第七章 お弁当大計画!〈Ⅲ〉
翌日。
とりあえずあの後、お弁当の品は決まった。
おにぎりのセットとサンドイッチのセットの2種類。そして、スープは時間をかけずに一度にたくさん作ることができるため、1杯100円と少し休めに販売することも。
容器などは業者に安く譲ってもらうことが既に決まっているらしい。本当に会長は普段の言動によらず――ゴホン。わが校の会長は仕事ができる。
調理器具はだいたい調理室に揃っているらしい。1番大切になるであろう大型冷蔵庫や炊飯器も。
更に当日は弁当を売ったりスープを作るためのテントを設置してくれるらしい。
ここまでが今朝、会長が俺に渡したプリントと昨日決まったことの内容である。
……ここまで話が進んでいると本当に1000食分の弁当を作って売るのは決定事項であると実感するしかなくなる。
「おーい、ムク!はよ」
「……おはよ、優」
「元気がないな……寝不足か?」
「……あぁ」
昨日はずっと弁当のことを考えてて寝れてないのだ。めちゃくちゃ眠い。
俺は欠伸をかみ殺しながら優に弁当について話すことにした。
――2分後。
「……なんかすげーな」
「他人事だと思ってるだろ……」
優の反応に俺はそうつぶやいてため息をついた。
すると優は「そ、そんなことねーよ!」と慌てて口にした。
「てかお前の料理の腕なら大丈夫だって」
「いや、商品として出すほどの料理の腕ではないからな?」
俺が優のお世辞に苦笑して返すと、呆れたような目で見られた。え?なんでだ?
困惑している俺に何故か優はため息をつき、教室内に通るような大きな声をだす。
「聞いたかー?今のムクの言葉」
「は?」
誰に言ってるのだろうか?俺は教室内を見渡した。すると――、
「佐藤の弁当なら俺予約する!」
「てか、佐藤君がプロレベルじゃないなら私なんてもうゴミだよね、うん」
「女子の敵!」
「この飯テロやろーが!毎日毎日、美味そうな弁当を見せつけてんじゃねぇよ!」
教室中から口々に上がるそんな言葉。言っているヤツらの中には話したことの無いやつもいた。
ますます俺が困惑していると、優がニカッと笑った。
「つまり――このクラス全員分の弁当を予約するってことだぜ!」
その言葉にクラス全員が頷く。俺はそんな皆にありがとう、と笑ったのだった。
★☆★
「ボクのクラスにも予約するって人いたよー」
「……私のクラスでも」
「きょ、今日の朝の会議でわたしたち教師の分と来客の方々の分の予約も入りました!」
放課後。部室に集まった瞬間に弁当の話になった俺たち。
意外な予約の多さに俺は驚きを隠すことが出来ない。そのまま口をパクパクさせていると山川兄とヴァカに笑われた。
「ボクねー、会長と一緒に宣伝したんだー、学校中に」
と、謎のドヤ顔の山川兄。
「私のクラスの方まで愚兄が来た……質問攻めにされた……」
と、今にも人を呪いそうなオーラを発する山川さん。
「前にお弁当を貰ったときに家庭科の先生に実は1口食べられてしまって……。他の教師たちにも佐藤君の料理の腕は確かだと言い回ってたらしくて……」
と、いつものようにオドオドにながらも可愛いみみちゃん先生。
謎が解けて俺はなんだか照れくさくなってくる。
そんなに俺の料理をたくさんの人に食べてもらえるのか……。
そう俺がしみじみしているとマリンが「んー」と言って口を開く。
「つまり!ムクの料理はすっごく美味しいってことだよね!それでみんなも食べたいって」
そして、いつものように無邪気に笑うマリン。
「地味にためたのにめちゃくちゃ単純だろ、それ……」
そう呆れながらも嬉しくて、俺も笑う。
5月はもう終わる。そして、体育祭まではあと3週間。
この俺らなら――きっと大丈夫。




