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 高橋さんからメールが来たのは、次の日の夜だった。今度一緒に遊園地に行こうという。

 わたしは遊園地が嫌いだ。絶叫マシンが駄目だし、立ちっぱなしで並び続けるのも疲れるし、アクティブな人たちが集まった雰囲気も苦手だ。

 大体、高橋さんと会うこと自体微妙なのに、何が悲しくてそんなところへ行かなければならないのか。

 やんわりした断りのメールを送ると瞬時に「大丈夫。入場券は沢山あるから、気にしないで」と意志疎通の全くとれない返信がきた。来週の日曜日の十時に現地集合だという。

 わたしの予定は無視かと思えば「千賀君には了承済み」という一文があったので、割と抜け目がない。来週は第三日曜日だった。高橋さんはカレーの日のことを知っていて、春紀にわたしを譲る交渉をしたということなのだろう。どの道わたしの意志は、そこにないわけだ。春紀も春紀だ。何を押し負けているのか、強気で責めろ。高橋さん相手では、無理だろうけれど。




 雨が降ることを期待したけれど、夏も夏。炎天下で、朝からすでにばてそうだった。指定されたのは梅前遊園地だ。地元に昔からある素朴な遊園地で、これといった有名なアトラクションがあるわけじゃない。ヒーローショーやアニメとのコラボ企画を売りにしていて、子供向けの印象を受ける。夏休みだし、家族連ればっかりじゃないかと思う。そんなところに女子高生二人が訪れて楽しいのか謎だ。

 高橋さんが絶叫マシンばかり乗るタイプだったら困るから、どんなアトラクションがあるか事前にチェックしたけれど、フリーフォールだけは避けたい。

 九時前に家を出た。電車で向かう。二度乗り換えなければならない。一駅前の車窓から、観覧車が見えた。あまり大きくない。

 昔、父と来たときは、ヒーローショーがメインだった。最寄り駅に着いて、改札を出るとすぐに園のゲートがある。開場七分前だったけど、すでに複数の家族連れと若い男女のグループが集まっている。高橋さんの姿はなかった。門の前にいることをメールするけれど、返信はない。約束の時間前だからいいのだけれど、人を待っている時間というのは長く感じる。スマホを持つようになって、時間つぶしに困らないので、助かる。待たせる人と、待つ人が、これでどんどん助長していったら問題だ。


「おはよう」


 スマホの画面で、梅前遊園地の構内地図を見ていると、高橋さんが後ろから声をかけてきた。私服姿を初めて見た。(この間は、服装どころじゃなかったから)白いデニムのショートパンツに淡いピンクのトップスと、スニーカーを合わせている。女子力高め。変な人としか思っていなかったけど、まともに見ると結構かわいい。ジーパンにTシャツとリュック姿のわたしに言われたくないだろう。


「みんな、もう来てるみたいね」

「え?」


 わたしの反応にはおかまいなしに、高橋さんは園の前でたむろっている男女のグループの一つに近づこうとする。


「二人じゃないの?」

「物理同好会の集まりだよ」


 不思議な顔で返してくるから、驚く。全く聞いてないし、物理同好会って何なのだ。


「絶叫マシンの仕組みを物理的に解き明かすという名目のただの遊園地好きの集まりだよ」


 帰りたい気持ちがマックスになった。ぐいぐい集団に突き進んでいる高橋さんに向けて言う。


「それって、学校の部活なんじゃないの? わたし来ていいの?」

「いいに決まってるじゃない。遊園地が好きなら誰でも大歓迎だよ」


 残念ながら、遊園地は嫌いなのだ。今更そんなこと口に出来ない状況になってしまった。高橋さんはわたしを連れて集団に入っていき「友達の渡千冬ちゃん、よろしくね」と軽い挨拶をした。物理同好会の面々は、それに対して同じように「どうもどうも、よろしく」と口々に返答した。熱烈に歓迎もされなければ、拒絶もされない様子で、わたしもただ笑って「どうも」と言っただけだ。

