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「従姉弟同士は結婚できる」


 へぇ、としか言いようがない。婚姻できるか否かで、そう言っているなら、隣の席の望月くんとは、赤の他人だから結婚できるし、担任の先生は独身だから結婚できるし、校長先生は、バツイチだから結婚できる。いちいち例示していたら、きりがない。むしろ、わたしが本気で結婚できないのは、父と伯父と祖父くらいじゃないかと思う。

 どうして、みんな春紀とわたしをそんなにくっつけたがるのか、いい加減にしてほしい。面倒くさいから春紀を好きな女子には「春紀のこと好きなら協力してあげるよ」と言うことにしている。だけど、残念ながら希望はない。春紀は、千冬以外に興味がないから。

 わたしと春紀は、春紀の父とわたしの父が兄弟で、春紀の母とわたしの母が従姉妹という、通常より血が濃い従姉弟同士だ。

 家も隣町で、仲良くせざるをえない環境で育った。

 わたしは、甘ったれで、何もできないくせに負けん気だけは強くて、すぐに拗ねる春紀が大嫌いだった。半年しか年齢が違わないくせに、わたしの方がお姉さん扱いで、いろいろ我慢させられるのも気に入らなかった。男系家系である千賀家で、唯一、女の一人っ子であるわたしは「まどかちゃんと春紀君が逆に生まれて来てくれたら良かったのに」と言われることが腹立たしかった。勉強だって、運動だって、なんでもわたしの方が出来たのに、男というだけで、春紀が上みたいに言われるのが、許せなかった。

 わたしがいろいろ頑張るほど、勝手にしっかり者にされて、春紀の面倒を見るように言われることも、結局最後は、みんなが春紀のわがままをきくことも、何もかも嫌だった。わたしの味方はどこにもいなかった。いつか、春紀をぎゃふんと言わせたい、そんなことばかり考えていた。

 



 千冬に初めてあった時のことは、本当によく覚えている。千賀グループのバーベキュー大会だった。そういった集まりになると、わたしはいつも春紀の相手をさせられた。

 その日も「春紀君と遊んであげるのよ」と言われて、うんざりしていた。

 会場に到着したのは九時過ぎで、まだ、開場はしていなかった。 親が、準備を手伝うので、わたしは遊技コーナーに放り込まれることになった。そこに、春紀と千冬がいた。

 簡易なアスレチックが用意されていたけれど、春紀はポータブルゲームに夢中だった。千冬は、その後ろで、それを見ていた。春紀は、ゲームを千冬に貸してあげる様子もなく、千冬は退屈そうだった。


「アスレチックで一緒に遊ぼうよ」


 声をかけると千冬は、満面の笑みで「うん」と言い、春紀も来るように誘った。当然、来るわけなどない。わたしは、最初から誘う必要なんてないのに、と少し苛ついていた。 二人で滑り台で遊んだ後、今度はブランコに乗ることにした。すると、千冬は、また、春紀のところに行って「ブランコに乗ろう」と誘った。

 春紀が、来るわけないし、もう放っておけばいいのに、千冬は一回一回、違う遊びを始めるたびに、春紀を誘いに行った。わたしは、段々千冬が鬱陶しくなった。春紀にゲームも貸してもらえず、退屈しているだろうから、誘ってあげたのに、いちいち春紀の機嫌を取りに行く態度が、いい子ちゃんぶっていて気に入らなかった。

 時間が経つと、他の子供たちがやって来たので、わたしは千冬が春紀の元へ行っている間に、他の子達と遊び始めた。結果、千冬を除け者にする形になった。それから、千冬はまた春紀の側で、ゲームを見ているようだった。

