第四章 桜坂双子と+1 〈Ⅱ〉
『桜坂 優』。
俺の友人であり、良き理解者。
本人は自分のことを凡人と言っているが、普通にかっこいい。
ただ、双子の妹の方が目立ち過ぎているだけで。
そして、この頃分かってきたことは、彼がシスコンだということ。
ハルカ様の話をする時だけ、すっげー笑顔が輝く。兄バカ感が半端ない。
まあ、優しくて良い奴である。
☆★☆
「……こいつ、誰?」
「同じクラスっスよー、オレ達」
「悪い、ムク。こいつは無視していい」
今は放課後。マリンはまたみみちゃん先生に呼び出されたらしい。
そして、俺の他にこの場所にいるのは山川さんと優、さらに――金髪ピアス。
優の金髪ピアスへの態度からすると、仲が良さそうである。若干、優の態度が冷たいが。
「あ、オレのことが知りたいっスか?」
「いや、遠慮しとく」
「しょうがないっスねぇ〜」
俺の言葉が耳に届いていないのか、金髪ピアスは喋り出す。
マリンと違う意味でウザい。
「えーと、俺の名前はヒジリっス。神仏 聖。優とは幼馴染で、何でも知ってるっス!
嫌いなものはキノコとリア充。好きなタイプの女子は――」
「黙れ、今すぐその汚らわしい口を閉じろ」
あ、優が怒った。いつもは、シスコンでヘラヘラしている奴だった優が。
なんだか、面白い。
俺は2人の姿をスマホのカメラで撮影。
本人たちはケンカ(というか、神仏が一方的にやられている)を続けているため気がついていない。
あ、倒れた。神仏が。
「あっ、あとオレ――」
思い出したように倒れていた(というか、死んでいた?)神仏が起き上がった。
「神っスから」
「……へえ、そ、ソウナンダー」
うん、ヤバい奴だ。イタイ奴だ。
俺は神仏からそっと、距離をとった。
「コイツ、厨二病なんだ。昔から」
「昔から!?」
優が、かろうじて作り笑いをキープしている俺へと遠い目をしながら教えてくれた。
神仏のアレは両親の影響とかだろうか。
すごく気になったけど、これ以上きくと優のトラウマスイッチを刺激しそうなので俺はただ、
「よろしく、神仏」
という言葉を口にした。
「よろしくっス!オレのことはヒジリでいいっスよ〜」
「あぁ。俺のことはムクでいーぞ、ヒジリ」
そして、俺たちは固く握手をしてめでたしめでたし。
「てか、ハルはどこっスか?」
「春香は図書室に寄ってからここに来るってさ」
「ハルカ様に会えるのか……」
主役の2人がくるまで、雑談。山川さんは読書中。
十分後。
「ごめーん、優ちゃん!遅くなっちゃった」
「ごめんっ、ムク!!」
ドアを大きく開いて入ってきたハルカ様とヴァカ。
「で、なんでお前は呼び出されたんだ?マリン」
どうせ、しょうもないことだろうけど一応聞いておく。
すると、マリンはあっさりとした口調で、
「いや、ただ単に男子トイレに入っただけなんだけど……なんで怒られたんだろ?」
「「「「は?」」」」
マリンの言葉に俺以外の4人は目を丸くした。
俺は溜息をついて、マリンをその場に正座させる。
「あのな、マリン。フツー、お前は女子トイレにしか入っちゃいけないって言っただろ?この頃はしてなかったから、てっきり高校生になったし理解したのかなって思ってたけどっ!これで何回目だよ!?」
「え?242回目だけど?」
「毎回、それで叱られてたよな!?なんで懲りないんだよっ!?」
俺は、それでも頭に疑問符を浮かべているマリンに呆れる。
ヴァカのこのクセが始まったのは小学生低学年の頃。あのヴァカ、その頃から周りから天才と特別扱いをされていた。
でもある日、そんな彼女が男子トイレに入った。
教師達は、何か悩みがあってのことだと彼女に必死に尋ねた。
そして、彼女の答えは――、
『女子のトイレは長くて、空いてなかったから』
何ていう、馬鹿みたいな理由。
その言葉に対して、説教をできる大人達はいなかった(それどころか、男の教師達はふきだし、女性方は顔を赤くしたり、納得のいったという表情をしていた)。
そんな、こんなで、マリンのこのクセは未だに治らず、俺がその度に説教をしていた。
「まあまあ、それくらいにしとけって」
「……そうだな」
このヴァカには後で説教をしてやろう。
俺は優の言葉に頷いた。
「えーと、これが俺の友人の優。で、こちらが優の双子の妹のハルカ様。で、これが優の幼馴染のイタイ奴」
「なんか、オレの名前を間違ってないっスか?」
「で、えーと、こいつがと山川さんヴァカ」
「私の字も、なんか違うよー?」
2名ほどうるさいのがいるため、一応全員の名前を指差し確認。
「えーと、ヴァカと魔女と、女神様とイタイ奴」
「俺の名前は?」
「字が思いつかなかったから」
「ん?フツーに優しいって字だけど……」
優は俺の言葉に首をかしげているけど、気にしない。
とにかく、これでマリンは皆の名前を覚えただろう。
「ねえねえ、優ちゃん。普通に喋ってもいい?」
「え……ダ――」
「良いですよっ、楽にしてくださいっ!」
俺も一応ハルカ様とは仲良くなりたい。べ、別に、マリンの仲良し大作戦より、こっちの方が本命なんて言うことは……ない。ほ、本当だよ。
俺の言葉に対して「ありがとう、ムク君!」と笑顔で言ってくださったので、クラっとしました。めちゃくちゃ可愛かったです。
「じゃあ、遠慮なく――我のこの姿は所詮、仮の姿。古より受け継がれし本来の姿では、悪魔とかを使役出来るんだっ!よろしくねっ」
「……」
どうやら、俺の憧れのハルカ様も……うん。ちょっと、変わっていました。
マリンですらも、反応が遅れてしまうほどに。
ああ、視界が涙でぼやけて前が見えない。
「いや、コイツ、厨二病なんだよな……」
「……、ヒジリ1回俺を殴ってくれ」
「なんかもう、字とルビが逆じゃないっスか!?」
「じゃあもう、殺してくれ……」
「「死活問題!?」」
男子3人が友情を育んで(?)いると、マリンがハルカ様に笑顔で口を開いた。
「……かっこいい。かっこいいね、ハルカちゃんっ!」
目をキラキラさせながら、そう言ったマリン。
どうやら、反応が遅れたのはただ感動していただけらしい。
隣の優はそんな2人を見ながら、優しく目を細めていた。
少しかっこよかったよ、チクショウ。