 女子が六人男子が三人で知った顔はいなかった。高橋さんが、女子のうち二人に初めましてと挨拶したので、彼女達も同好会の人間ではないようだ。どういうつもりで、この集まりにわたしを呼んだのか全く意図がわからなった。一つ言えるなら、無料券が余っていたということだろうか。株主優待券らしいけど、流石のセレブ校だ。

 開場とともに中に入ると、誰も何も言わないのに同じ方向に歩いていく。どこに行くつもりか聞くとジェットコースターだという。ここのコースターは木製で、全国でも珍しいらしい。無理だ。このコミュニティとの関わりなんて今後ないし、高橋さんがどう思われても知らないし、帰ってしまいたかった。流石に大人げないので、下で見ているからみんなで乗って来てもらおう。集団の少し後ろを歩いていた高橋さんにこっそり告げようとしたら、いきなりスマホで通話を始めてしまった。遅れている参加者に早く来るように叱咤している内容だった。

 わたしの来た意味って何なのか本当にわからない。森沢さんと福山さんと名乗る女子が、さっきから話かけてくれているのだけれど、どこの絶叫マシンが好きかという話題なので返答に困ってしまった。

 木製コースターは園の中央部にあった。列は出来ていたが、二十分も待たずして乗れそうだ。和気合い合いとした雰囲気で順番待ちをしているのに、一人不参加とは言いだしにくかった。乗って乗れないことはないし、記念に乗ろう。人生最後のジェットコースーターと思えば、尊い経験だ。コースを目で追ったところ一回転はしなさそうだ。木製だからガタガタ揺れるのが醍醐味らしい。もう腹を決めた。もはや、早く乗ってしまいたかった。誰の言葉にも終始苦笑いでその時を待つ。わたしのことを誰もよく知らないので、こんな感じの子なのだろうと思われているのは、都合がよかった。


「武ちゃんこっち!」


 高橋さんが後ろを向いて大きく手を振った。他の女子達が、ざわざわしたので、つられて振り向く。二人組の男の子の一人が高橋さんに手を振っている。パンケーキの店で会った高橋さんの彼氏だ。彼が、武ちゃんであることは、明白だ。その後ろにいたのが春紀だったから。まさかとは思ったけど、近づいてくるほど見慣れた顔で、間違いようもない。こっちも驚いているが、春紀も相当びっくりした様子で、露骨に顔をしかめている。


「遅いから、来ないかと思ったよ」


 列の前にいた女子の一人が言うと「春紀が寝坊したんだ」と高橋さんの彼氏がおかしそうに笑った。春紀はそれに反応せずに黙ったままこちらを見ている。


「オレら後ろに並ぶわ」


 武ちゃんが言うと、他の女子たちが「みんなで並び直そう」と言い始めた。男子三人は面倒くさい感じで、反発している。また最初からドキドキするのは嫌なので、わたしは全力で男子三人に心の中で声援を送るけれど、多勢に無勢で負けそうだ。男子はそのまま並んで、女子は並び直す方向で話が決まりかけたとき、春紀がわたしの手を掴んだ。ジェットコースターが嫌すぎて、ふわふわしていたので、ひっぱられると軽い感じで足が動いて、列の外に摘み出された。


「青葉そこ入れよ。オレら下にいるから」


 春紀がわたしのいた場所を指して、青葉くん(武ちゃん)に告げた。幸運が突然舞い降りた。これでジェットコースターに乗らずに済む。よかったと安堵していて、周りの様子にまで気がまわらなかった。一瞬空気が止まって、いろんなところに疑問符が飛んでいた。


「千賀くん、乗らないの? これに乗りたかったんじゃないの?」


 森沢さんが、腑に落ちない顔で言った。


「渡さんも、折角並んでいたのに」


 福山さんが、わたしの顔をみて問いかけてくるので、今更実は乗りたくなかったとも言えず、返答に困った。


「いや、いいよ。この人もジェットコースター乗らないし」


 春紀が淡々と答えて、わたしに合図をするので「あ、はい」と同意する。安定の空気を読まない感じに、賞賛してしまう。女子のざわつく声が聞こえたけれど、意味ある言葉として耳に届く前に、その場を離れたので、その後どういう状況になったかは不明だ。




