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第11話

「ちょっと待ってくれ、現状でも衣類を買うこともできないくらい食費がかさんでいるのに、ここでお姉さん追加ですか? まじですか?」


 スーラのあまりの衝撃的なお願いに僕の思考はとち狂っていた。言葉遣いまでその余波を受けている。


「そこをなんとか」


 青く透き通った瞳が放つ必殺上目遣い。美少女のスーラがこれ使ってくるとかもうこれこそチートだと思うんですが。男はみんな言うことを聞いてしまうだろう。


「なにいってんだい、あんた? 今お金ないの、分かってるだろ?」


 横槍を入れてくるドーラに対して、スーラもだんだんと強気になってきたのか、僕の後ろに隠れることもせず。


「それは完全にあなたの大食いのせいです! ご自分のことを棚に上げないでください!」


 完全にとはいかなくても、9割以上は正しいのが本当のところだ。それは否定できない。


「あんた、食い殺されたいの? はあ、食べる話をしたらお腹空いてること思い出したよ」


 ドーラがいつものように腹をなではじめる。すると、あくびがうつるように腹減りが伝染するスーラ。


「お腹が空きました」

 

 君たち、さっき食ったばっかなんだよ、さっき。とりあえずこんなことをしていては無駄に腹が減る一方だ。

 ‎あの呪術師は恐らく魔王軍の幹部かなにかなのだろう。

 ‎ありがたい魔王の命令を伝えに来たというわけだ。

 ‎どうせ相当強いだろうから、こんな腹減り状態で立ち向かうのは危険だ。そもそもコボルトを狩りにきただけだし、ここは撤退だ。


 ゆっくりと洞窟の、来た道を帰っていく。

 行きと同様帰りも天井から雫が地面に落ちる音が聞こえてくる。

 ‎暗がりの中、僕が先頭で3人で歩いている。

 ‎なんだか、まるで1人しかいないかのように感じてしまう。

 ‎勢いとノリでここまで来たけれど、僕は死んだんだよな。そして、この世界に転生。女の子をまわりに侍らせたらいいと思っていたけど、現実はあまくないことを空腹感が嫌というほど教えてくれる。

 ‎そう言えば一緒に自転車に乗ってた凛太郎、凛は無事だろうか? 父さんや母さんにももう会えないのだろうか?

 僕はどうすれば、どうすればいいんだろう。


「ドーラ、君に家族はいないの?」


 すぐ後ろを振り返って、唐突に質問していた。

 ‎驚いた様子のドーラだったがすぐ悲しげな表情を浮かべる。


「父さんと母さんは竜殺しにやられた。妹と弟がいたけど逃げられたかどうか……」


 そう言われて言葉に詰まった。

 ‎気丈にふるまってはいるが、そんな辛い過去を背負っているのかと思うと、普段の笑顔が大切なもののように思えた。


 僕は2人の目を交互に見た。


「僕はここじゃない世界で死んだ。すごくカッコ悪い死に方をしたんだけどね。で、こっちの世界に転生してきた。第2の人生ってわけ。そして、まだ出会って日は浅いけど、君たちはこっちの世界での家族みたいなもの。君たちはどう思ってるのかな?」


 問いかけると2人ともうなずいた。


「わたくしもハルカ様は新しい家族だと思っていますわ」


「あたしもあんたのこと、家族みたいに感じ始めてる。もちろん妹や弟のことは心配だけど」


 「それじゃあ」


 スーラは暗い洞窟の中でも光っているかのようにパッと明るい表情になる。

 僕はうなずいた。


「うん。とりあえず、お姉さんと会ってみよう。一緒に過ごせるかは分からないけど、このままスーラとお姉さんが離ればなれになるのを放置できないよ。それから、ドーラ」


「うん」


「君の妹さんを探そう」


「いいのかい?」


 びっくりする彼女。


「もちろん。だって君の家族は僕にとっても家族みたいなもんだし」


「わたくしもそのお考えに賛成ですわ」


 スーラもこころよく同意してくれて、ドーラは頭をぽりぽりと掻きながら。


「そういうことなら、あたしも頑張らなきゃね」


「なにを頑張るべきかわかってる?」


 僕が意地悪く訊くと、ドーラは握った拳を前につきだして、親指を立てる。


「食費倹約だろ?」


 彼女の笑顔はこれまでになく幸せそうだった。

 しかし、繰り返すが現実があまくないことを思い知らせてくれるのは空腹であり、次の日からドーラは飢餓の苦しさで美人が見る影もないほどになるのだった。

 

 




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