第12話
食費倹約、それは魂を削って金を残すこと。
案の定、ドーラは大変なことになっていた。
「うへへへへへ、お肉おに~く! はむっ!」
「痛い! 痛いです! ドーラさん! わたくしを食べないでください!」
今日何回目だろうか。
ドーラがスーラを食べ物と間違えたのは。
昨日食べる量を半分にしたドーラは今朝から動けないほどの疲労感に悩まされ、とうとう幻覚が見えるまでになった。
そのあたりにあるものを肉と思って手当たり次第にかぶりつく。スーラは動くので獲物に見えているらしい。
今日は夜にスーラのお姉さんに会いに行く予定なのだが、こんな状態のドーラを連れていったらどうなるか分かったものじゃない。
頑張っているドーラには申し訳ないけど、スーラのお姉さんのところには、僕とスーラの2人で行くことに決めたのだった。
そして、夜になった。
僕たちが出会った場所、その近くにスライムの巣があるらしい。
そこを目指して歩く。
最初の村からネスターの街までは来るときは馬車だったので、今回は少し時間がかかりそうだ。
月明かりが照らす中、大草原の中の一本道を2人して歩く。
「スーラ、聞きたいことがあるんだけど」
「なんですか?」
スーラは軽く頬を染めている。
「家族はお姉さんがいるってことだけど、お姉さんしかいないのかな?」
訊いてから、訊いちゃまずかったかと若干後悔した。
スーラは僕より先を歩いて顔を見せずに答える。
「少し前に、冒険者に殺されました。わたくしと姉さんだけがなんとか助かったんです」
やはり訊くべきではなかった。
だが、知っておくべきかもしれない。
家族の大切な過去だ。
「そうなんだ」
「はい、人間にとって魔物は恐ろしいものなもしれませんが、わたくしたちスライムは冒険者のスライム狩りにあったら、大半は生き延びられません。冒険者はわたくしたちを楽しみながら狩るのです」
なんだか、ゲームで無尽蔵に現れるモンスターを倒して経験値稼ぎをしていたときのことを思い出す。
実際、冒険者にとってはゲーム感覚なところもあるだろう。
僕だって最初スーラのことをスライムだからと気楽に殺す寸前に追い詰めた。結果的には、魔物を人間の女の子にする能力を試すためにスーラにトドメを刺さなかったけど。
「ごめん」
なんか後ろめたさというか申し訳なさを感じて僕は謝った。
「いいえ、わたくしはすごく感謝してます。人間にしてもらったおかげで、これまでのように人間に狩られることはまずないはずですから。それに」
そこで、振り返ったスーラは僕の方に近づいてきた。彼女の長い髪が風にのって、月の光で煌めく。
「ハルカ様がわたくしを守ってくださいますしね」
スーラの満面の笑顔に僕はドキドキさせられる。
話しながら歩いていたら、あっという間に2人の出会いの場所にたどり着く。
「この奥の森の中にわたくしたちの巣があるんです」
ご機嫌でやや駆け足のスーラ。
そして、山と山の間のくねくねとした細い道を進んでいく。
そこを越えて、山影に遮られていた景色が目の中に飛び込んでくる。
炎で森が焼けていて、その前で立ちすくむスーラの後ろ姿が僕の網膜に焼きついた。
「森が、わたくしたちの巣が、燃えてる」