので強く踏みつけると少し静かになった。
「しかし、凛。どうなってんだ?! 魔王なのに、直属の部下の四天王に裏切られるなんて」
「いや、それが……言いにくいんだけど、実は僕、誰からも魔王と認められてなくて……」
「やっぱりな」
すごく納得。
「なんで、その反応なわけ?! そこは驚くとこだよー!」
「むしろ、魔王様と認めた魔物を見たいね」
「わたくしはリンさんが魔王様ならいいなあと思います、かわいいですし」
ドーラやスーラからもなめられる自称魔王様。
「魔王四天王は魔王の武器、防具なんだ。それらに認められて正式に魔王になるんだけど、僕は……」
凛が話しはじめると、足元でトラペチィウスが叫ぶ。
「世界を平和にするために世界征服しようなどと考えるものに賛同できん!」
世界平和のための世界征服だって?