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 大事があるといけないからと無理やり寝床に縫い付けられた昭子あきこ実幸さねゆきが訪ねてきたのは、夕暮れ時だった。


「久しぶりにここに来たよ。君に嫌われていると思っていたからね。恐らく、好かれてはいないだろうけれど」

「小春様から色々話を聞きました」

「そうか」


 実幸は唇にかすかな笑みを浮かべる。


「さっき小春に会ってきてね。怒られてしまったよ。君とちゃんと話をしろ、三十一文字でわかった気持ちになっているんじゃない、ってね」

「まぁ」


 あの子がそんな強気なことを言うとは。


「あの子を見ていると泰子やすこ様を思い出すよ」

「どこがですか」

「そうだな。与えられた環境の中で自分が出来ることを探しているところかな」

「泰子さまほど素晴らしい人がこの世にいるはずがないでしょう」

「これは失礼」


 謝罪の言葉を述べながらも、実幸は喉の奥で笑う。


「恐れを知らないところは、昔の君みたいだ」

「そんなことありません」

「私は君にも小春にも助けられているし、有難いとおもう。同じように、君と小春もお互いに補いながら生きたらもっと楽になるように思った。それが君を傷つけることだとは思わなかった。すまない」


 頭を下げられ、昭子はたじろいだ。


「私こそ、申し訳ありません。実幸様や小春様の気持ちも知らずに」

「君は信じてくれないかもしれないけれど、あの時、君が私の名前を呼んでいるのを聞いたら、駆け出していた。君のことを大切に思う気持ちに変わりはない」


 夏彦なつひこの名前を憶えていたと喜んでいた小春のことを思い出す。

 同時に小春が足を踏み外したとき、手を伸ばした気持ちも思い出した。


 そうか。そういうことなのだ。


「貴女ももう少し周りの人と話してごらんなさいな。簡単に出会えないかもしれないけれど、貴女と心置きなく一緒に居られる人が、きっとみつかるわ。その人を大切になさい」


 昔、泰子に言われた言葉を思い出す。


 気がつくと稜線に日が沈み始めていた。

 夕日の光が部屋に差し込む。

 その朱は不思議と暖かく思えた。

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