表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後安心安全部、かつどーきろく!!  作者: 小鞠 明音
【4月 創部 。 いろいろあったな……】
13/37

第三章 1年1組 みみちゃん先生! 〈Ⅰ〉


「暇だ……」


創部して二週間。今日も誰も来ない。


今いる場所は『放課後安心安全部』の部室。

俺は部屋の中央にあるテーブルに突っ伏していた。

「ねみー」

てか、あのヴァカはどこに行ったのだろうか。部長のくせに。

俺は勢いよく立ち上がった。フカフカのソファーから。

「でも、なんもすることねぇなー」


立ち上がったのは、なんとなくである。



俺は、部室の中をとりあえずあさ――調べることにした。

結構、広い。てか、相当広い。俺の部屋よりも広い。

中央には大きなテーブル。そして、ソファーとイス。窓の近くには机もある。

「校長室っぽいなー」

そんなことをつぶやきながら壁をぺたぺたと触る。

どうせ、隠し扉とか無いだろーけど。


「え……?」


ぺたぺたと触り続けていると、壁のある部分の感触に違和感。よく見ると、ほとんど壁と同色の目立たないドアを見つけた。

ゆっくりと引いてみたり押してみると開かない。鍵がかかっているのだろう。

「もしかして、開かずの間とか……?」

だとしたら、めっちゃ楽しそう。俺だって男子。そーゆーのに憧れるのだ。


「ぜってー、開けるっ!」


俺はそう宣言して、ドアをに手をかけた。その瞬間――開いた。正確には横に扉がズレた。


どうやらスライド式だったらしい。


キョロキョロ。

「ふー」

周りには誰もいない。良かった。

この頃、黒歴史が増えてきているような気がするのは気のせいだろうか。泣きたい。


ゴクリ。


俺は改めてドアを開けた。めっちゃ簡単に開いたドアをなんだか殴りたくなった。


「失礼します……」

「……はい、こんにちは。山川さん」

「……何してるの?」

「アハハ……」


山川さんが来た。

山川さん、こんなに間のあいた会話は会話と呼ぶのでしょーか……?


「どこに続いているの……?」

「……?あぁ、このドア?多分、どっか」

ドアの向こうは暗く、何も見えなかった。

懐中電灯はここには無いため、中断しようと思う。


「これ以上、(黒歴史を)増やさないためにも――」

「は?」

「イエ、ナンデモアリマセン」


声に出ていたらしい。山川さんの俺を見る視線がどこか冷たく感じる。

それから山川さんは、俺に興味を失ったのか窓際の机で本を読み始めた。


俺もソファーに座って、本を読もう。


――10分後。

無言、静か。今、俺が読んでいるのは『羅生門』。


――またまた10分後。

無言、静か。今、読んでいるのは『山月記』。


――またまたさらに10分後。

無言、静か。今、読んでいるのは『人間失格』。


こんなにも読書が進んだのは初めてかもしれない。なんだか、虚しいけれど。


俺はバックから、タッパーを取り出した。中には、クッキーとパウンドケーキが入っている。


「……何、それ」

「えーと、お菓子」

「じゃなくて……どうしたの、それ?」

「作った」


俺の言葉に目が点になる山川さん。正確には山川さんの目は見えないから、点になっていると、思う。


「手作り……?」

「うん」

「あなたの……?」

「うん」


疑いの目で見ないでください。本当に朝から作りました。


今回のスイーツは、パウンドケーキとクッキー。でも、色々な種類を作った。

クッキーは、ドロップクッキーとアイスボックスクッキー。ハードクッキーにソフトクッキー。

パウンドケーキはプレーンにココア、

抹茶をそれぞれ2切れずつ。

もちろん、砂糖は少なめである。


「料理とか、するの……?」

「え?あ――」

「ムクはするよっ!」

「マリン!?」


俺のセリフを奪いやがった奴は、ソファーの上、つまり俺の隣に座った。

コイツは、堂々と当然のように登場して座っているが、部活開始からもう、1時間もたっている。


「美味しそー。いただき――あぅっ」

「ヴァカにはやらん。あ、山川さんどーぞお食べください」

「……うん」

「あっ、スミレちゃんばっかズルい!」

「だーかーら、お前にやる分はないっ」


俺はマリンとそんなやり取りを繰り返した。でも、視線はクッキーに手を伸ばす山川さんの方へ。


「そんなに見られると食べづらい」

「す、すみません……」

「ねえ」

「はいっ!」

「毒とか入ってない?」

「入ってませんよ!?もちろんっ」


どんだけ山川さんに信用されてないんだろーか、俺。

本当に泣きたい。

山川さんはそんな俺に視線さえも向けずにゆっくりと、本当にゆっくりと、一枚のクッキーを口に運んだ。


「どう、ですか……?」


俺は恐る恐る、山川さんに尋ねた。

普段は家族や……ヴァカぐらいにしか手作りなんて食べさせないから緊張する。

てか、バニラエッセンスちゃんと入れたっけ?大丈夫か?

もし、マズかったら……


『……不味い。何、これ……こんなもの私に食べさせたの……?……呪う』

『す、すみませんでしたあぁぁぁ!』


あ、有り得る……。怖い、呪われるっ!

俺は震えそうになる身体を抑えて、山川さんの顔をうかがう。


「……美味しい」


よ、良かったあぁぁ!!まじ、怖かった!

なんだか、泣きそう……!


「本当に良かっ――って、なんで俺叩かれてんの!?」

「なんか、悔しいから……?」

「理不尽!?」


俺は叫びながらも笑った。山川さんも俺を叩き続けていたけど、口元は笑っていて。

きっと、この変な部がなかったら、山川さんとこんなふうに笑い合えなかったと思う。


「マリン、これ食べていーぞ」


俺はマリンに――この部の部長にそう言って、クッキーを渡した。


「ムクっ、美味しい!いつもありがと」

「どーいたしまして」


そして、俺たちは笑った。さっきよりも、大きく、明るく。

3人で――。



「……って、おいっ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