第三章 1年1組 みみちゃん先生! 〈Ⅱ〉
「なに、めでたしめでたしみたいにしてんだっ!マリン、お前は仮にもこの部の部長なんだぞ!なんで1時間も遅刻してんだよ!?」
「えへへへへへー」
「なんで、遅れたのか言え!笑って誤魔化すなあー!!」
「うるさい……」
さっきのほのぼのとしたムードはどこへ行ったのだろうか。
でも、これがいつもの俺らだけれど。
「けっ、ケンカはだめでしゅっ」
ぎゃーぎゃー騒いでいると、ドアが大きく開かれて、女子生徒が入ってきた。
「――って、みみちゃん先生!?」
「ケンカはだめですっ、みんな仲良くしましょうっ!」
生徒ではなく、先生だった。しかも担任。可愛い。
『宮本 美々子 24才。独身。身長156センチ。茶色のゆるふわボブに赤メガネのドジっ子。天然。
1年部、数学担当。
可愛い、小動物系。とにかく可愛い』
〈とある高校の美少女記録より〉
「えっと、なんでみみちゃん先生がここに?」
「「「この部の顧問だから?」」」
「はあっ!?」
初めて知った……。てか、え、はあっ!?
ちょ、ちょっと落ち着け、俺。
「はぁ、ひー、ふー。で、俺、初めて知ったんだけど?どうういうことだ、マリン」
「初めて言ったもん」
「――っ!!(落ち着け、俺……)じゃあ、山川さんはなんで?」
「……入部届を渡しに行ったから」
「へぇー。(落ち着くんだっ、俺!)なら、みみちゃん先生はいつからこの部の顧問に……?」
「え、えと、創部する前から……」
「……はぁ」
俺、仲間はずれみたいじゃん!副部長のはずなのにっ!
べ、別に寂しいとかそういうんじゃないけれど……。
「ごっ、ごめんなさいっ!わたしは佐藤君の担任でもあるのに……。早く言えば良かったですよね。てっきり、知ってると思ってて……本当にごめんなさい……」
そう言って、立ったまま俺に頭を下げるみみちゃん先生。
なんか、罪悪感が……。
「あーあ、ムク、泣かせたー!」
「……最低」
心が潰されそう。罪悪感という名の感情に……。
「みみちゃん先生っ、こっちこそ取り乱してごめんっ!もう、いーから!
ほら、座って。お菓子もあるしっ」
「はい、ありがとうございます……」
俺はみみちゃん先生をソファーの上に座らせて、パウンドケーキを差し出す。
最後の一個だったため、他の二人がなんか不満そうだったけど無視だ。無視。
「……ぐすっ。わたしなんて、先生失格ですよね……っ」
「い、いや、そんなことないから!」
「「最低……」」
いいから泣き止んでーっ、みみちゃん先生!女子からの視線がいてぇ……。
――5分後。
「ご、ごめんなさいっ!取り乱してしまって……」
「い、いえ、こちらこそ何だかスミマセンでした」
やっと泣き止んでくれた……。
良かった……。
「で、えっと、みみちゃん先生は何しにここへ?」
「あ、あぁっ、そうです!大事な話があるんです」
「「はい!」」
ピシっ。(俺とマリンが姿勢を正す音)
「このままだと……この部は廃部です」
「「……え?」」
みみちゃん先生、今なんて言った?
……いや、普通に分かる。この頃薄々と予想はしていたことだからだ。
「理由は――」
「活動をしていないこと」
俺はみみちゃん先生の言葉をさえぎって、答えた。
俺の言葉が正解だったのかみみちゃん先生はコクコクと頷いている。
今の部室の状態は……
・本気でショックを受けているヴァカ
・珍しくフードを外してから読書を再開した様子の山川さん
・真剣な顔のみみちゃん先生
で、俺は……、
「ちょっと、焼き加減足りなかったかな……?」
手作りのスイーツ(失敗作の方)を食べてたり、なかったり。
「真面目に考えてくださいっ!」
あ、みみちゃん先生が怒った。怒っても、可愛い。
それに、真面目にって言ったって――
「まず、この部の活動内容は?」
☆ ★ ☆
「あー、確か、そんなんだったな。お悩み解決みたいな」
「でも、活動してない……」
「それに、具体的な活動とか、解決方法を決めて今月中には提出しないといけないんですっ!」
「えー、みみちゃんっ!活動内容の欄には、なんかするって書いておいたよ?」
「いや、それじゃダメだろ」
俺は幼馴染の何も分かっていないような顔に溜息をつく。
まあ、とにかく、今日することは決まった。
「活動内容を決めよう」