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時賭  作者: ちょろかな
1/5

任命式の朝

彼は柔らかなベッドの上で目を覚ました。慎ましい生活を送っている彼にとって、このベッドは数少ない高価な物だった。彼の名前は国崎真司、この国の近衛隊の隊長だ。齢は29、黒髪に黒い目、背丈は170㎝ほどだ。両親ともこの国の生まれだったのだから当たり前だが。

彼はその屈強な胸に息を吸い込み、ふっと吐き出した。

『やってやる』

彼が気合いを入れ直したのは他でもない。今日が彼にとってとても大事な日だったからだ。

任命式典、この国"出雲"にとっても大事な日だ。なぜなら、試練の旅に出る時賭を決める式典なのだから。5年に1度、試練の時は訪れる。試練とは、神々が10の国にある秘境を1つずつ選び、時賭と巡礼者がそれらにある破片を集める工程のことだ。この順位によって神々から国々に豊穣が与えられる。1位の国は豊作、豊漁、天才の誕生などの幸運に恵まれ、最下位の国は存続するのにギリギリの物しか与えられず、ケダモノや怪物の出現など凶事に見舞われる。幸い、この出雲の国は、前回3位だった。立派な順位である。

前回の時賭は7つ目の試練まで到達した。試練において、最後まで完走したものはほとんどいない。歴史上でもそれは極々稀な出来事で最後の10の試練をこなしたものは大英雄と呼ばれ、時賭の呪縛から解放され、神々より半全能の能力を与えられたと言われている。最後に10の試練を完走したのは、575年前の出来事であって、それはもう伝説上の出来事である。

真司はベッドを出て朝食の準備をする。出雲牛のジャーキーと雲雀のスープだ。ジャーキーは真司のお手製で、戦闘以外の真司の数少ない特技だ。スープを書き込み、真司は城の廊下に出る。

『よう、謀反人、今日はお前をぶち殺してやるからな。覚悟しろよ。俺が大英雄になったらお前を生き返らせて、もう1度嬲り殺してやる。』

後ろから声がする、声の主は分かっている。柿崎常彦だ。彼は栄誉ある柿崎家の現当主で、神々の豊穣により誕生した天才と言われている。齢は25、背丈は190㎝ほど。黒髪に紅蓮の瞳、端正な顔立ちで、彼に泣かされた女性は数知れない。いけすかない男だが、その評判は紛れもなく事実で、剣を取れば、真司以外の出雲の剣士を一方的に倒し、杖を握れば全部で12階しかない魔法の序列ですでに6階まで使いこなせる。ちなみに3階の魔法を使えれば既に一流の魔法使いである。本物の天才である。

『はい、柿崎様、至らぬ身ながら本日はお相手させて頂きます。』

フンっと鼻を鳴らして常彦は言う。

『お前のその態度が気に入らんのだ。わかっていてやっているんだろ。まあいい、今日は陛下の御前でお前の無能を証明してやる。』

そう言って常彦は早い足取りで去っていった。

常彦と真司の訓練での勝敗は0勝29敗で真司が負け越している。しかし真司は本気で相手はしていない。

立場上、柿崎家の当主である常彦に、真司が本気で剣を振るうことは許されない。常彦は真司の親がある出来事で殺した柿崎常春の息子であり、近衛隊の総隊長でもある。真司は乳児の頃に現在の王に情けをかけられ、生き延び、その剣の才能で近衛隊の隊長まで上り詰めた。常彦は、それが気に入らないのだ。先ほどのように荒々しい口調で話す常彦だが、真司と2人きりの時以外はおおらかで、嘘のように情け深く、近衛隊の兵士からの信頼は厚い。真司の隊の兵士のミスで隊が打撃を受けたときも、それを許し、恩赦を与えた程だ。

正直に言って、謀反人の息子という看板を背負っている真司がどう足掻いても、彼の威光に勝ることは出来ないだろう。兵士の中には、戦うことはおろか、常彦に剣を向けることさえ、非難の眼差しを向けるものもいる。

しかし、真司は国崎家の信頼を回復するため、勝たなくてはならない。少なくとも、国崎真司は試練で勇敢に死んだと、讃えられるような死に様をしなくてはならない。真司は歩きながらそんなことを考えていた。



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