 ジェットコースターが見える位置の日陰のベンチに座る。聞きたいことがあるのはお互い様だろう。炎天下に遊園地で何もせずただぼんやり座っていること自体、異常事態だ。


「何やってんの? 女子会するんじゃなかったの?」


 春紀が不機嫌に言う。


「女子会? いやわたしは高橋さんと二人で遊ぶのだと、来るまで思ってたんだけど」


 何かいろいろ誤解があるな。高橋さん、流石だ。春紀は物理同好会なのだろうか。春紀が絶叫マシンを好きだなんて知らない。木製コースターに乗りたがっていたことも知らないし、それを森沢さんに言っていることも知らない。


「ふうん。まぁ、別にいいけど」

「木製コースター乗りたいんじゃなかったの?」 「そっちこそ、ジェットコースターなんて乗らないくせに、何しれっと並んでるの?」


 春紀は、わたしがジェットコースターを苦手だと知っているのに、わたしは、どうして、春紀がジェットコースターに乗りたがっていたことを知らないのだ。申し訳ない気になる。


「絶叫マシン好きなの?」

「え? あぁ、まぁ」


 春紀が、ごにょごにょ言う。隠す必要性なんてないのに、悪戯がバレた男の子みたいだった。


「なんか意外。知らなかった」


 わざとらしいくらい、明るい声で言ってしまった。そうしないと気持ちがどんどん暗く流されそうだった。


「知る気あったの?」


 春紀が、嫌なくらい耳に届く暗転の言葉を放った。知る気のあるなしよりも、そんなことを考えたことがなかったというのが、正確な答えだ。だって、わたしは春紀をどちらかというと嫌っていた。春紀が何を好きかなんて、興味がなかった。

 隣に座る春紀の顔を見る。斜め前の地面を伏し目がちに見つめていたのに、わたしの視線に気付いてこっちを向いた。真横に座って、目が合っている。その距離は近い。春紀は、目が弱いのか、いつも少し潤んでいて、ゆらゆらしている。白目がちで、黒目の色素が薄くて茶色い。この顔は、好きだ。単純に顔が、物凄く好みなのだ。顔が好きなだけなのだ。身長ばっかり伸びて、顔ばっかり凛々しくなって、格好ばっかりよくなって、それだけ。後は昔のまま、女嫌いで、自己中心的で、気に入らないとすぐに拗ねる、手におえない子供のまま、何も変わっていないと思っていた。あの最悪の性格のままなのだと。でも、わたしの知らない物理同好会の春紀は、そうではないのかもしれない。もうすっかり変わっているけれど、わたしの色眼鏡では、それが見えてこないだけなのかもしれない。


「あるよ。あるある」

「軽い」


 春紀は目を細めた。笑ったようで、笑ってはいなかった。




 みんながジェットコースターを降りてくると、一端解散になった。いつもそうらしいのだが、最初と最後に集まって絶叫マシンに乗り、お昼ご飯を一緒に食べる以外は、それぞれ別行動らしい。自由すぎる。

 多分、男子三人と森沢さんと福山さんは、物理同好会で、他の女子は違う。途中から気づいたのだけど、由夏ちゃんという女の子は、春紀を好きだ。この女子四人は、春紀が来るから参加したのだと思った。嫌な展開になった。高橋さんは、由夏ちゃんのことに気づいていないのだろうか。春紀は、どうするのだろう。物理同好会の人達は、早々に何処かへ行ってしまった。さっきから、春紀と青葉君と高橋さんが話をして、わたしが微妙に女子四人と話しつつ、高橋さんとも話す位置にいる。どうして、最も部外者のわたしがこんな橋渡し的な役目をしなければならないのだ。ヒーローショーを見てくるから、みんなで回って来てといえば、一人になれるだろうか。高橋さんとか意外に戦隊物を好きそうなので危険だ。