 お昼になって、みんな自分の親の所へ戻った。わたしも、嫌な予感がするなと思いながら、母の元へ帰った。案の定、どうして春紀と遊んであげないのか、どうして春紀と千冬を除け者にするのかと怒られた。毎度のことなので、慣れっこだった。いつもの流れでいくと「春紀が来ないだけ」と反論し「あんたは、お姉さんなんだから、ちゃんと面倒みてあげなさい」となる。しかしながら、今回、千冬に関しては、わざと仲間外れにしたことは、否定できない。もう、これは怒られても仕方ないなと覚悟していた。ただ、流石に「仲間外れにしましたけど、何か?」とは言えないから、どう答えていいかわからず、黙っていた。

 すると、千冬がにこにこしながら言った。


「まどかちゃんと一緒に遊んでたんだけど、疲れたから休憩して、ハル君とゲームしていただけだよ」


 わたしは、びっくりして、千冬を見た。完全に悪意があったし、それに気づかないわけもない。なのに、千冬が、何故わたしを庇うのか、意味がわからなかった。頭がおかしいのか、よほど鈍いのか、一体どういうつもりなのか、逆に腹が立ってきた。いい子ちゃんアピールのつもりかと思った。本当のことがばれたら余計にわたしが怒られてしまうじゃないの、と冷や冷やしていた。


「まどか、そうだったの? ごめんね」


 母が、珍しく謝ってきた。いつもいつもわたしは悪くなんかない。だけど、今日は悪い。


「うん、まどかちゃんごめんね」


 千冬も、母と同じように、わたしに謝った。自分のせいでわたしが母に怒られたと思ったのだろう。わたしは、自分がとんでもないことをしてしまったと感じていた。千冬は何も悪くない。謝らないといけないのは、わたしなのに、言えなかった。

 わたしが黙ったままでいると、千冬の父が、千冬を連れに来た。ご飯を食べたら、今度はちゃんと一緒に遊びたかったけど、千冬は、たぶんもうわたしを嫌っているだろうなと思って、声がかけられなかった。

 謝りたいのと一緒に遊びたいことを伝えられなくて、泣きたい気持ちだった。


「まどかちゃん、また、後で遊ぼうね!」


 父親に手を取られて、千冬は、ご機嫌の笑顔で言った。わたしは、もう頭が真っ白だった。なんでこの子は、わたしがして欲しいことを、してくれるのだろう。同じ年なのに、こんな子がいるのだと思った。


「うん! ごめんね、千冬ちゃん。待ってるね」


 わたしが、やっとの思いでそういうと、千冬は、きょとんとして、すぐに笑顔で手を振った。

 わたしは、それまで、悪くなくても怒られるという理不尽な扱いを受けてきた。自分ばっかり我慢して、春紀の面倒をみさされていると思っていた。それが、千冬に酷い仕打ちをしたにもかかわらず、逆に庇ってもらって、変な話だけど、報われた気がしていた。情けは人の為ならずの情けが、見事に帰ってきたと思った。反省より、感動していた。もう、千冬が大好きになってしまっていた。




 春紀が、千冬を好きだとは、思っていなかった。

 小さい頃は、千冬を邪険にして、避けまくっていたけど(好きな子を苛めたいレベルではなかった)年が上がるにつれ、あまり関わらなくなった。千冬は、毎朝一緒に登校していたから、しかたなく話す程度のことで、苛められない代わりに、仲良くもない感じだった。

 春紀が、千冬を好きだとわかったのは、中二の夏休み前だった。春紀のことが好きだと言う女の子がいて、告白するからと橋渡しを頼まれた。一つ年下の女の子で、美人で自信満々という感じだった。

 大概わたしにそういうお願いをする子は、友達とこっそり来て「誰にも言わないで」という風なのに、その子は一人で来て、わたしと千冬が話しているのに、堂々と、春紀に告白するから協力してくれ、といった。

「最近の若者は、メンタル強いなぁ」というのが、千冬の感想だったけど、わたしは、可愛くない子だなと思っていた。

 放課後の教室だった。下校時刻で、春紀は駐車場にいるだろう。わたしはそのまま図書室に本を返しに行って、もう春紀に会う予定はないから、明日の昼休みになるよと告げると、その子は「明日の昼休みに告白したい」と言う。


