第五章 山川ユーリ、参上!! 〈Ⅰ〉
はい、では、新章スタート!!
「かわいいかわいい、ボクっ、ユーリちゃんが放火後安心安全部に参上っ!」
ピシャリ。
今、部室のドアが開かれた気がするけど、気のせいだ。きっと、風とかだ。うん。
俺はまた、風とかでドアが勝手に開くと困るため、素早く力いっぱい閉めた。
そして、鍵をかける。
「開けてよぉー」
「すいません、変人は間に合ってるんで!」
俺はガタガタと音を立てているドアを必死におさえる。
今、この部室にいるのは俺だけ。誰か早く来て欲しい。もういっそ、あのヴァカでもいいから。
カチャリ。
俺がスマホをポケットから取り出し、SOSを呼ぼうとしていたところで嫌な音が耳に入った。そう、まるで――鍵が開いたような。
「ピッキングは得意なんだあ〜」
神様、助けてください。ここに、犯罪者がいます。
――1分後。
「……何のようですか?」
「まあまあ、茶でも飲め」
俺が入れた緑茶だろーがッ!!
目の前の奴の頭にお茶をかけてやろうと勝手に動く自分の手を必死に抑える。
茶は悪くない。
気持ちを落ち着かせるために、俺はまだ熱いお茶をすすった。
うん、美味しい。
冷静になってから俺は、目の前でお茶を飲んでいる女子生徒を盗み見た。
金色の髪のツインテール。とても、綺麗な青の目。
ブレザーの下にはショッキングピンクのパーカーを着ていて、なんだかギャルっぽい。
ていうか、この目をどこかで……。
俺が目について思い出せないでいると、彼女がニヤッと笑った。
「なに、なに〜?ボクのことをそんなに見つめちゃってぇ〜♥
も、し、か、し、て、ボクに惚れちゃった〜?」
「それはない」
そうだ、俺にはハルカ様という心に決めた女性が……。
俺の頭にこの前のハルカ様の言葉が蘇る。そうだった、ハルカ様も……。
「ちょ、なに泣いてんの!?え、あっ、はあ!?」
違います。これは涙じゃなくて、汗だもん。俺、泣いてないもん。
咄嗟に否定しようとしたら、いつの間にか彼女の腕の中にいた俺。頭の中が一瞬で真っ白になる。
人に抱きしめられたのは何年ぶりだろうか。
俺は暖かい体温と柔らかな感触を堪能――ん?
「硬い……?」
おかしい。
今、俺の顔の前にあるのは位置的にも、女性の胸部で間違いないはずだ。
そう、男子ならば誰でも憧れるであろう、あの夢のような場所。
だが、彼女にはその女性特有の柔らかさが無い。それどころか、程よく筋肉がついているようにも思える。
「てか、はなせって!」
「おや、だって、泣いてたし……」
「うっ……」
彼女(?)が俺のことを心配しての行動だと分かると、何も言えなくなってしまう。
ガラリ(ドアが開いた音)。
「失礼しま……した」
ピシャリ(ドアが閉められた音)。
山川さんがこの一連の動作にかかった時間はわずか3秒。
お願いします。助けてください。今、知らない人に抱きしめられています。
山川さーん(泣)!
ガラリ。
あ、戻って来てくれた……。ねぇ、山川さん。助けて。
俺は必死に救いの手を求める。それはもう必死に。
そんな俺をスルーして、山川さんは俺のことを抱きしめている女子(?)生徒のことを、ゴミを見るような目付きで見ていた。
「なんでここにいるの――兄さん」