 スーパーバイキングに乗ろうというので、黙って従う。海賊船がブランコみたいに左右に揺れる乗り物らしい。よくわからないけれど、見た感じ大丈夫そうだ。


「これ、見た目より怖いよ。多分酔うし、止めたら?」


 春紀が、親切のつもりだろうけれど、出鼻をくじくようなことを言う。そんなこと言われたら、たじろぐけれど、一人で見学もないだろう。春紀の言葉に、由夏ちゃんと藍華ちゃんが、リタイアを申し出た。わたしも一緒に行きたかったけれど、三人で待っていたら、絶対に春紀のこと聞かれるだろう。それもそれで嫌なので、バイキングを選ぶ。春紀がしつこく乗らないように忠告してくるのが、苛ついた。根本的な原因は全て春紀にある気がしていた。




  申し訳ないくらい、春紀の忠告は的確だった。怖いより何より、本気で酔った。みんなに心配かけないように、平気に振る舞ってみるが、隠しきれないほど酷い。暑いし、目眩がする。


「渡さんって、もしかして遊園地好きじゃなかった?」


 高橋さんが、わたしの手を引いて階段を下りてくれた。今更聞くのかとは思ったけれど、隠していたわたしが悪い。


「いや、そんなことないんだけど、今日は、ちょっと日が悪いというか。ちょっと休んどくから、みんなで回ってきてよ」


 とにかく、涼しいところで一人になりたい。十一時を少し過ぎたところなので、後一時間すればお昼だ。

「それまでには治しておくので、いってらっしゃい」とできるかぎり平気そうに告げてみる。本当に一人で大丈夫なのだけれど、こういう場合、逆の立場なら、こんなふらふらした人間を放って遊ぶとか無理だろう。最悪の展開だ。高橋さんが一緒に付いてきてくれるというので、大人しく甘える。


「いいよ、高橋は、みんなと回ってきてくれて。フードコートで休んでいるから、昼になったら来てよ」


 春紀が、高橋さんとは逆の方向からわたしの肘を掴んで言った。春紀の言葉に高橋さんは、あっさり同調した。わたしとしても、高橋さんに来てもらうより春紀が来てくれた方が楽なのだけれど、なんか見放されたようで悲しい。由夏ちゃんと藍華ちゃんも休みたいというので、四人でフードコートへ向かうことになった。今の状況は自分のせいだけど、今日は本当に日が悪いと思う。




 フードコートは、まだ人もまばらで、四人掛けのテーブルにとりあえず陣どった。春紀と由夏ちゃんが飲み物を買いに行ってくれたので、テーブルに突っ伏して待つ。


「渡さん大丈夫?」


 藍華ちゃんが、ハンカチを濡らして来ようかとか、空調のあたり具合を気にしてくれる。みんなとても優しい。骨身にしみる。起き上がって首を回し、肩甲骨を合わせるように腕を後ろに引く。


「なんか、大分ましになってきた。ごめんね」

「ううん。よかった」


 藍華ちゃんは、綺麗目な感じで、由夏ちゃんは可愛い感じだ。わたしの基準は、まどかなので、それに勝る女子は未だに現れない。だから、変な話、顔面偏差値で、春紀が誰かに靡くとは思ったことがない。


「渡さんと千賀君は幼馴染なんだよね?」

「うん」

「彼女とかではないよね?」


 やっぱりそういう話になる。しかも、この問いかけだ。先日の女子会の帰り道を思い出した。

 パンケーキの店を出て直後、木部ちゃんが春紀を「格好いい。格好いい」と絶賛し、まどかの彼氏なのかという質問に及んだ。当然、まどかは全否定した。(木部ちゃん相手だから、そんな嫌な態度ではなかったけど、これが単なる春紀のファンみたいな子だったら、かなり辛辣になる)すると、彩歌ちゃんが、相当びっくりした反応を示した。