「あなたの予定に合わせる気はないし、嫌なら他をあたって」


 誰が聞いたって、これが正しい対処だろう。人に物を頼んでおいて、何様のつもりだ。わたしは、もうすっかりその子の頼みを聞いてあげる気はなくなっていた。


「まぁ、まぁ、わたしでよかったら、代わりに言ってあげるよ? 明日のお昼休みにどこに行くように言ったらいいの?」


 千冬が、苦笑いな感じで間に入った。こんな子の頼みなんてきいてあげることはないのに、千冬はどうも判官贔屓なところがある。


「そうですか! 有難うございます。じゃあ、これ渡してください」


 その子は、多分、指定場所を書いているだろう手紙を差し出した。


「はいはい」


 千冬はにこにこして受け取っている。人がいい。春紀とこの子が付き合ったら、嫌なカップルになりそうだなと思った。

 千冬とはそこで別れて、わたしは図書室へ向かった。 借りていた本を返して、次に借りるものを物色していたら、千冬が血相を変えて、図書室に入って来たので驚いた。みんなの視線が集まるほど、ざわざわとした空気を纏っている。わたしと目が合うと、少しほっとしたようで、すいませんすいませんと頭を下げながら、こっちへ近づいた来た。


「どうしたの?」

「ハル君がすっごい怒って、帰っちゃった。どうしよう?」

「は?」


 要領を得ないので、取り敢えず廊下に出た。千冬が慌てふためくなんて、稀だ。大体、人とうまくやるし、揉め事に巻き込まれるようなタイプじゃない。


「なんで、春紀が怒るの? 帰ったって、ちぃのおじさんと? ちぃを置いて?」


 経緯を聞くと、春紀に手紙を渡したら、めちゃくちゃ怒りまくって「二度とこんなことするな」と言い、手紙を突き返したあげく、バスで帰るからと言い残して行ってしまったという。


「ハル君、女嫌いだから、怒ったのかな? どうしよう。あの子になんて言おう?」


 千冬は、気の毒なくらい狼狽していた。優しい気持ちでしたことなのに、千冬が気に病むことなどない。これは、春紀の問題だ。わたしが、手紙を渡す時は何も言わないのに、千冬だから癇癪をおこしても平気だとか思ったに違いない。なんのスイッチが入ったか知らないけど、千冬に当たるのはお門違い甚だしい。


「わかった。春紀、バスに乗りに行ったんだね? 時間的に、まだいるでしょ。行ってくる」


 千冬は一緒に来ると言ったけど、千冬がいると春紀に手厳しいことを言いづらいので、後で電話するからと、先に帰るように告げた。




 バス停には、春紀しかいなかった。四時を少し回ったところで、バスが発車した直後だった。三〇分間隔で走行しているから、次が来るまで時間がある。


「ちょっと、あんたどういうつもり? なんでちぃに怒りまくるの。この手紙の子と、なんか因縁でもあるの?」


 ベンチに座っている春紀に背後から声をかけると、一瞬だけ首をこちらに回して、また前を向いた。


「ちょっと、聞いてるの?」

「そんな子知らないよ」


 春紀は、酷く沈んだ声で答えた。千冬が言っていた、怒りまくっている感じではない。


「何て、言ってた?」

「明日どうしても告白したいんだって。結構自信満々な子だった、美人だけど、性格はどうかな。一つ年下」


 わたしが答えると、春紀は振り向きながら立ち上がった。


「千冬だよ!」

「は?」


 春紀は右手で右の目頭を押さえて「最悪だ、また嫌われた」とこの世の終わりみたいな声で言った。


「あんたって、まさか、ちぃのこと好きなの? だから怒りまくったの? そりゃ、最悪だわ」


 わたしが言うと、春紀は目を開けて「千冬、どんな感じだった?」と、もうそれしか頭にない様子で聞いてきた。千冬は、明日春紀が告白場所に行かなかったらどうしよう、ということを懸念しているだけで、春紀のことは特にどうとも思っていない。両者の温度差が凄過ぎて、流石に言えない。


