第五章 山川ユーリ、参上!! 〈Ⅱ〉
「は……?兄さん?……って、男!?」
アレ、俺ノ目ガオカシイノカナー?
どう見ても、男にしか見えない。てか、抱きしめられてるから前が見えない。
俺は必死にもがいた。すると、意外とあっさりと離れることが出来た。
俺が安堵のため息をついていると、山川兄(仮)は山川さんを見ながら立ちすくんでいた。
部屋内には心なしか不穏な空気が流れているように感じる。
俺は無言でお互いを見つめ合う2人の雰囲気に一歩後ずさった。
この二人の間に何かあったのか?
でも、そんなこと聞ける雰囲気ではないことが俺でもわかる。
でも、気になる……。
俺が心の中で葛藤していると、山川兄の表情が変化していることに気づく。
無表情から一転、満面の笑みに。
そして――
「ス・ミ・レー!!」
と言いながら、山川さんに抱きつこうとした。だが、山川兄が近づいた瞬間、山川さんの拳が腹部にクリーンヒット。
俺はその見事な技に思わず、拍手。なかなかあそこまで腹パンを決めるのは難しい。
「ねぇ、邪魔。……出てって、ユーリ」
山川さんは痛みに悶絶している兄にそう吐き捨てる。
兄の方はというと――
「分かってるって、スミレ〜!ただの照れ隠しでしょ!
大丈夫、お兄ちゃんはそんな恥ずかしがり屋なスミレのことも大好きだよ〜♡」
うん、全然分かってなかった。
普通、照れ隠しで腹パンをする妹キャラはいないと思う。
シスコンなのか、馬鹿なのか。
俺がそんなことを考えていると、山川兄はムクリと立ち上がった。
「あ、でも、今日は帰るね……ばいばーい」
そう言って、出ていった山川兄は腹部をおさえていたような気がする。
俺はあんなに元気のない「ばいばーい」を初めて聞いた。
「何しに来たんだろ……あの愚兄」
山川さんがポツリと忌々しそうにつぶやいた。
いや、多分、山川さんに殴られた場所が痛すぎて帰ったんじゃないかなー、とは言えなかった。
だって、あの腹パン怖いし。
「まあ、部活始めるか」
俺の言葉に山川さんはこくりと頷き、ソファーに座った。
て、言っても、その日の活動もティータイムと読書のみでした。
☆★☆
「ムクくう〜ん」
「なあ、優。今日の課題ってさ……」
「お、おう」
「おーい、ムクくーん」
「でさー、優」
「……呼ばれてんぞ、ムク」
そう言われたので、とぼけたフリをしたら呆れた視線を向けられた。
でも、なんでアイツがここにいるのだろうか。
まだ、目をそらし続けていると他のクラスメイトにも「呼ばれてるぞ」と言われてしまったため、俺は諦めて廊下まで思い足取りで向かった。
「なんでここにいるんですか……山川先輩」
俺がそう尋ねると、彼はニカッと笑って衝撃の言葉を言い放った。
「ボク、放火後安心安全部に入るよ〜っ!」
瞬間、教室がざわつき始めた。
「放火……?」
「犯罪者!?」
「こっわ……」
「そうだぞー、犯罪ばダメだぞームク」
「そうっスよー」
皆さん、それは誤解です。てか、2名ほど便乗して、ふざけてる奴がいるだろ。
とにかく、俺が弁解をしようと必死に言葉を探していると、手首を山川兄に掴まれた。
「まあ、ここじゃ話しづらいでしょ〜?」
その原因を作ったのはお前だろーが。
そう言いたかったけど、俺が口を開く前に、山川兄は走り出した。
俺を引きずりながら。
抵抗しようと踏ん張ると、ヒョイっと抱き抱えられた。
つまり、お姫様抱っこ。
てか、ヤバい。スピードが速すぎて、気持ち悪い……。
俺が最後に見たのは、俺に哀れみの眼差しを向けた友人達の姿だった。
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