第二章 不思議少女 スミレちゃん〈Ⅳ〉
あの後、俺は授業中にマリンに怒られた。どうやらどこかで俺が山川さんと話していたことを聞いたらしい。
「こんなに私が頑張ってるのにっ!」
「黙れ、ストーカー。やりすぎなんだよっ!」
「私はっ、(山川さんのことを)ちゃんと思って行動したんだよっ!」
「だからそれが(山川さんの)迷惑なんだよっ!」
「酷いよっ、ムクっ!そんなに言わなくたって……」
「事実なんだよ!」
だんだん、俺たちの口論がヒートアップしてくる。もう、誰にも止められないほどに。
そして、俺たちは席が遠い。だから大声でこのやりとりを続けていた。(※授業中です)
「あのっ、ケンカは――」
「「黙ってください。これは俺たち(私たち)の問題です。どーぞ、気にせずに」」
ごめん、みみちゃん先生。負けられない戦いなんだ。
――10分後
「決着は部活で決めないか……?」
「逃げるのっ!?ムクっ」
「もーいいよ、それで……」
もう疲れた……。クラス中(特に男子)からの視線がさっきから痛い。
みみちゃん先生もさっきから涙目でオロオロしてるし。
「えっと、大変申し訳ありませんでした。あと、吉川さんと俺はただの腐れ縁ですので、誤解しないでください」
「「「「(んなわけねーだろ)」」」」
クラス中の心の声が聞こえたような気がしたけど、きっと幻聴。幻聴だと思いたい。
俺がそう言ってイスに座ると、マリンも小さく「ごめんなさい」と言ってイスに座った。
「でっ、ではっ、教科書12ページを開けてくださいっ!」
みみちゃん先生が慌てて授業を始める
(ついでに今は数学)。
ぼーっと黒板を眺めていると、腕にチクリとした痛みがさす。
腕を見てみると、隣の席の奴にシャーペンでつつかれていた。地味に痛い。
そして、俺をつついていたシャーペンは、次は俺のノートをつついていた。
『大変だな』
ノートにはいつの間にかそんな文字が書かれていた。
それが俺へのメッセージだと分かると、俺は隣の奴と筆談を開始した。
『あぁ、全くだ』(←俺)
『Www』(←隣の奴)
『おいっ!』(←俺)
筆談がバレてみみちゃん先生に注意されたときには、俺と隣の奴――桜坂ユウとは友情が芽生えていた。
☆ ★ ☆
「本当にムクは――」
今は放課後。
俺はマリンのお説教(?)を右耳から左耳へと流していた。
授業が終わってからもマリンはずっとお怒りモードである。
「はいはい。ほら、着いたぞ」
「もうっ、そーやって話そらそうとしてるっ!」
俺が部室のドアを開けると、マリンは怒りながらも入っていく。俺もそんなマリンに溜息をつきながら続けて中に入った。
「へっ?」
「どーしたんだよ」
先に入ったマリンの口が空気の抜けたようなマヌケな音を出した。
俺はマリンの見ている方向へと目を向けた。そこには――、
「山川さんっ!?」
「うるさい」
山川さんがいた。お馴染みの黒い服装で。
「なぜ、あなたがここに!?」
うん、ヴァカだ。きっとコイツ、昨日刑事ドラマでも見たんだろーな。そして、無駄に演技が上手いのでなんかムカつく。
「――て、山川さん、帰らないでっ!!」
「そうだよっ、なんでここにいるの?
あ、もしかして部活入る気になった?」
「……」
大きい声で喋るマリンをウザそうに冷たい視線を送りながら、アレなノートをどこからか取り出した山川さん。
もしかして、呪いに来たとか……?アハハ、それはない。それはない……よね?
「これ」
そう言いながら、山川さんはノートの中から一枚の紙を取りだして、俺へと差し出した。
俺は恐る恐る山川さんからその紙を受け取る。
その紙は――、
「「入部届!?」」
だった。本物の。正真正銘の嘘、偽りのない『入部届』。
「入る。この部――」
「やったー!!」
山川さんの言葉をさえぎって、マリンは喜びの声を上げた。そして、そのままバク転。
すげーけど、山川さんがドン引きしてるぞ。てか、怪我するぞ。
ついでに、一応部長はこのヴァカなので、山川さんの入部届は渡しておく。
わー、すっげえ不安。
俺はマリンに向かってツッコむのも諦めてソファーに座った。もちろん、山川さんを先に座らせてから。
「えっと、どういう心境の変化で入部を?」
「特になし」
ん?俺、国語の成績はそこまで悪くないはず……。じゃあ、山川さんは、アレ?エ?ナンカ、ワカンネー。
俺の心の中の声が不安定になってきたところで、山川さんが急にソファーから立ち上がる。
「もう、帰る……」
「「えっ」」
時計を見るとまだ5時。部活の終了時間は6時。(なんかいつの間にかマリンが決めていた)
まだ、1時間もあるのに?
そんなことを疑問に思っていると、山川さんはいつの間にかドアを開けていて
「今日、用事があるから」
とだけ言ってドアを静かに閉めて出ていってしまった。
「おい、これからどうする?」
「んー、じゃあ解散。帰ろっ、ムク!」
「一人で帰る」
「うん、帰りにクレープ食べたいっ!」
全然、話聞いてない。てか、ぜってークレープ奢らされる。
手作りだと二百円もしない食べ物になぜ、倍以上のお金を払わないといけないんだろう。
そんなことを考えながら部室を出る俺と――マリン。
最後はいつもそうなってしまうのだ。