「あんたさぁ、ちぃのことが好きなら、そういう態度とったら? もっとこう、優しくするとか、好きアピールするとか」

「嫌いな人間に好かれたって気持ち悪いだけだろ。だからこれ以上嫌われないようにしてきたのに、今日ので終わりだ」


 嫌われている自覚があるのか。結構やるせないな。昔のことを考えればそうかもしれないけど、千冬はそこまで春紀を嫌っていない。好きじゃないだけだ。


「完全に嫌われた」


 春紀は、ほとんど泣いている感じだった。泣くほど好きとは思わなかった。


「別に、ちぃは許容範囲広いから、これくらいのことでどうも思わないよ。それこそ今更じゃない? それより、明日この告白場所に行かなかったら、ちぃが困るよ、ほら」


 手紙を差し出すと、素直に受け取った。いつか春紀をぎゃふんと言わせてやりたいと思っていたけれど、衝撃的すぎる。気の毒すぎて、そんな気分じゃなくなった。参ったな。千冬になんて言おう。言ったら、同情して付き合ってしまうかもしれない。特に、春紀のわがままを飲み込んでしまうところがあるから、まずい。千冬は春紀を微塵も好きではないから、もう見なかったことにしよう。


「従姉弟のよしみで言ってあげるけど、ちぃは別にあんたのこと、好きでも嫌いでもないよ。わたしは、邪魔する気もないけど、協力する気もないから、あんたがちぃを好きなことは伏せとくわ」


 わたしがそういうと、春紀は、本当に嫌われてないかしつこく聞いてきた。千冬に早く、いい彼氏が出来ればいいのにと思った。




 うちの高校は、半年に一回バザーを開く。

 大体、保護者から寄付を集い、後は、手芸部や料理部が手作りの品を販売する。生徒が個人で出店を希望することも可能なので、参加してみることにした。ビーズアクセサリー作りにはまっていて、腕試しに出店してみるのも面白いと思った。

 急な参加だったため、一三点の作品しか出来なかった。千冬に遊びに来るように誘ったけど、古巣の学校に来るのは、憚られるらしく、代わりにクッキング部で大量に作ったというクッキーをくれた。

「おまけに付けてあげて、検討を祈る」だそうだ。  その日は朝から雨で、集客が悪かった。

 体育館に、長机を並べて、それぞれの店を出す。値段の付け方に悩んだけど、作業時間とコストを鑑みて七〇〇円から一四〇〇円までの値札を付けた。

 一番最初のお客さんは小学生の女の子で、パンダのキーホルダーを欲しがってくれたけれど、母親に一〇〇〇円は高いと言われて購入して貰えなかった。結構な手間をかけて作ったものだったけど、そういう評価なのか、世間は甘くない。

 二人目のお客さんは女子大生の二人連れで「これ、あなたが作ったの? 器用ね」なんて誉めてくれて七〇〇円の蝶のストラップを、お揃いで買ってくれた。  それから、しばらく空振りが続いた。お昼前になると雨も上がったようで、混雑してきた。「お姉ちゃん! 二つ買うから一〇〇〇円にまけてよ」という押しの強いおばさんに、気迫でまけて言い値で売ってしまったり(クッキーは渡さなかった)友達が六人来てくれたので「タイムサービス」と一律五〇〇円で売ってみたりと、気ままな商売を続けた。

 昼食代わりに、おばさんにあげなかった千冬のクッキーを食べて、一時を過ぎ、残り三点の時点で、もう閉店を考えていた。 机に肘をついて、ぼんやり入口の方を眺めていると、春紀が、面倒くさそうにやって来るのが見えた。


「おばさんが、帰りにうちに寄るから、一緒に来るかって」


 用件のみ淡々と告げる。母と陽子おぼさんは保護者会の役員をしていて、バザーにはいつも参加する。春紀は、手伝いに連行されて、わたしの様子を見て来るように言われたのだろう。マザコンだから。


