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第17話

 真夜中に宿に帰りついたところ。


「いいかげんにしろ!! 夜中に食糧庫を食べ漁るとはどうなってるんだ!!」


 聞きなれた宿屋の主人の怒鳴り声も今日はいっそう激しい。

 ドーラと僕やスーラ、スライ、そして、どう考えても関係のない凛までが正座させられている。

 ‎魔王なのにそんなんでいいのか、凛よ。

 ‎って他人の心配をしている場合ではない。

 これは最悪の場合……。


「出ていけ! 5680ゴールド稼いでから返しにこい!」


 あ、さっそく最悪の場合が大当たり。

 ‎明日から途端に飯と寝床で困る。

 ‎僕はさすがにドーラをにらみつけるが、笑ってごまかす彼女。


「そして、その間……そこの娘に残ってもらうぞ!」 ‎


 宿屋の主人はスライを指差した。


「ちょっと待って! わたし関係ないじゃん!」

「なんだと!?」


 スライがびびる。凛までびびっている。

 ‎そして、責任のあるドーラはぼうっとしている。こいつ。

 っていうか、借金全然減ってない、むしろ増えている。

 ‎


 宿屋から出る支度をしながら。‎


「食べた記憶ないんだから仕方ないだろ?!」

「わたし、関係ないのになんで人質なわけ?!」


 ドーラとスライの間に火花が散る。

 まあ、支度をするほどの荷物もあるわけがないのだが。

 ‎スーラいわくドーラは夢遊病みたいに食糧庫を食らいまくり、スーラが棒で後頭部を殴ってやっと止まったとか。

 そういうところはやっぱりドラゴンだ。

 なんて感心している場合ではない。


「どーでもいいが、今日からの飯、どうしようか?」


 あ、そういや。

 そこで良いことを思いつく。

 

「あのー、魔王様」


 魔王様であらせられる凛にうやうやしく訊ねる。


「お金、持ってません? この有り様で食費がないんですよ」


 そう、魔王といえば富と権力は相当なもののはず。お金も死ぬほど持ってる……。


「え? お金? お金はないよ。魔族は人間のお金、使わないものなんだ」


 はあ、なんだそれ。


「使えない魔王」


「態度、豹変しすぎだよー!」


 涙目の凛。

 しかし、本当に魔王なのか疑わしくなってくる。


「ほんとに魔王なのか? 証拠見せてくれよ」

「え? じゃあ仕方ないなあ」


 そう言うと瞬間的に消える凛。


「どう? 消えることができるんだよ、僕!」


 魔王としての能力が姿を消せる……。姿をこそこそ消す魔王。ダメだこりゃ。


「凛、なんで盗賊にならなかったんだ? ってか今から転職しろよ! そして、僕に貢いでくれ!」

「無茶言わないでよ! 泥棒なんてやだよ!」


 こうして僕たちがバカやってるうちにドーラとスライの戦いが加熱する。


「あんた、スライムの癖になに? 調子にのんな!」

「それはこっちの台詞! ドラゴンだかなんか知らないけど、食うだけしか取り柄ないんでしょ!」

「おい、今なんつった?!」

「今の声で聞こえないなんて、あなたもう耳遠いの?」

「赦すまじ!」


 ドーラはとうとう手に炎をためはじめる。

 だが、スライは一歩も退かない。

 気が強すぎるだろ。

 スーラは止めようとして、あわあわしてるだけだ。

 さすがに仲裁しないとまずい。


「おい、ドーラ! ここにおわすお方が誰か分かってる?」

「え?」

「魔王様だよ、魔王様」


 凛を指差すと、凛は胸を張る。


「え? そのかわいい女の子が?」

「ひどいよー! 僕は男だよー!」


 とりあえずドーラの気をそらすことに成功。

 彼女は確認すべく凛の体を触りまくる。


「助けてー! ハル!」


 この隙にスライをなんとか説得するしかない。


「申し訳ない、できるだけ早く借金返すから、それまでなんとか僕に免じてさ。関係ないのに巻き込んでしまってすまないんだが」


 本当は全部ドーラのせいと言っても過言ではないが、頭を下げるしかない。


「わたくしからもお願いします、姉さん。全く気が進まないのも、あんな大食いドラゴン女のために人質にされて理不尽極まりないこの世を恨んでいることも分かってますけど」 


 スーラ、なんか姉の心を代弁するつもりで君の本音まで吐露してません?


 

 なんだかんだ、僕たちはスライを置いて、宿屋を後にした。

 スライ、君という犠牲を無駄にはしない。

 そして、たいして行くあてもなくネスターの街から出て、大草原のどこかで野宿することにした。


 が、街から程無く離れたところで、突然。

 何かが隣の凛めがけてすごい速さで飛んできた。


 

 

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