第四章 桜坂双子と+1 〈Ⅲ〉
「あ、明日提出の課題ってさ、一つだけだったよな?」
「え、三つじゃね?」
「えっ、二つじゃなかったっスか?」
使えねー。
俺たちはあの後、一緒に帰ることとなった。
男子と女子(山川さんはとっくの昔に帰ったから2人)の間には10メートルほど、距離があるけれど。
「……あ、アレってナンパっスか?」
俺たちと雑談をしていたヒジリが女子たちの方を見てそんな言葉を口にした。
俺も慌てて女子たちの方へと視線を向ける。
「いーじゃん、遊ぼうよ〜♡可愛い子猫ちゃんたち」
あ、ホントだ。絡まれてる。てか、チャラいな、ナンパ野郎。
ナンパ野郎は俺たちの存在に気がついていないらしく、嫌がっているハルカ様の腕を掴んでグイグイと引っ張っていた。
他にも、仲間が数人。
俺は友人、Y君の顔を見た。
シスコンの兄は――キレてた。うん、おでこに怒りマークが出来てる人、初めて見た。
「人の妹に何してんだっ、ボケェっ!その汚らわしい手を今すぐ離せっ」
そのままぐーぱんち(と、言っていいほど可愛いものではなかった)をハルカ様の腕を掴んでいる野郎にする優。
そして、一発でノックアウト。
他の6人ほども殴って、蹴って、アレして、こーして……あ、なんか、うん、スプラッター。
ついでに、マリンの目は俺、ハルカ様の目はヒジリが塞いでいる。
「……すげーな」
いろいろと。強さとか、キレ方とか、この目の前に広がる光景とか。
「いや、アイツって元ヤンなんすよ〜」
「……へー」
もう、驚かない。俺は今、その光景を実際に目にしているから。
「本人はなりたくてなった訳じゃないと思うんスよ。ただ、ハルをナンパしたやつが前にもいたんスけど、同じようにユウがフルボッコにしたんスよ。
そしたら、その怪我だらけになった奴がここら辺じゃ最強のヤンキーで。結果的に優が最強のヤンキーになったっス」
こ、こえぇぇー、シスコン力こえぇ。
俺が震えていたら、優が戻ってきた。どこにも返り血が付いていないところが凄い。
「優ちゃんっ」
「春香、大丈夫だったか?」
「うんっ、ありがとうっ。我の血を分けし者よっ!」
「うん、お兄ちゃんはそのモードじゃなくて、フツーにお礼を言って欲しかったかなー」
そんな会話をしながら抱きしめ合う2人。完全に2人だけの世界を作っている。
ついでに、ヴァカが2人と俺を交互に見て、期待した目を向けて来やがったが、俺は全力で無視。
だって、あんなに恥ずかしいことが出来るわけがない。
☆★☆
「おはよー、ムク」
「お、おおお、おはようございますっ」
俺が一週間近く、優に対して敬語だったことは言うまでもない。