「何時頃行くの?」

「片付け終わってからだから、四時くらい?」


 だとしたら、それまで暇だし、もう少しお店を開けておくことにしようかと思った。机の上のストラップ三点に目を向ける。後半はほぼ投げ売りだったけど、折角、初出店したのだし、完売した方が達成感があるだろう。朝の女の子がもう一度来てくれたら、かなりおまけしてあげるのだけど。


「あんた、一個どう? 従姉弟のよしみで、どれでも五〇〇円」

「え、いいよ。オレがそんなの買って、どうするんだよ」


 全くその通りなのだけど、いい方が可愛くない。春紀は、千冬がいるときは、庇って欲しいから、わたしに逆らわないくせに、いないところでは、結構、横柄な態度になる。


「あっそう。せっかくおまけに、千冬ちゃんの作ったクッキーが付いてくるというのに」


 正確には、作るのを手伝ったと言うべきなのだろう。いつもの千冬のボロボロしたクッキーとは、別物だった。あれは、あれで千冬っぽくていいのだけど。


「は? 何それ? なんで? そんなことさせてんの?」

「クッキング部で作ったのをくれたの。させてるとか、あんたに言われる筋合いないんだけど」

「そんなもん売るなよ」


 こいつ、ちょっと発想が気持ち悪い。千冬のなんだというのか。ただの片思いのくせに。


「もう、行きなさいよ。商売の邪魔だわ」

「いいよ。わかったよ。買うよ」


 春紀はそう言って、ズボンのポケットから財布を出した。馬鹿なんじゃないかと思ったけど、机の上に一五〇〇円を置いたので、馬鹿なんだなと理解した。


「あんた三つも買って、どうすんの。絶対捨てるでしょ。絶対売らないから」

「流石に、捨てないだろ」


 折角作った作品を、使ってもらえないのは本気で嫌だったから、真剣に拒否する。春紀の方も引き下がらないので「もうクッキーはあげるから帰れ」と言いかけたところで、彩歌ちゃんが、数メートル離れた位置からわたしの名を呼んだ。

 三日前に、佐木さんに「今回のバザーは、わたしも出店するからよかったら、彩歌ちゃんと来てね」とは言ったけど、メールも電話もなかったし、まさか来てくれるとは思わなかった。

 手を振りながら近づいて来る。


「友達と一緒に来たの。薫ちゃんでーす」


 後ろの女の子が、軽く会釈をした。


「わざわざ来てくれたの? 有難う」

「ううん。ちょうど、遊ぶ約束してたから」


 安定の感じの良さだ。去年のバーベキュー大会で知り合って、二回ほど、遊びに行った。しゃべるときいつも笑顔で、ふんわりしている。


「千賀君もお久しぶりです。一年ぶりくらいですかね」

「そうですね。どうも」


 家の家政婦さんの娘さん相手だ、春紀としては、これで充分愛想よくしているつもりなのだろう。


「まどかちゃんのビーズのお店ってここなの?」


 机の上にはストラップ三個と一五〇〇円とクッキーが無造作に置かれていた。返事をするのが、憚られる。


「そうです。よかったらそのストラップどうぞ」


 春紀は言いながら、わたしを見て、両肩を少しあげた。癪にさわる。


「えーかわいい。猫とクマとニワトリ? いくらですか?」

「お金はもう、この人が払ってるからいいの」


 クッキーを袋に詰めて春紀に渡す。勝ち誇って笑うのが、忌々しい。


「え? じゃあ、千賀君のじゃないの?」

「いえいえ。佐木さんと、友達と、あと誰かにあげてください」


 彩歌ちゃんが困惑するのを全く気にもとめず、春紀は、それだけ言うとすたすた去って行った。二人に三つのストラップをあげるという歪な事態であったけど、代金が決済されている手前、わたしが持っているわけにもいかないので、二つを彩歌ちゃんにもって帰ってもらった。





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