「本当にない。全くないから。なんでそんな風に思うのかな。なんか誤解生じさせることあった?」


 まどかが心底わからない顔で尋ねた。


「だって、千賀君、まどかちゃんのストラップ、売れ残らないように買ったりとかしてるから」


 それは、まどかと春紀の力関係によるものだ、と二歩後ろを歩いていたわたしは思ったけれど、そんなこと言えるはずがない。まどかも同じだったらしく「まぁ、それはあれ、従姉弟のよしみなだけよ」と言葉を濁していた。その後も、春紀の片思い説が浮上して、なかなか誤解が解けなかった。二人はそれほどお似合いということなのだ。一方で、わたしと春紀も幼馴染で昔からの知り合いだというのに、まどかのような疑惑をもたれることは全くなかった。いつもの展開だなと冷静に思っていた。春紀の恋愛絡みの話しでわたしにくる疑問というのは、いつも大体「まさかと思うけど、渡さんではないよね?」なのだ。まどかと付き合っていないなら「一応聞いてみるけど渡さんじゃないよね?」という感じだ。見た目とスペック的にしかたないのだけれど、悲しくなる。望んでないことでも、つれない態度をとられると寂しくなってしまうのが、わたしの理不尽な癖だ。


「彼女だよ」


 そう言ったら藍華ちゃんは、どういう反応を示すだろう。ここは春紀のコミュニティなので、彼女らしく振舞った方がいいのかなと思う。(女子会では、春紀は関係ないから、彼女のふりをする必要はなかった)でも、本人が言うのとわたしが言うのとでは意味合いが違う。そして、何よりとても言い辛い。言えない。


「千賀君って、彼女いるの?」


 ベストな回答だ。自分を賞賛する。これで、この会話は終了するはずだ。わたしと春紀は釣り合いがとれていないので、知らぬ存ぜぬで通せば、その程度の関わり合いなのだと、みんなすぐに納得するのだ。


「いるけど? 知らなかったとは驚き」


  春紀の声が頭上から降ってきた。後ろから来るとは反則だ。タイミングが悪い。もう少し早く来るか、遅く来るかしてくれれば、よかった。春紀の冷たい目線が注がれている。一体どの部分から聞いていたのか知らないが、彼女になると言っておいて、それはないだろうと思ったに違いない。自分とわたしを比較して、わたしの言動を汲み取ってほしいのだけれど、そこまで春紀に求めるのは無理だ。今日は凄くお世話になっているのに、恩を仇で返したようなものだ。ひたすらに気まずい。

 春紀は、お茶のペットボトルを一本わたしの前に置いて、隣に座った。酔いとは別に胃がきりきりする。由夏ちゃんが、藍華ちゃんにカルピスソーダを渡してその隣に座る。藍華ちゃんが幾らか聞くと、由夏ちゃんが「千賀君が出してくれたから」と答えた。


「いいの? 有難う」

「いいえ」


 わたしも同じように「有難う」と言ったら、無言のまま刺すような視線が返った。さっきのことが、気に入らないのだ。


「千賀君ってやっぱり、彼女いるんだね」


 由夏ちゃんが話を蒸し返す。由夏ちゃんは春紀を好きなのに、そんなこと聞いて平気なのだろうか。わたしだったら、もう何も知りたくない。辛いし、嫌だ。凄く嫌だ。こんな誰の得にもならないような話題は、止めた方がいいのに。


「どんな彼女なの?」


 めちゃくちゃ切り込む。春紀に対して、恋愛話は結構、御法度だ。彼女がいるのかなんて、家族につっこまれたら、不機嫌になること必須だ。


「どんなって言われても」


 春紀が意外に普通に答える。心配して損した。春紀って、自分のコミュニティではちゃんとやっているのだ。


「千賀君の彼女なら、美人そう」


 由夏ちゃんが、明るく笑う。春紀は由夏ちゃんの気持ちに気づいているから、彼女がいるとわざわざ言っているのだろうか。だけど、それが非道だとも言えない。酔いは治まったはずなのに、気が遠くなる。人を好きになることって、ろくなことがない気がした。



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